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千字で語るコロナ論|アジア政治外交史 川島 真|コロナ禍と東大。

掲載日:2020年11月24日

分野の違う研究者十人による寄稿集
千字で語るコロナ論
東京大学が擁する全26部局から十人の研究者を選び、自身の専門分野の視点からコロナ禍について千字で執筆するよう依頼しました。それはコロナ禍を通して自身の研究を綴るという試みでもあるでしょう。2020年夏、東大研究者たちは何を思い、考えていたのか?
コロナ禍について語るときに研究者の語ることとは?
千×十の計一万字でお届けします。

なぜ中国からの感染拡大だったのか

「史料を読み返すことが鍵」
川島 真教授写真
アジア政治外交史 川島 真
総合文化研究科 教授

SARSやMERS、そして今回のCOVID-19など、今世紀に入って感染症が猛威を振るいつつある。だが、歴史を紐解けば、人類史は感染症とともにあったとも言える。中でも近代には、世界的な交通ネットワークの拡大により、ヒト・モノの動きが世界的に拡大し、それが感染症の拡大をもたらした。植民地を持つことで感染症の脅威に一層直面した欧米諸国や日本は、熱帯医療研究を深め、ペストやマラリア、コレラなどへの対策を進めた。

20世紀初頭、第一次世界大戦下でスペイン風邪が猛威を振るった。国際連盟では衛生問題が重視され、国際協力の下に感染症対策が講じられ、これが戦後にも引き継がれた。だが、今回の新型肺炎ではこの国際協調が危機に瀕しているとされる。

20世紀の後半、感染症は一定程度抑制されていたかに見えた。だが、21世紀に入って、中国などの新興国発の感染症が多く出現している。その背景には、昨今進む交通のグローバル化や、新興国特有の経済発展のあり方が背景にあるものと思われる。14億の人口を擁する中国では、経済発展に伴う富の分配が不均衡で、依然多くの絶対貧困人口が存在し、また衛生状況も様々だ。それだけに、各地で「風土病」が生まれ、一定程度広まってきたとみられる。だが、SARSがそうであるように、従来、そうした病は中国から直ちに世界には拡大しなかった。それは、中国国内でのヒトの移動も、また中国の一地方と世界との直接的な結びつきも依然弱かったからだ。SARSは世界都市であった香港に到達して初めて世界に拡大したのだった。

だが、COVID-19の場合、中国の湖北省から中国全体、そして世界へと一気に拡大した。間も無く都市封鎖がなされると知った多くの武漢市民は中国各地、そして世界へと散った。その模様は、携帯端末などを通じて中国当局に把握されていた。武漢から中国国内各地、そして世界へ交通手段と、移動する経済力の存在。これら経済発展の果実が、そうした移動を可能にしたのだろう。

新興国は、先進国とは異なり、国内に相当の多様性を擁しながらグローバル化している。そのため、従来は特定地域の風土病であった感染症が世界に広がることみられる。それは、「ヒトの移動」という、感染症に対して最も脆弱な部分に大きな影響を与え、モノの移動も部分的に抑制する。だが、カネ・情報の部分はあまり影響を受けない。こうした状況で人類史は今後いかに展開するのか。今回の体験を踏まえ、新たな視点で史料を読み返すことが一つの鍵になるのかもしれない。

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