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学外有識者から見たこの6年の東大 各界で活躍する皆様15人の寄稿集

掲載日:2021年4月20日

学外有識者から見たこの6年の東京大学

各界で活躍する皆様15人の寄稿集

大学が社会変革を駆動するには、もちろん学外の皆様とのコラボレーションが欠かせません。大学の活動を振り返るにあたっても、やはり学外の皆様の率直な声が必要です。アカデミア、産業界、メディア、シンクタンクなどでご活躍の15人の皆様に、各々の視座から見たこの6年間の東大について、忌憚のないご評価をお願いしました。

京都大学 前総長

山極壽一さん

「自由な学風」の京大を同時代に牽引

二人で役割を分担して高等教育の未来へ

五神総長のリーダーシップ

五神さんが東京大学の総長に決まった時、私は真っ先に会いに行ったことを覚えている。本郷の理学部長室でお会いし、東京大学と京都大学の協力関係について、そして国立大学の将来のあるべき姿について話をしたのだが、その内容ははっきりとは覚えていない。ただ、舌を巻くほどの政策通であり、政治と学問の関係について深い見識をお持ちだという印象を強く持った。

私がわざわざ東京まで出向いたのは、京都大学と東京大学は設立趣旨も伝統も異なるのだから、むやみに競争せずに個性を発揮して協力しましょうという私の意思を伝えたかったからである。東京大学は日本で最初にできた国立の大学で、官吏養成がその目的であり、これまでに政府のあらゆる部門で活躍する人材を輩出してきたことがそれを物語っている。京都大学はその20年後に設立され、文部大臣の西園寺公望と初代総長の木下広次というフランス留学経験を持つ二人の、自由な学風に基づいた研究志向の高い大学として設立された。それが近年の文部科学省の「選択と集中」という掛け声によって競争的資金と一律の評価が重視され、だんだんと同じ土俵に登らざるを得なくなってしまった。それでは日本の持つ学術の力が損なわれる。やはり両校は互いの個性を保ったまま、むやみな競争をせず力を発揮するべきだ。

五神さんは快く応じてくれ、その後東京大学と京都大学の時計台で総長と理事が勢ぞろいして懇談の場を持つことになった。おかげでずいぶん互いの理解も進んだし、協力して対処することも見えてきた。ただ、一つ私の印象に残ったのは、五神さんと私の威厳の違いである。懇談の席では京大側に何か質問が投げかけられると、すぐに理事たちが率先して答えたのに対し、東大側ではまず理事たちが五神さんの顔を見てから口を開いた。リーダーシップの在り方がまるで違うのだ。東大の総長は大変だなあ、とつくづく思ったものである。

さて、それから五神さんの八面六臂の活躍が始まった。ダボス会議に出て世界のトップ大学の総長や財界人と渡り合って産学連携の新しい道を探り、SINETなどの情報環境を利用して国立大学をつなぎ、日本の強みを生かした学術立国の政策を提案した。実はその間、私は本来五神さんが担うべき国立大学協会の会長や日本学術会議の会長を任され、青息吐息で東奔西走することになった。思い返せば、最初にお会いした時に私が両校で分担していきましょうと提案したことが、五神さんの軽々とした身のこなしに生かされてしまったのではないか、と後悔している。

しかし、結果として五神さんとはそれぞれ政府の異なる委員会に顔を出すことになり、同じ道に通じる意見や夢を語り、複線的に高等教育の豊かな未来を提言することにつながったという確信はある。私が日本学術会議で開いた政府・産業界分科会にも常に顔を出して意見を述べ、何度も公開シンポジウムを先導していただいた。いつも五神さんの日本や世界の政治や経済を見る眼の確かさ、一歩も二歩も先を行く未来の構想力には敬服している。総長を退任された後も、今度は東京大学と少し距離を置いて、自由に学術の将来について発言してほしいと切に願っている。

早稲田大学 総長

田中愛治さん

東大とのタッグで国私連携を推進

卒業生の印象が秀才型から天才型へ変化

東京大学と早稲田大学の連携 ―五神総長のイニシアティブで―

私が早稲田大学の総長に就任して間もない2019年2月、五神真先生を表敬訪問して、初めてゆっくりお話しする機会を得ました。そのとき、刊行されたばかりの『大学の未来地図』をいただきました。大学から発信して日本社会を変えようとする気力と新しいアイデ ィアに満ち溢れたたいへん刺激的な内容で、私は一気に読み通しました。

