50テスラ超強磁場まで維持される2次元超伝導状態を発見 対称性の破れによって発現した新奇超伝導


MoS2電界誘起超伝導において面直方向に固定された電子対
対をなした電子は、面内の対称性の破れに起因する約200テスラの内部有効磁場によって、層に垂直な方向に固定されているため、層に平行な方向の外部磁場(約50 テスラ)を加えてもその超伝導状態は維持される(下図)。波数空間での電子対の様子を示したもの。結晶構造の対称性から六角形の波数領域で電子対をなす(上図)。
© 2015 斎藤 優
東京大学大学院工学系研究科の岩佐義宏 教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発デバイス研究チーム チームリーダー)、同研究科の斎藤優大学院生らの研究グループは、50テスラ超、という市販のネオジウム磁石の100倍以上強い磁場の中におかれても超伝導状態を保つことのできる2次元構造を発見しました。本成果は、超伝導の新たな分野を切り開く礎となるだけでなく、磁場中で極めて安定な超伝導体を作製する指針となることが期待されます。
超伝導は電気抵抗がゼロになる現象で、消費電力を発生することなく電気を流すことができるため、省エネルギーにつながる次世代の技術として期待され、基礎及び応用的な面から世界中で研究されています。多くの超伝導体では、共通して、スピンが逆方向に向いた2つの電子が対をなす状態が形成されます。そのため、ある大きさ以上の磁場を加えて、スピンを同方向へ整列させようとする力が働くと超伝導が不安定になり、壊れてしまう原因となります。強磁場の中でも安定な超伝導体を設計して製作することは、学術的な中心的課題の一つであり、かつ材料開発における世界的な急務となっています。この課題を克服する候補物質として原子層程度まで厚みを減らした2次元超伝導体が注目されており、実際に様々な形態の2次元超伝導の研究が世界中で盛んに行われています。
本研究グループは、原子膜材料の一種である層状物質・二硫化モリブデン(MoS2)の高品質な単結晶を用いて、原子層1層分の厚さの、極めて薄い、究極の2次元超伝導を人工的に実現しました。この極薄の2次元超伝導体の磁場への耐久性を調べるために、物性研究所・国際超強磁場科学研究施設で約55テスラの超強磁場中における超伝導転移現象を、電気抵抗を測定することにより調べました。その結果、極低温領域の1.5 ケルビン(--271.7度)では、超伝導が維持できる磁場の最大値は約52テスラまで上昇することを発見しました。
研究グループは、さらに、精密な理論計算を行った結果、この超伝導体では電子対のスピンが、層に垂直な方向に極めて強く固定されているために、強磁場中でも超伝導状態が保たれることを突き止めました。これは世界的にも前例にない特殊な超伝導状態がMoS2薄膜で実現していることを示しています。
「反転対称性が破れた原子層1層分の厚さの2次元超伝導体では、面に平行な外部磁場に対して極めて耐久性の高い特殊な超伝導が実現されることが分かりました。今後、この原子層超伝導の特異な超伝導物性や電子対形成機構が明らかになることが見込まれます。」と岩佐教授は話します。
本研究成果は、英国科学雑誌『Nature Physics』(平成27年12月7日オンライン速報版)にて公開されました。
論文情報
Superconductivity protected by spin-valley locking in ion-gated MoS2", Nature Physics: 2015/12/08 (Japan time), doi:10.1038/nphys3580.
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