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ペットの声を聴く行動診療で人と動物をよりなかよしに | 広報誌「淡青」37号より

掲載日:2018年10月23日

ペットの声を聴く行動診療で

人と動物をよりなかよしに

東大の動物病院には、内科や外科のほかに行動診療科という科があります。ペットの問題行動に悩む飼い主の話を聞き、話ができない動物の声を想像して解決策を探る現場です。動物行動学の専門家たちは、動物と話せるようになるという魔法の指環を探しているのです。

猫と動物行動学

武内ゆかり
Yukari Takeuchi
農学生命科学研究科
教授

森先生による猫の行動診療事例解説(出典:『ソロモン王の指環を探して 森裕司先生追悼画集』)。

武内先生は、農学生命科学研究科の獣医動物行動学研究室を率いる一方、附属動物医療センターの行動診療科で問題行動を起こすペットの診療に携わっています。行動診療科とはあまり聞き慣れませんが、たとえば猫の問題行動とはどんなものなのでしょうか。

「噛み付きや引っ掻きなどの攻撃行動のほか、多いのは排泄のトラブル。基本的には猫砂があればそこにしますが、中にはそうしない猫もいます。嫌いな猫砂に変わったとか、外を野猫が通ったのが見えて怖いとか、多頭飼いで他の猫が使った砂が気に入らないとか、理由は様々。飼い主が記入した9枚の質問票と1回2時間程度かける面談などでその理由を探り、解決策を提案します」。

室内飼いが増え、人と動物の関係性がより重要になった現在、問題行動に悩む飼い主には頼みの綱となる行動診療科ですが、日本では数が少なく、大学の動物病院にあるのは東大を含めて2 例だけ。そもそも日本の猫の飼い主は欧米ほど頻繁には動物病院に行かず、我慢すればすみそうなことは我慢しがちです。「ただ、以前、飼い主の話を聞いて猫砂を置く位置を変えるようアドバイスしたら覿面に問題が解決して喜ばれたことがあり、コンサルテーションの重要さを実感しました。いつも近くにいる飼い主には当然すぎて見えなくても第三者には見えることがあるんだな、と」。

小学生の頃にマルチーズに噛まれたのを機に、動物の心がわかる獣医になろうと決めた武内先生は、動物行動学研究室の助手時代に行動診療の潮流を知ろうと米国に留学。帰国後の2000年、研究室の森裕司教授とともに日本獣医動物行動研究会を立ち上げ、行動診療の普及に努めてきました。その甲斐もあって、獣医教育の必修カリキュラムに動物行動学が加わり、2013年には研究会の行動診療認定医制度も開始。森先生の後を継いで会長を務める武内先生は、しかし、自分のような存在を増やしたいわけではない、といいます。

「大学の動物病院のような特別な場にいる行動診療医よりも、行動診療のことも理解する町の獣医が増えることを願っています。そのほうが、より多くの飼い主が動物となかよくなれると思うので」。

動物行動学の世界には、はめれば動物と話せるという指環の伝説があります。武内研究室のロゴマークには、この指環をはめたソロモン王と動物たちが描かれています。作者は2014年にこの世を去った森先生。その魂は、指環探しの航海を続ける研究室という船のあちこちに今も息づいています。

 

伝説の指環をモチーフにした 動物行動学研究室のロゴマーク。

教えて武内先生ネコの行動Q&A

毛布をもみもみするのは
なぜ?
子猫の頃にお乳を出そうと母親の乳房をもんでいたことを毛布の感触から思い出しているようです。リラックスの証といえます。
夜中に大運動会をするのは
なぜ?
ネズミなどは夜行性ですが、猫は薄明薄暮性(日の出と夕暮れの頃に活動)。時計でなく明るさで判断するので、室内では消灯後の夜中に動き始める性質があります。
ごはんに砂をかける仕草をするのは気に入らないから? 自分の排泄物を隠すのと同じで、においで敵に見つからないように隠していた名残です。ごはんが気に入らないからではありません。
散歩させなくても太らない? 猫は基本的に満腹になると食べるのをやめます。犬のように食いだめをしないので、散歩に行かなくても普通は太りません。
小さい箱に入りたがるのは
なぜ?
安心したいから。木のうろや草の茂みで眠った祖先の名残。体が柔らかいので狭いところにいても窮屈には感じないのでしょう。
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武内先生の著書
『イヌとネコのふしぎ101』(偕成社/2016年刊)

My Cat

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留学時に保護施設から引き取った「ユッチ」。体重7kgの「アメリカおばさん」に成長し、PCに向かう武内先生を邪魔していたそう。

 

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