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博士課程留学生のキャリアビジョンを支える自己認識 女性のみがパートナーの状況を考慮してキャリア選択をためらう傾向

掲載日:2019年3月20日

大学で教育にあたるわれわれは若手研究者のキャリア開発のために何ができるのでしょうか
キプロスでの学会に参加する大学関係者たち。 © 2019 櫻井勇介

大学院総合文化研究科の櫻井勇介特任講師は、ヘルシンキ大学の研究者らとフィンランドの博士課程で学ぶ留学生のキャリアビジョンの形成に影響する要因を探索し、学生自身の自己認識のポジティブな面がより理想的なキャリアビジョンの形成に最も重要な要因となることを明らかにしました。一方で、ますます激化する研究者の就職戦線の理解が将来の自信を喪失させ、キャリアビジョンを不透明にするものとして主に語られました。さらに半数以上の女性がキャリアをイメージする際にパートナーや家族の状況を考慮すると言ったのに対し、男性にその傾向は見られませんでした。

優秀な留学生の獲得は大学の重要課題の一つですが、多様化する留学生に大学として適切な教育機会を提供できているかについての検証はまだかなり見過ごされています。とりわけ、博士課程留学生は正規の在学生であり、科学発展の第一線となる人材であるにもかかわらず、博士課程は自立した研究者として主体的に成長する場であるという理解もあってか、積極的な支援の構築は不十分です。

本研究ではフィンランドの博士課程で学ぶ留学生20名(男女それぞれ10名)の語りを詳細に見ていき、どんな博士課程在学中の経験に基づいて、修了後の自身の職業者人生をイメージするようになったのかを検証していきました。

今回の成果は、新たな環境で学業を極めたいと高い理想を掲げる留学生が、次のキャリアパスについて不安を持ちながらも、自分の信念や興味関心に基づきアカデミックキャリアを理想として日々奮闘している様子を深く記述することができました。一方で、指導教官から研究遂行についての指導は受けているものの、キャリア開発については支援が得られていない現状も確認することになりました。本成果は、博士課程生が高度専門家として多様なキャリアパスを歩むための成長を促す教育支援体制の進展につなげられるものと期待されます。

「若手研究者支援の施策が講じられ始めているにもかかわらず、将来の見通しはなかなか明るくなりません。今回の調査は大学が行う支援が、彼ら留学生の自己認識を肯定的にサポートすることの難しさを如実に表しているような気がします。日本はどうでしょうか。研究室や学会での諸活動のなかで、先輩や教員が高度専門家キャリアの一つでしかない大学教員を優れたものとしたり、博士課程の学生の能力を否定したり、または活用しない空気はないでしょうか。そもそもそういったことを留学生と率直に意見交換できているでしょうか」と櫻井特任講師は話します。「私自身も若手研究者として今だから感じられることを意識しつつ、今感じられない立場からの視点を想像し、この分野の研究を進める中で自己のキャリア開発をしていきたいと思っています」と続けます。

論文情報

Yusuke Sakurai, Viivi Virtanen, Jenna Vekkaila, Kirsi Pyhältö, "International doctoral students’ perceptions of factors contributing to their career visions," Journal of Research in Innovative Teaching & Learning: 2018年10月17日, doi:10.3726/b11212.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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