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エスノグラフィーで描き出す在日ロシア人女性の人生模様 | ゴロウィナ・クセーニヤ | UTokyo 30s No.9

掲載日:2019年11月26日

やらいでか!UTokyo サーティーズ
淡青色の若手研究者たち

約5800人いる東京大学の現役教員の中から、30代の元気な若手研究者を9人選びました。職名の内訳は、教授が1人、准教授が2人、特任准教授が1人、講師が1人、特任講師が1人、助教が3人です。彼/彼女らは日々どんな研究をしているのか、そして、どんな人となりを持っているのか。その一端を紹介します。(広報誌「淡青」39号より)
※2019年9月10日現在での30代を対象としています。

文化人類学

エスノグラフィーで描き出す在日ロシア人女性の人生模様

ゴロウィナ・クセーニヤ
GOLOVINA, Ksenia
総合文化研究科特任准教授
写真
ロシア語の授業でも使う21 KOMCEEにて。姿勢のよさはバレリーナだった祖母君譲りです 写真:貝塚純一

ロシアの少年少女合唱団の一員として来日した13歳の少女は、公演のために巡った日本の各地で特別な印象を抱きました。ソ連時代の空気が残る社会で育った目には見るもの全てが色合い豊かで、人々も優しく感じられたのです。その感触を胸に、サンクトペテルブルク国立大学で日本語を専攻。名古屋大学へ語学留学した頃に惹かれたのは、人形浄瑠璃でした。次第に見るだけでは物足りなくなったクセーニヤさんは、雑誌で見つけた女性だけの人形浄瑠璃団「乙女文楽座」に弟子入り。外国人では初の試みでした。

「お金がないので名古屋から大阪まで鈍行で3時間半かけて通い、稽古をつけてもらいました。外から見ているだけではわからないことを学びたかったんです」

入り込んだ現場に1年間身を置いた成果は、帰国後に文楽研究の卒論に結実。フィールドワークの妙を実感した彼女が次に入り込んだのは、駒場で文化人類学を牽引した船曳建夫先生の研究室です。指導を受ける中で新しい対象に選んだのは、在日ロシア人コミュニティ。日本人と結婚したロシア人女性の人生を描き出すことでした。

「計70人にインタビューを行い、移住と結婚を決めた理由、現在の様子、将来の夢に至るまで、ライフクラフティング(人生作り)のプロセスを考察しました」

紅茶を飲みながら腹を割って話すロシアの伝統も取り入れた調査は、国際結婚のパターン、高年齢男性への期待、夫婦生活に求めることの男女差にも言及し、門外漢にも興味深いものに。移住と結婚という人生の一大行事の現実を描く博士論文は、学位と著書をクセーニヤさんにもたらしました。さらにはもう一つの研究テーマも。

「調査で自宅を訪れることが多く、住居とそこにある様々なモノに惹かれました。たとえば、手作りの造花は、女性が産業の周縁部に追いやられた歴史を表すかもしれない。使わなくなったコタツは、怠けがちな人にはあまり価値を認めないロシア人気質の表れかもしれない。近年は、住まいにあるモノから社会を考える物質文化の研究を進めています」

データを定量的に分析して何らかの法則性を導くより、現場に入り込むことで見えてくる社会現象をストーリーとして記述する民族誌のやり方に魅力を感じるというゴロウィナ先生。研究室には日本人の夫君のために買ったという腕時計が飾ってありました。

「ロシア製品の優秀さを見せたいと思ったんですけど、使いにくかったみたいで、結局ここに......」

母国の時計産業の問題を表すというよりは、成功した国際結婚の一例を記述するストーリーだと解釈すべきでしょう。


 

研究室には乙女文楽の師匠・吉田光子さんとの一枚も
Q & A
休みの日のお楽しみは? 「インタビュー音声を聴きながらジョギング。頭が活発になります」
最近面白かった文化人類学の本は? 「Jason De León “The Land of Open Graves”。メキシコ移民の話です」
好きなロシア語を教えてください? 「Делай день (デェーライ デェーニ:その日を作れ)。母の口癖でした」
上の世代といまの30代を比べると? 「父も研究者でしたが、いまよりゆっくりしていたと思います」
ゴロウィナ先生の著書
『日本に暮らすロシア人女性の文化人類学』(明石書店/2017年3月刊/7200円+税)

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