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猫ブームの理由 飼い主との間にある独特な関係性とは?| 広報誌「淡青」37号より

掲載日:2018年11月6日

飼い主との間にある独特な関係性とは?

猫ブームの理由

少子化の進展、犬と比べた場合の飼いやすさ、いわゆる「SNS映え」……。 猫ブームの理由として様々な指摘がされています。 セクシュアリティや人口減少を論じる一方で20年以上も猫を愛してきた社会学者が、 中でも鍵を握ると踏んでいる理由について解説します。

猫と社会学

赤川学/文
Manabu Akagawa
人文社会系研究科
准教授

このところ空前の猫ブームである、らしい。

日本人の犬猫の飼育数(約2000万匹)が15歳未満の子どもの数(約1600万人)を越え、空前のペットブームだと騒がれたのが2015年頃。近年は猫と犬の飼育数がほぼ同じになり、SNSでも愛らしい猫の画像や動画が人気を博している。

長年猫を飼ってきた身の上としては、「猫が可愛いのは、あたりまえ。やっと時代が追いついてきた」と言いたいところだ(笑)。しかしペットブームや猫ブームの背景には、やはりそれなりの社会の変化がありそうだ。

たとえば筆者が20数年前に猫を飼い始めたとき、「ペットも家族の一員」というような言い方は、まだ一般的ではなかった。家族を研究する専門の学会でも、「ペットは家族かいなか」が大真面目に論じられていた(反対意見も強かった)。だがいまでは「ペットは家族ではない」などといえば、他人から白い眼でみられてしまう。

これは家族の定義(境界設定)をめぐる人々の意識が変化し、愛情やケアの感情があるかぎり、ペットも家族であると人々が考えるようになったからである。なぜそうなったのか。

たとえば少子化が進んで、家族と呼べる人の数が減り、愛情を投射する対象が必要になったという面はあるだろう。また、共働きと都心回帰が進む現代日本では、猫は犬よりも鳴き声が小さく、毎日の散歩も必要ないので、飼いやすいという面もあるに違いない。

ただ個人的には、天寿を全うすれば20年近く一緒に過ごすことになる、猫と飼い主との独特の関係にこそ、猫ブームの鍵があるように思われてならない。

猫はそもそも自立心の強い動物であり、犬のようには懐かない。飼い主がどれだけ愛情を注いで世話したつもりでも、愛情を返してくれるとは限らない。なかには一生、懐かない猫もいる。

飼い主は、愛情とケアを猫に一方的に注ぐだけだが、それもまた楽しい毎日である。そんな日々だからこそ、猫がたまに飼い主に甘えてくれたとき、無上の喜びを感じることができる(実のところ猫は勝手に甘えているにすぎないが…)。もしかしたら現代社会では猫と人間のあいだにしか、このような「見返りのない愛」は成立していないのではないか。

 

 

また生まれて間もない猫を飼い始めた場合、猫と人間の関係性や役割も徐々に変化していく。飼い始めた頃は赤ん坊のようだが、すぐに成人して娘(息子)、愛人、妻(夫)のような関係となる。ときにはひとりごとの相談相手ともなってくれる。そして10歳をすぎると、老いと病を看取る老親のような存在になっていく。人間同士だと、さすがにこうはいかない。わずか20年足らずのあいだに関係や役割が変化し、重層化するからこそ、猫はどこまでもいとおしく、かけがえのない存在となる。

それゆえ、死に別れの悲しみや喪失感(いわゆる猫ロス)は、想像を絶するものがある。実際、7年前に愛猫・にゃんこ先生を看取ったとき、筆者も数年間、抜け殻のような人生を過ごした。筆者の周辺でも、猫ロスの辛さを忍んでいる人が複数存在している。

してみると、猫と人間の関係性は人類史上もっとも深まっているのではなかろうか。いずれ人間との愛情や別れの辛さより、猫とのそれのほうが大きくなる人たちが登場するかもしれない。

筆者自身は、最近ようやく猫ロスから脱却し、3 匹の猫を飼い始めた。この子たちを看取るまでは死ねないな、という決意を新たにした。これはほんの一例に過ぎないが、猫が飼い主に生きなおす勇気をも与えてくれる時代が到来したように思われる。

 
My Cats
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白黒ブチの「雪」

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サバトラの「あかり」

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黒キジトラの「ばん」。

あかりとばんは保護猫として受け入れたときの名前を継承したもの。

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