次の機会に、ご著書の感想を申し上げたところ、それならば私学のトップの早稲田と連携しましょう、とご提案いただきました。東大から知の発信をして日本を変えようという五神総長の気迫と、私学の早稲田と組もうという度量の大きさに感銘を受けて、喜んでお受けしました。早稲田の強みは国際性、社会のニーズの感知力、そして社会への普及力と認識しておりますので、東大と組むことの意義があると感じました。1年後の2020年3月、東京大学と早稲田大学は、歴史上はじめてとなる本格的な大学間協定を調印いたしました。

五神総長のもとで東大は、私の目には大きく変わったと映ります。単に勉強ができる秀才の集まりというイメージを脱却し、ベンチャーを起業する才気煥発な、またリスクを冒してもアイディアを発信する天才的な卒業生を多く輩出されるようになったと感じております。その変化は、早稲田の学生にも大いに刺激になると思います。

常に日本を牽引してきた東大と国際性・感知力・普及力の強い早稲田が連携することで、互いを補完し合うことが可能になります。両大学で知を共創し、共に発信し、日本を変えられると確信しております。今後、さらに連携を進めさせていただきたいと存じます。

ブリティッシュコロンビア大学(UBC) 学長

サンタ・オノさん

野球と量子材料を通じて交流を深化

大学同士に加えて学長同士も友人関係に

東大を真の国際ステージへ

初めて五神総長に会ったのは2017年です。日本人の親戚と過ごしたり、素晴らしい料理や生活を体験したりと、私にとっては帰郷のような東京旅行でしたが、そのハイライトは初の東大訪問でした(父、祖父、3人の叔父、4人のいとこが卒業生で、いとこの2人は東大で教えていたことも。東大とは多くの縁があります)。マックス・プランク協会のマーティン・ストラットマン会長、五神総長とともに、世界有数の量子材料研究拠点設立の協定に署名しました。

東大はUBCの重要な国際交流校の一つであり、1978年以来の交換留学パートナーです。五神総長はUBCが東大生にとって最も人気のある留学先の一つだと言ってくれ、私も東大はUBC生の留学先として人気が高いと答えました!

以来、私たちも友人同士となりました。2018年、大学間交流で来日したUBCの野球チームに同行し、私は再び東京に来ました。両軍は接戦を演じ、ライバル関係はその後も続きます。翌年には東大がバンクーバーに遠征してUBCや他大のチームと対戦しました。COVID-19による制限解除後にはさらなる交流も行う予定で、野球ファンとしてはこの関係の発展が楽しみですが、もちろん他分野の交流もあります。

この数年間、東大はより強力な国際高等教育の連携を提唱し、主要機関としての地位を確立してきました。環太平洋大学協会、Max Planck-UBC-UTokyo Centre for Quantum Materialsなどへの支援を通じ、グローバルな知の協力を促進するリーダーシップを発揮した功績を称えるため、私は2年前、彼にUBC学長賞を贈りました。真の意味で東大を国際的ステージへ引き上げた五神総長。友人になることができて光栄です。

(原文)

I first met Dr. Makoto Gonokami when I travelled to Tokyo in 2017. For me, it was somewhat of a homecoming, and I enjoyed spending time with my Japanese relatives and experiencing the great food and city life of Tokyo.

But the highlight of the trip was visiting the University of Tokyo. Though it was my first time there, I have many ties with UTokyo. My father, Takashi Ono, and grandfather, Akira Ono both graduated from UTokyo. Three of my uncles and four cousins are also graduates and two of my cousins have taught there.

While I was there, I signed a trilateral agreement with Dr. Gonokami and Max Planck Society president Martin Stratman to create the Max Planck – UBC – UTokyo Centre for Quantum Materials. The signing represented the culmination of decades of informal collaboration and created one of the world’s foremost centres for research in the field of quantum materials.

UTokyo is one of UBC’s most prestigious international partner universities and the two institutions have been student exchange partners since 1978. Indeed, Dr. Gonokami told me that UBC is one of the most popular student exchange destinations for U Tokyo students. I assured him the feeling was mutual, and that UTokyo is equally popular as an exchange destination with UBC students!

Over the past three years, we have become friends and colleagues, as our universities also grew closer. The following year, I went back to Tokyo, accompanying the UBC baseball team, which was in Japan for a 10-day, six-game series against UTokyo and other Japanese universities. UBC and UTokyo played two games, with both teams evenly matched.

The baseball rivalry still continues. UTokyo came to Vancouver in 2019 to play UBC and other North American teams, and further games are planned once COVID restrictions are lifted.

