恋の相手は遺伝子で決まる カイコガにおける性行動の種選択性の仕組みを証明

10万種以上もの豊かな多様性を持つ蛾類のオスは、様々な種のメスの中から同種のメスを見つけ出すことができます。それは、オスの触角にあるフェロモン受容細胞で発現する性フェロモン受容体が、驚くほどの高感度で同種のメスが分泌する性フェロモンだけに反応するからです。
興味深いことに、触角の受容体の反応だけでなく、実際の性行動(性フェロモン源への移動と交尾の試み)も同種のメスの性フェロモンに対してのみ起こります。そのおかげで他種との交雑を防いで種を維持できるのです。しかし、受容体と性行動の関係ははっきりしておらず、一体何が蛾類の性行動のフェロモン選択性を決めているのかわかっていませんでした。
東京大学先端科学技術研究センターの櫻井健志特任助教、神崎亮平教授らは、カイコガの性行動のフェロモン選択性が、性フェロモン受容細胞で発現するフェロモン受容体BmOR1の選択性だけで決められていることを初めて証明しました。
研究グループはカイコガに遺伝子組換えを施し、フェロモン受容細胞に、他種の蛾(コナガ)の性フェロモン受容体PxOR1を発現させました。すると、遺伝子組換えカイコガのオスは、コナガのメスに対して完全な性行動を起こしたのです。
本研究成果は、たったひとつの遺伝子の変異によって、オス蛾の行動が変化してしまうことを意味しています。昆虫の種分化の機構解明に関わる大きな成果であるだけでなく、人為的に選択性を操作することにより、被災地における人命救助や空港での麻薬発見等に役立つ高感度の匂い探知センサ開発に繋がる成果です。
本研究は農業生物資源研究所、福岡大学、慶應義塾大学との共同研究として実施されました。
論文情報
T. Sakurai, H. Mitsuno, S. S. Haupt, K. Uchino, F. Yokohari, T. Nishioka, I. Kobayashi, H. Sezutsu, T. Tamura, R. Kanzaki
“A Single Sex Pheromone Receptor Determines Chemical Response Specificity of Sexual Behavior in the Silkmoth Bombyx mori”
PLoS Genet 7(6): e1002115. doi: 10.1371/journal.pgen.1002115
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