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キャンパス散歩「北の国から」や総長室とも深い縁 年間気温差50度超の北海道演習林 | 広報誌「淡青」40号より

掲載日:2020年8月18日

キャンパス散歩 第37回

「北の国から」や総長室とも深い縁 年間気温差50度超の北海道演習林

鎌田直人
農学生命科学研究科附属演習林
北海道演習林長/教授
http://www.uf.a.u-tokyo.ac.jp/hokuen/index.html
北海道演習林の植生(樹海)

北海道演習林(以下、北演)は、「北海道のへそ」で知られる富良野市にあり、十勝岳連峰の南西部に位置しており、西には夕張山地の雄姿を望む風光明媚な環境にあります。夏の最高気温は30度以上、冬の最低気温はマイナス20度以下になり、年間の気温差は50度以上にもなります。北演の主な植生は針葉樹と広葉樹が混ざった針広混交林です。

北演は、富良野市のほぼ3分の1にあたる約22700ヘクタールの森林を管理しています。JR山部駅から国道38号線を横切ってまっすぐ進んだつきあたりに事務所があります。事務所には約60人規模の講義室のほか、長期滞在室・短期滞在室があり外部からの研究者や学生が研究のために使えるデスクスペースがあります。これらの利用者が安価で滞在できるように、事務所の隣には、古い職員宿舎を改造した自炊の宿泊施設があります。また、事務所から徒歩5分程度の距離に、やはり職員宿舎を改造した山部国際宿泊施設があり、1ヶ月以上の長期に滞在する人が利用できるようになっています。

JR根室本線山部駅駅舎
images 山部事務所
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山部事務所講義室
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山部国際宿泊施設

麓郷地区には賄い付きのセミナーハウスがあり、こちらはおもに学生実習・サマースクール・研究室ゼミなどに利用されています。セミナーハウスの隣には、旧麓郷事務所の建物を移設して改造した森林資料館があります。資料館内には、現在はほとんどみられないような大径木の材鑑標本のほか、岩石標本、各種生物標本が展示されています。植物の押し葉標本も保管してあり、現在、外部の研究者も利用できるようにインターネットで検索可能なデータベースの整備を進めているところです。また、森林資料館の自慢のひとつは、北演産ウダイカンバの突板を張り合わせた壁でできている講義室です。学生実習の講義や市民講座で使われますが、ウダイカンバのほんのり赤みを帯びた色合いが温かみを感じさせる高級感あふれる風合いを醸し出しています。北演産ウダイカンバの壁材は、東京大学の本郷キャンパスでも、総長室のほか、いくつかの部屋の内装に使われています。ぜひ、研究室のゼミなどで利用されてはいかがでしょうか?

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セミナーハウス
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森林資料館
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ウダイカンバの丸太

北演が設置されたのは19世紀最後の年、富良野の開拓が始まったわずか2年後の1899年です。北海道の原生林を開拓して農地を造成し、一大食料生産基地を作るのが国策だった当時、大学に農場や演習林として北海道の原生林を与え、教育・研究はもとより開拓の一翼を国策として大学に担わせていたのです。北演も約6000ヘクタールの原生林を農地に転換し、戦後の農地解放までは農場経営も行っていました。伐採した木材は大学の収入として東大の財政にも大いに貢献しました。また、戦時中には軍部からの木材供出の要請もあり、それなりに対応していたようです。これらの開拓や小作人の歴史が、1981年の開始から20年以上に渡って空前のヒットとなったドラマ「北の国から」の背景にあったのです。舞台となった麓郷地区にはドラマのロケ地も残っています。

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ウダイカンバの壁材
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森林資料館講義室
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ドラマ「北の国から」のロケ地

「どろ亀さん」の愛称で知られ日本学士院エジンバラ公賞の受賞者でもある高橋延清第5代林長は、それまでの良木中心の伐採方針が持続的でないことにいち早く気づき、1958年から、林分施業法とよばれる天然林の択伐を中心とした経営に大きく方向転換しました。伐採する木は劣勢木・老齢木・ダメージを受けた木などを中心として、遺伝的にも優れたものを残す持続的な育成林業を目指しています。1990年代からサステイナブルという言葉が林業分野でも使われるようになりましたが、それよりも30年以上前にサステナの概念を先取りしていたのです。驚くべき先見の明といえましょう。

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「どろ亀さん」こと第5代林長の高橋延清教授
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樹木園付近にある東大演習林の道路標識
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樹木園事務所

事務所から3kmほど南には樹木園があります。国道38号線に国交省が設置した道路標識にも「東大演習林」と書いてあります。林業の歴史も浅い北海道では、雪腐れ病というカビが原因で起こる病気のため、長い間北海道固有の針葉樹であるトドマツ・エゾマツ・アカエゾマツの苗木は大量生産ができませんでした。原因の特定から始まり、苗木の生産技術の開発なども、北演が北海道内の研究機関と共同で、ときには競争で、研究を進めてきたものです。また、苗木の大量生産が可能となるまでの間は、すでに苗木生産技術の確立している北海道外の樹種を植える戦略がとられました。どの樹種が北海道の風土に適しているのかを試験するために、本州を含めた東アジアやヨーロッパ、北アメリカから導入された苗木を植えて初期成長を調べたのが樹木園の始まりです。樹木園の中には、山に植える苗木の生産や研究のために、約4haの苗畑があり、現在では年間約20,000本の苗木を生産しています。実際には種まきから山出しまで6年かかるため、その6倍以上の苗木が育てられていることになります。

樹木園苗畑(芦別岳を背景に)

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