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1994年からサステイナビリティに取り組む大学として |GXと東大 01|大久保達也理事・副学長の巻

掲載日:2022年10月14日

このシリーズでは、GX(グリーントランスフォーメーション)に関する東京大学の取り組みを、キーパーソンへのインタビューを通して紹介します。持続可能な社会を地球のキャパシティの枠内で実現するための変革に向けて、東京大学は動き始めています。

UTokyoGXlogo

2022年10月にできたUTokyo Green Transformationのロゴ。東大のシンボルであるイチョウの葉が回転して混ぜ合わさり、グリーンが現れる様子を表現したものです。イチョウが原型を残しながらも変化していく姿は、GXにかける積極的姿勢も表しています。

 

いち早くサステイナビリティに着目した大学

 「実は、東大は世界で最初にサステイナビリティに注目して活動を始めた大学なのです」
 そう話すのは、大学のGX推進のリーダーを務める理事・副学長の大久保達也先生です。その直接的な端緒となったのは、1994年発足のAGSという取り組み。アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)、スイスのスイス連邦工科大学(ETH)、そして日本の東京大学が手を組んで始めたAlliance for Global Sustainabilityです(2001年にスウェーデンのチャルマーズ工科大学も参加)。これが世界の大学におけるサステイナビリティ関連の初めてのアクションだったのではないか、と大久保先生は振り返ります。
 「エネルギーを使うことで発生したCO2が地球環境全体に影響を及ぼすという温室効果ガスの問題が顕在化したのが1980年代後半でした。その動きに呼応する形で、1991年に地球環境工学研究共同体が工学部に生まれました。代表はローマ・クラブのメンバーを務めた茅陽一先生で、当時若手として代表を支えたのが小宮山宏先生や松尾友矩先生。そうした活動を背景に、東大が海外2大学に声をかけて生まれたのがAGSでした」

Ookubo
大久保達也理事・副学長  

 1994年にMITで行った国際ワークショップを皮切りに、AGSは46回の国際会議と30回の国内会議を重ね、現在は未来ビジョン研究センター(IFI)が運営を承継しています。
 また、1998年に新しい大学院研究科として発足した新領域創成科学研究科では、三本柱の一つに環境学が据えられました。2005年には総長室総括委員会の下にサステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)が発足(2019年に政策ビジョン研究センターとともにIFIに改組)。2008年には持続可能なキャンパス実現を目指すサステイナブルキャンパスプロジェクト(TSCP)を開始。「国連大学とともに国際学術誌『Sustainability Science』を2006年に立ち上げたのもIR3Sでした。最近世間の注目が高まったから流れに乗った、という類いのものではないんです。多くの先達の尽力があり、その上に今日の活動があります」。こういった背景をもとに、東大は2021年に国連の大型キャンペーン、Race to Zeroに参加しました。

 

1993年から環境問題に取り組む学生団体も

 研究者だけでなく、学生も重要なステークホルダーとしてサステイナビリティの活動に関わってきました。1993年設立の学生団体「環境三四郎」はその嚆矢といえる存在です。環境問題は社会問題の一つだとの視点を持ち、身近な駒場池(一二郎池)を舞台にした啓発活動や小学生と環境問題を話し合うプロジェクトなどを続けてきました。TSCPでは2015年に学生委員会を立ち上げ、最大の利用者という立場から持続可能なキャンパスを実現するために貢献してきました。そうした中で育った学生の中には、いま東大のGX推進の立役者として活躍する教員も少なくありません。
 「未来社会協創推進本部(FSI)の学生GXイニシアティブで学生との連携を進めている杉山昌広先生は環境三四郎の主要メンバーの一人でした。Race to Zeroに対する報告書「UTokyo Climate Action」をまとめている菊池康紀先生はAGSの中で成長した若手の一人でした。いまでいうGXの活動に学生が積極的に参加してきた歴史が東大にはあります」
 2050年までのCO2排出実質ゼロを目指すRace to Zero。海外では多くの大学が参加していますが、日本ではまだ千葉商科大学と東大だけ。後が続かないのは、我が国の環境に対する社会的認知が弱いことと、目標の実現が非常に難しいことが理由だろう、と大久保先生。だからこそ、達成できれば社会への重要なメッセージになる。昨年公表した行動指針「UTokyo Compass」でGXを大きく掲げたのにはそうした思いが込められていました。思いの実現に向け、東大は今春、FSI本部の下にGX推進分科会を設け、グローバルコモンズ、キャンパスGX、学生GXイニシアティブ、GXコミュニケーションという4つのタスクフォースを設置。事務組織としてGX推進課も新設しました。
 「体制は整ってきましたが、達成は簡単ではなく、担当理事として大きな責任を感じています。ネットゼロ(温室効果ガスの排出量を差し引きゼロにすること)は地球全体で達成しないとだめで、東大だけが目標を達成しても、地球規模では大きな貢献になりません。ただ、東大が目標を達成することで、社会が変わり、行動変容が促進されれば、一般家庭や社会全体の排出量も大きく変わるでしょう。必要なのは、私たちの行動がどれくらいCO2を排出しているかを把握すること。そのための仕掛けを作りたいんです」

学食のメニューにCO2排出量を表示する試み

 たとえば、東大生協の学食ではメニューごとにカロリーや栄養素が表示されていますが、それのCO2版を用意するのが仕掛けの一つ。料理を作るのに排出されたCO2の可視化が進み、海外からの食材調達には多くのCO2が必要だと実感できれば、国内食材を使った料理を選ぶ人が増えるかもしれません。様々な困難があるかもしれませんが、実現に向けた議論が始まっています。この試みの前提となるライフサイクルアセスメント(LCA)の研究も喫緊のテーマです。GXに直接関わる研究体として、エネルギー総合学連携研究機構気候と社会連携研究機構が始動していますが、さらにLCAに関する連携研究機構も設立の準備が進んでいます。
 教育活動では、この10月から学術フロンティア講義としてGXをテーマにした授業が始まりました。全学で行われているGXに関係する講義を共通科目として可視化し、全ての学生が履修しやすくする仕組みづくりも進めています。博士課程の学生600人を支援してGXを先導する人材として育成するSPRING GXプロジェクトも進んでいます。地域連携では、文京区内の4大学(東洋、日本薬科、お茶の水女子、日本女子)とGXを軸にした提携を始め、12月にキックオフのシンポジウムを開催する予定です。
 「まずはCO2に着目していますが、東大のGXはCO2だけのものではありません。地球の持続を考えれば、CO2削減は最低の条件ですが、生物多様性の問題をはじめ、課題は山積しています。総合大学のGX担当理事として、地球のサステイナビリティのためにあらゆる努力を続けていきます」
 研究活動でも教育活動でも社会連携活動でも、ありとあらゆる分野で活動を積み重ねてきた総合大学の力が、GXという地球規模の取り組みにおいても試されます。

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