As a baseball fan, I’m glad to see this relationship develop between our two universities, but of course, we have other ties as well. UTokyo, under the leadership of Dr. Gonokami, has been positioning itself as a major international institution, advocating for stronger international higher education alliances. Through his support for the Association of Pacific Rim Universities, The Max Planck-UBC-UTokyo Center for Quantum Materials and other initiatives, he has shown inspired leadership in fostering global knowledge cooperation.

Two years ago, I had the privilege of presenting him with the UBC President’s Medal of Excellence to honour his international education advocacy. He has truly put UTokyo on the international stage, and I am honoured to consider him a friend.

カブリ財団 前会長

ロバート・コンさん

Kavli IPMUへの支援を通じて科学者たちをエンカレッジ

東大が日本の大学の寄附活動を新次元へ

明るい未来への道を拓く東大

東大は世界有数の大学です。東大で科学を支援する新しい方法を見つけるべく、3人の総長、最近では五神総長とともに働けて光栄です。カブリ財団の支援に応え、東大がIPMUにKavliの名を冠したのは、2012年4月のことでした。

この野心的な取組みは2007年に始まり、今日ではKavli IPMUが大いなる成功を収めています。日本の国際研究拠点に世界中から研究者や学生が集まり、力を合わせて科学的文化的なフロンティアを拓きました。日本で生まれ育ち米国で活躍している2人の著名な物理学者の機構長選出は、その流れを汲むものでした。初代の村山斉機構長はカリフォルニア大学バークレー校から、次の大栗博司機構長はカリフォルニア工科大学から。2人の就任は、日本から世界へ、世界から日本へ、という大学の目標を象徴しています。

現在、五神総長と次期総長の藤井教授とともに、東大は日本の寄附活動における新たな変化を牽引しています。個人による大学への寄附は、米国と英国では一般的ですが、日本ではそうではありません。東大とカブリ財団は、国内外の個人や財団からの贈与の際に、従来の基金のように1%未満ではなく4~5%の年間収益を受け取れる新しい財務モデルを構築しています。日本の規則が変更されてこのモデルが動き出すと、カリフォルニア大学、イェール大学、スタンフォード大学、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学と同様の方法で寄附金を活用できるようになり、東大や他の日本の大学の財務基盤は将来にわたって強化されるでしょう。東大は日本と世界の明るい未来への道を切り拓いています。幸運を祈ります。

(原文)

The University of Tokyo is one of the world’s great universities. It has been my honor to work with three presidents, most recently President Gonokami, to find new ways of supporting science at Todai. In April 2012, in return for a major financial gift from The Kavli Foundation, the university re-named IPMU as the Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (Kavli IMPU).

This ambitious effort began in 2007 and today we know the Kavli IPMU to be an extraordinary success. As a Japan-based international research center, the faculty, staff and students come from countries worldwide. They collaborate with one another and together have opened scientific and cultural frontiers for Japan. The selection of two distinguished physicists as Kavli IPMU Directors, both born and educated in Japan but living in the U.S. at the time of their appointment, was inspired. The founding director, Prof. Hitoshi Murayama, came from the University of California, Berkeley and his successor, Prof. Hirosi Ooguri, came from the California Institute of Technology. Both appointments are symbols of the university’s goal of reaching the world beyond Japan and bringing the world to Japan.

Now with President Gonokami and in-coming President Fujii, Todai is leading new changes in the approach to philanthropy and endowment management in Japan. Philanthropic giving by individuals to universities is common in the U.S. and U.K. but less common in Japan. Todai and Kavli are together forging a new model by which private gifts from either Japanese individuals or individuals and foundations abroad that are held in the university’s endowment can receive an annual return of 4% to 5%, rather than less than 1% as is the case under recent rules. As these rules change, both Todai and other universities in Japan will be able to invest their endowment in ways similar to that of Todai’s great equals: the University of California, Yale, Stanford, Oxford and Cambridge. Once implemented, this financial model will strengthen Japanese universities into the future. The University of Tokyo is leading the way to a brighter future for Japan and the world, and I wish it every good fortune.

