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能登半島地震と日本海側地域の断層──地形・地質・構造調査から分かること

掲載日:2024年5月21日

2024年1月1日に石川県能登半島で発生した地震では、最大震度7が観測され、沿岸部の海底が隆起しました。なぜ能登半島で大規模な地震が発生したのか、地形・地質・構造調査を行う地震研究所日本列島モニタリング研究センターの石山達也准教授に聞きました。

海岸隆起

輪島市門前町五十洲漁港(4.1m隆起)で見られた海岸隆起(2024年1月4日撮影)出典:石山ほか(2024b)東京大学地震研究所〈*註1〉

日本列島誕生にさかのぼる能登半島の地形

―― 能登半島の地形の特徴を教えてください。

今回の能登半島地震では、地震前と地震後の海岸地形を比較すると、地盤の隆起によって海岸や漁港が干上がったことが特徴的でした。また、いくつかの地点では海岸線が数百メートル前進していることが分かります。地震後の調査では、一番激しいところで4~5メートル程の隆起が確認されました。

隆起
2024年能登半島地震に伴う海岸沿いの隆起量分布
藻類の種類と群集の分布高度等から地震時の海岸隆起量の計測を半島北部の75地点で実施
(安江ほか(2024)日本地理学会〈*註2〉より作成)

奥尻島、男鹿半島、佐渡島、能登半島などが位置する日本海側地域は、これまでも地殻活動が激しく、地震活動が活発な地域として知られてきました。なかでも多くの断層に囲まれた能登半島は、とりわけ地殻活動が活発です。能登半島には、12万年以上前の海岸地形が標高100メートル以上の高い位置にある「海成段丘」と呼ばれる地形がみられます。これにより、過去十数万年のあいだに100メートルほどの隆起(平均すると毎年およそ1ミリメートル)を続けてきたことが分かっています。これは他の地域と比べてかなり速いスピードと言えます。

日本海側地域で地殻活動が激しい理由については、解明されていない点も多くありますが、日本列島の成り立ちにさかのぼって考える必要があると思います。およそ2000万年~1500万年前、ユーラシア大陸から数百キロメートル引き裂かれて日本列島が形成されました。日本海が形成されたこのときの変動は、日本海拡大(英語ではSea of Japan Opening)と呼ばれています。日本海拡大のメカニズムについては諸説ありますが、その過程で大きく引っ張り力を受けたため、日本海沿岸には多くの断層が集中しています。日本海拡大の“古傷”であるこれらの断層は、現在では太平洋プレートなどの沈み込みによって東西に圧縮する力を受けており、そのために動きが活発だと考えられます。

―― これまで能登半島で、大規模な地震が起きた形跡はあったのでしょうか?

海岸線を丹念に観察すると、およそ数千年間で、海岸線が断続的に隆起をしてきた痕跡があります。また、海岸付近に棲むゴカイ類の痕跡が通常よりも高い位置に残っていることから、過去に地震が起きていたであろうということも分かっていました。しかし、陸域では、今回の能登半島地震に匹敵するような大規模な地震が起きた明確な証拠はこれまで見つかっていませんでした。

これまで日本列島の陸域で起きたマグニチュード7規模の地震のほとんどは、単独の断層あるいはいくつかの断層が連動して破壊して発生したものでした。また、これまで日本海側では、積丹半島沖地震(1940年)、新潟地震(1964年)、日本海中部地震(1983年)、北海道南西沖地震(1993年)など、マグニチュード7後半の地震が起きていますが、これらの多くの震源は沖合でした。つまり、地震による被害の主たるものは津波でした。

ところが今回の能登半島地震は、陸地と海域にまたがって位置する断層が破壊する「海陸境界地震」であったため、津波と強震動が同時に発生することになり、人々が生活する陸地で大きな被害が出てしまったのです。

把握が難しい「海陸境界地震」

―― 海陸境界地震にはどのような特徴があるのでしょうか?

