大型低温重力波望遠鏡KAGRA完成、年内にも共同観測開始へ
東京大学は10月4日、国内外の共同研究機関と共に岐阜県飛騨市で建設を進めてきた大型低温重力波望遠鏡KAGRAの完成を報告する式典を行いました。
重力波は星の爆発やブラックホールの合体など、宇宙で起きた大きな出来事によって生じる「時空のゆがみ」が波となって伝わる現象です。1世紀前にアインシュタインがその存在を予言しましたが、2015年、米国の重力波望遠鏡LIGOが初めて直接観測に成功し、その存在を証明しました。
KAGRAは東京大学宇宙線研究所、高エネルギー加速器研究機構並びに自然科学研究機構国立天文台を共同ホスト機関とした協力体制のもと、国内外の研究機関・大学の研究者と共同で2010年から建設が進められてきました。
重力波望遠鏡は現在、LIGOの2台と欧州Virgoの計3台が稼働中です。KAGRAは、世界で4台目、アジア地域で初の重力波望遠鏡として、2019年4月に始まったLIGOとVirgoの1年間にわたる共同観測に年内にも参加する予定です。KAGRAの参加により、宇宙における重力波の発生源のより正確な特定が可能になり、天文学を大きく前進させることが期待されます。
重力波観測研究施設のトンネル内で開催された完成記念式典では、飛騨市神岡町の延喜式内社大津神社神楽社中による神楽が披露された後、KAGRA研究代表者である梶田隆章東京大学宇宙線研究所長が建設完成について次の様に報告しました。
「プロジェクト開始から9年かけて建設してきたKAGRAがついに完成しました。しかし、KAGRAは完成したばかりで、今後最終的な調整をへて、国際共同観測に参加する予定です。そこでは、国際観測ネットワークとしてのアジア圏での観測拠点の役割を担っていきます。これまで、本当に多くの人の支援を得て、この日を迎えることができました。皆さまには引き続きこのプロジェクトを応援していただきたく思います」。
式典で挨拶した宮園浩平東京大学理事・副学長は、「KAGRAは世界中から優れた学生と研究者が集まる場であり、東京大学として、多様な人々と協力しながらグローバルな場で活躍する『知のプロフェッショナル』の育成に貢献したい。同時に、KAGRAを拠点として、今後、東京大学における物理学や天文学の教育研究をより広く深く推進していきたい」と述べました。
完成記念式典の後、会場を富山市内のホテルに移し、記者会見およびLIGO、Virgoとの研究協定調印式が行われました。会場には約40名の記者が詰めかけ、KAGRAの技術的革新性や重力波天文学への貢献について多く質問がありました。
研究協定調印のため来日したLIGOのDavid Reitze研究代表者は、KAGRAの国際重力波観測ネットワーク参加を歓迎しました。
「重力波望遠鏡は非常に繊細なので、常に稼働することができないのです」とReitze氏は述べ、KAGRAの参加により、ネットワーク全体で重力波を検出し分析する能力が向上する、と語りました。
KAGRA完成式典に先立ち神楽を披露する地元飛騨市神岡町の延喜式内社大津神社神楽社中の子どもたち
写真左から:富山市のANAクラウンプラザホテル富山で共同研究協定に調印したVirgoプロジェクト代表のJo van den Brand氏、KAGRA研究代表者の梶田隆章宇宙線研究所長、LIGOプロジェクト代表のDavid Reitze氏
Virgo研究代表者のJo van den Brand氏も、 KAGRAとの共同研究に期待を示し、「共同研究協定の重要な部分の一つは、知の協力です。この協定により、日本から重力波天文学に貢献するすべての研究者の力を結集することができるようになります」と述べました。
今回調印された研究協定は、科学的な協力や重力波の共同観測について定められています。LIGOとVirgoの間で以前締結された協定に取って替わり、2023年9月30日まで継続されます。