光合成の水分解反応初期に水素イオンが放出される仕組みを解明 これまでの定説を覆す結果に
東京大学先端科学技術研究センターの石北央教授と斉藤圭亮講師らの研究グループは、計算機を利用した理論解析により、高等植物や藻類で行われる光合成の水分解・酸素発生反応において、その第一段階である水素イオンの放出反応機構を解明し、今までの提唱とは異なるタンパク質部位から水素イオン放出が起こりやすいことを証明しました。
高等植物や藻類の光合成では、太陽エネルギーを利用して水を酸素と水素イオンに分解する反応が発生光化学系II (Photosystem II ;PSII)と呼ばれるタンパク質で起こります。現在この水分解反応を人工的に行うことで、再生可能エネルギーを太陽光から作り出そうとする試みが着目されています。しかし、これを現実のものとするためには、まだ多くのことが不明である水分解反応の分子機構を解明することが不可欠です。
PSIIの触媒部位 である、Mn4CaO5錯体(Mn:マンガン、Ca:カルシウム、O:酸素)では、水分解反応の過程で、複数段階で水素イオンが放出されます。PSIIが水素イオンを放出するには、通り道である水素イオン移動経路(プロトン移動経路)が必要です。しかし、これまで提唱されていた第1段階反応での水素イオン放出部位と、水素イオン移動経路との位置関係は、X線による結晶構造解析の結果とは矛盾しており、水分解反応のしくみは解明されていませんでした。 今回研究グループは、量子化学計算手法を用いた理論解析により、第1段階反応では、今までの提唱とは異なる、錯体内のO4と呼ばれる部位から水素イオンが放出され、近くにある水素イオン移動経路を通過し、PSII外に除去されることを明らかにしました。
「本成果によって、これまでの実験事実を矛盾なく説明することがはじめて可能になりました」と石北教授は話します。「また、今回の成果は人工光合成の開発や藻類を利用したバイオエネルギーの生産性の向上にもつながることが期待されます」。
論文情報
Energetics of proton release on the first oxidation step in the water oxidizing enzyme", Nature Communications Online Edition: 2015/10/07 (Japan time), doi:10.1038/ncomms9488.
論文へのリンク(掲載誌、UTokyo Repository)