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サイエンスへの招待/赤ちゃん、ことばを話すための努力 | 広報誌「淡青」41号より

掲載日:2020年12月15日

赤ちゃん、ことばを話すための努力

「ルメガムワッテイルヨ」が伝える驚きの事実とは?
針生悦子/文
教育学研究科 教授

 

針生先生の本
『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(2019年刊/中公新書ラクレ/820円+税)

外国語に苦労する大人としては、「自分だって幼少期に海外で暮らしていれば楽々とバイリンガルになれただろう」と妬みをこめて愚痴りがち。いや、実はそうではない、と発達心理学の立場から鋭く指摘するのが、針生先生です。多くの赤ちゃん研究員たちとともに明らかにしてきた言語習得過程の一端を紹介します。

ことばを聞きながら映像を見る調査に参加する赤ちゃん研究員と保護者さん

子どもは、1歳近くになれば最初のことばを話し、2歳近くになれば単語を2つくらいつなげた「文」も話すようになります。その成長にはいちいち感動させられますが、このペース、必ずしも速くはありません。おとななら、外国語の特訓を受けて1年間何も話さないとか、文を話すまでまる2年かかるなど、ありえないですよね。

よく考えてみれば、赤ちゃんの置かれた状況とは、誰もその言語について説明してくれないので、とにかく自分で単語やその意味や文法を発見するしかない、というものです。そこには、たいへんな努力があるはずです。

ただし、それがどのような努力で、何をやっているのかについて、赤ちゃん自身は何も語ってくれません。そこで、それを調べる方法が開発されてきました。たとえば、馴化(じゅんか)-脱馴化法では、まず同じ刺激(音や画像)を繰り返し赤ちゃんに呈示します。こうして、飽きてきた赤ちゃんがその刺激にあまり注意を向けなくなってきたところで、呈示する刺激を少し違うものに変えます。この変化に気づき、特にこの変化が予想外のものであれば、赤ちゃんは驚いて、刺激への注意を回復(脱馴化)します。このようして脱馴化するかどうかを見ることで、赤ちゃんはどのような変化なら気づくことができ、どのような変化は予想外だと感じるのかを調べることができるのです。

私たちはこの方法を使い、(少しマニアックですが)赤ちゃんは助詞を聴き取れているのかを調べました。私たちの話す言葉は切れ目のない音の流れですから、そこから“単語”(という決まった音のかたまり)を見つけ出すことは、赤ちゃんにとって大きなチャレンジです。“が”や“を”などの助詞は単語の区切れ目に出てきますので、それがわかれば、赤ちゃんもこの仕事をうまくラクにこなせるようになるはず。それが、助詞に目をつけた理由です。

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教育学部棟内に設けられた赤ちゃん実験室にはぬいぐるみや身長計も
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調査に協力した赤ちゃん研究員には認定書や図書券をプレゼント

調べ方ですが、まず、「ルメガムワッテイルヨ」という言葉を赤ちゃんが飽きるまで聞かせ、そのあとそれを少し変化させた「ルメムワッテイルヨ」「ルメキムワッテイルヨ」などの文を聞かせて、1歳3か月の赤ちゃんの反応を見ました(実在の単語を使うと赤ちゃんによってそれを知っていたり知らなかったりするかもしれませんので、あえて“ルメ“や“ムワっている“などの無意味語を使いました)。すると、1歳すぎの赤ちゃんは、“ガ”が“キ”に置き換わった時には反応したのですが、“ガ”が抜けたときには驚きませんでした。しかも、助詞以外の音が抜けたときには、ちゃんと反応するので、スルーは助詞が抜けたときだけのようです。ということは、赤ちゃんは1歳すぎにして既に、助詞“が”を聴き取れるようになっているだけでなく、それは省略しても問題ないことを知っている、ということではないでしょうか。

多くは語りませんが、赤ちゃんの努力、あなどれません。

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