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良い社会のためのESG投資とSDGs |  総長室だより~思いを伝える生声コラム~第12回

掲載日:2018年7月31日

東京大学第30代総長 五神 真

良い社会のためのESG投資とSDGs
 

 先月号では、デジタル革命が進む中で、人類社会を良くする駆動力を大学が中心となって生み出すべきという話をしました。科学技術の革新、社会システム、経済メカニズムの3つを連携させ、高いビジョンを共感しつつ協働する場をつくる。そこに多くの人々が参加するためには経済メカニズムの駆動が重要です。

 知や情報が価値創造の源泉となる知識集約型社会では、高度な知と技とそれを支える人材が集まる大学こそが、産業創出の場となりうる。総長室には世界から様々な経営者や投資家が訪れます。東大が蓄積する日本独自の学術や文化や最先端技術を投資の対象と感じているのでしょう。しかし国内では大学への投資の気運が、欧米や中国、韓国に比べ、高いとは言えません。

 そもそも日本にはリスク投資文化が定着していません。企業の売上高に対する株式時価総額をみると、日本が強みを有する大手製造業で1倍未満。アリババなど、中国のIT系有力3社の平均は16.6倍です。世界では、ビジョンや社会課題解決のアイディアへの期待感で投資が集まり、それが経済を動かす産業成長の仕組みが機能しています。一方、日本は、20年前に銀行が機能不全に陥った金融危機とその後のデフレで、銀行の融資行動はより保守的になり、また人々もお金をより安全な貯蓄に回すことが習慣化しました。資本集約型に向かう高度経済成長期は成長の道筋が明確で、手堅い融資が堅実な成長を支えました。しかし変革期では見えない未来への果敢な投資が勝負。成長のためにリスク投資の文化を醸成し、ベンチャーなど新しいチャレンジを力強く応援する仕組みが必要なのです。

 一方、成熟した企業では、ESG(Environment, Social, Governance)投資が鍵となります。年金運用など長期リターンを確実に確保する際、財務情報だけでなく、環境問題など社会課題への取り組みを評価する投資手法です。国連は資本主義をより健全なものとする視点で2006年に「責任投資原則」を提唱しています。現在では多くの投資家へと広まり、企業はこれに対応することで事業機会を増やし、長期的な成長に繋がると意識しています。経団連が企業行動憲章にSDGsを取り入れたこともそのあらわれです。

 東京大学の未来社会協創推進本部(FSI)における企業との連携はこの新たな資金の動きに整合します。東大と連携してSDGsに取り組むことは、ESG評価向上に繋がり、企業が東大と組むメリットが生まれるのです。FSIを通じ、より多くの投資が大学や企業に循環する仕組みを創っていくことは、資本主義をより良い方向に向けることにも繋がると期待しています。

「学内広報」1512号(2018年7月25日)掲載

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