説明

陸上の活断層は、過去の大地震の痕跡が比較的残っており、実際に現場で掘削調査などの方法で大地震の発生時期や規模を調べることができます。過去の地震に関して書き残された史料が残っていることもあります。一方で、日本海で過去に発生した地震に関する情報は、陸上の活断層や南海トラフ、日本海溝の巨大地震に比べてきわめて少ないと言えるでしょう。そもそも活断層の活動についての地形・地質記録は不完全であることが多く、解明されていないことが多くあります。さらに海域での調査は陸に比べてコストが大きく、容易ではありません。

普段、漁業活動が行われているような海と陸の境界では、なおさら調査が困難になります。浅い海では、地震計を設置しても潮流によるノイズが発生してしまうため、記録が取りにくいという特徴もあります。また、地震による隆起が激しいと、地震の痕跡が浸食されてしまう場合があるため、ますます過去の地震や地殻変動についての証拠が残りにくくなります。

―― 発災直後に現地入りされ、調査を続けてこられました。調査の目的はどのようなものでしょうか?

調査
地震によって離水した波食棚とテトラポット(輪島市輪島崎町竜ケ崎、2024年1月14日
出典:石山ほか(2024d)東京大学地震研究所〈*註3〉

今回の地震が起こる前から、地下構造探査や変動地形調査のプロジェクトで、富山大学、岡山大学、信州大学などの研究者たちと一緒に能登半島を訪れて調査を進めてきました。今回の地震では、雪や土砂崩れですぐに立ち入れない地域もありましたが、富山大学のメンバーが車を手配してくれ、1月3日に現地入りしました。発災後すぐに現地入りして、浸食や復旧工事などで痕跡が消えてしまう前に、地震が起きたときに海岸地形がどのように変化したのか、調査して記録をとる必要がありました。

政府が行っている地震の長期予測では、地形・地質学や歴史資料などから、過去数千年間の大地震の時期や規模を推定し、そこから今後30年間に地震が起きる確率を推定しています。一方で、私たちが地形地質学的に得られる痕跡は、ピースの欠けたパズルのように不完全なことが多いのです。実際に地震が起きたとき、これまでどのように海岸が変化し、それが数百年後にどのような姿になるのかを理解することで、欠けたピースを埋める努力をすることが非常に重要です。今回の地震も含めて、さまざまな規模やパターンの地震活動を把握することで、より現実的な地震像が推定できるようになります。能登半島地震は、他の海陸境界地震や断層の理解にもつながる重要な実例となるでしょう。

今回の地震で被災された方々、関係者の方々に、心よりお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復旧をお祈りいたします。少しでも多くの過去の地震の資料を集め、地震現象の理解と将来の地震災害への備えに繋がればと考えています。

〈*註1〉石山達也・廣内大助・松多信尚・立石 良・安江健一(2024b)令和6年能登半島地震(M7.6)で生じた海岸隆起【速報その2】東京大学地震研究所
〈*註2〉安江健一・立石 良・石山達也・松多信尚・廣内大助・白濱吉起(2024)令和6年能登半島地震に伴う海岸変化.『緊急シンポジウム令和6年能登半島地震プログラム及び予稿集』p.11. 日本地理学会能登半島地震災害対応本部.
〈*註3〉石山達也・立石 良・安江健一(2024d)令和6年能登半島地震(M7.6)で生じた海岸隆起【速報その4】東京大学地震研究所

 
Prof.Ishiyama

石山 達也
地震研究所日本列島モニタリング研究センター准教授

京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻博士後期課程修了、博士(理学)。(独)産業技術総合研究所・活断層研究センター 研究員、東北大学大学院理学研究科地学専攻助教、2011年より地震研究所地震予知研究センター助教、同准教授を経て、2024年より 現職。共著に『第四紀逆断層アトラス』(2002年、東京大学出版会)、共著論文にIshiyama, Tatsuya, et al. “Structures and active tectonics of compressionally reactivated back-arc failed rift across the Toyama trough in the Sea of Japan, revealed by multiscale seismic profiling.” Tectonophysics 710 (2017): 21-36.などがある。

取材日:2024年4月4日
取材:寺田悠紀、ハナ・ダールバーグ=ドッド

 

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