日本経済団体連合会 会長

中西宏明さん

財界と東大を繋いでともにSDGs達成へ

総合的でオープンな産学連携を率先垂範

同じ志でSociety 5.0を目指して

五神総長とは政府の「未来投資会議」にてデジタル化の時代に日本が進むべき方向としてSociety5.0を政策の基本とすることをご一緒に提案し、五神総長は東大こそそれを牽引し「知識集約型社会」への転換を図ると宣言されて様々な活動を展開されました。

私は経団連の活動重点施策にSociety 5.0 for SDGsを据え、同様の視点から様々な活動をご一緒させて頂きました。その過程で、五神総長が展開されている活動を進めようとすると東大の内と外の両方を大きく変える活動が必要であることがよく分かり、共に大きく前進させたことを高く評価します。

私にとって一番身近な例で言えば2016年の日立東大ラボの開設です。東大の総長と企業のトップとが企業の名前を冠した研究室を設け、研究テーマを比較的大きな社会課題に設定し、そのテーマに相応しい先生方に声をかけて幅広い議論をし、政策提案から工学的な手法の開発までを手がけるというやり方をしています。今では、こうしたオープンな活動は国内に留まらず、グローバルな大きなものになっています。更には大学債の発行にも五神総長のリーダシップが存分に発揮された大きな前進があります。

一方で、産業界から見ると五神総長が実現に取組んでこられた様々な展開には常に時間軸というか、時の勢いが必要なことも多々あるように思います。東大総長任期6年は国立大学法人という組織の中で確立された制度と理解しているので、敢えてここで批判をするつもりはありませんが、今の世界の変化のスピードと同時に大きく変わっていく世の中への対応では重要な課題の一つではないかと思います。

日本証券業協会 会長

鈴木茂晴さん

ソーシャルボンドとしての大学債発行を後押し

自主財源を確保し真に自立した経営体へ

FSI債が他の国立大のモデルに

総長としてご活躍された五神様に、心からの敬意を申し上げます。この6年間は、持続可能な世界のため、日本が更に輝くため、大胆な転換を図るトランジションピリオドとなったと強く認識しております。

数々のイニシアチブの中でも特に、昨年10月の「東京大学FSI債」200億円発行は、証券業界としても特筆すべき施策でした。同発行は、資本市場における滞留資金を動かし、経済活性化に寄与しました。また、「SDGs債」にも含まれるソーシャルボンドとして発行したことは、社会的課題解決に資するという観点からも意義を感じております。

一方で、貴学が資本市場を通じて自主的に財源を確保されたことは、真に自立した「経営体」となったことを意味します。また、同債券の年限が40年であることからも、長期的なキャッシュフローが可能となり、より自由に研究・教育機能の向上を図ることができ、多くのイノベーションを導くことができるでしょう。

このように「東京大学FSI債」は重要な役割を果たしていることから、貴学における資金調達の核として継続した発行となり、また、全国の国公立大学にとって貴学が参考モデルとなることを期待いたします。その為には、柔軟かつ戦略的な資金運用を促進すべく、国立大学法人法において大学債発行要件の一層の緩和など、法令改正を働きかけることも重要な課題だと認識しております。

五神総長の御退任後の更なるご活躍をお祈りするとともに、貴学の志ある卓越が見据える持続可能な世界に、証券業界も一丸となって協同し取り組む所存でございます。

ダイキン工業 取締役会長

井上礼之さん

大規模組織間連携で産学協創を推進

2年間で両組織の一千名超が協創に参加

東大を「頭脳循環」の輪の中核に

五神総長はSDGs時代のイノベーター(社会変革者)です。東京大学の豊潤な知的資産を社会実装することにより、日本の経済社会の新しい成長モデルを模索されてきました。「社会変革を駆動する大学」という挑戦的な理念を掲げ、大学の経営改革に情熱的に取り組まれてきた姿に心から敬意を表します。とりわけ、日本初となる大学債の発行は世間の耳目を集める先進的な取り組みです。自主財源を確保することで大学経営の自立性を高める。そのため資本市場からの資金調達に道を拓く。企業経営者の一人として、五神総長の経営センスには感服するばかりです。

当社ダイキン工業とは、2018年12月に協創協定を締結させていただきました。五神総長のリーダーシップのもと、この2年間で東京大学と当社で1000名を超えるメンバーが相互に関わり、かつてないダイナミックな協創活動を進めてきました。五神総長は「SDGsやSociety5.0のような社会課題の中で、“空気と環境”に関する事業が重要な価値を持つ時代だ」と指摘されました。空気の持つ価値を再認識させていただき、「空気の価値化」という大きな協創テーマの取り組みにつながりました。五神総長の未来を見据えた慧眼なくしては実現しなかったテーマです。

世界は「頭脳循環」の時代を迎えたといわれます。優秀な人材は「知の協創」の場を求めて世界中を移動します。東京大学には「頭脳循環」の輪の中核として世界をリードするグローバルな大学として飛躍されることを期待しています。

経営共創基盤 グループ会長

冨山和彦さん

東大の学生に熱いベンチャー精神を注入

教職員が公務員だった頃の残骸を捨てて

東大よ、経営体としての自律自立をさらに加速せよ!

ただでさえ財政難の日本国。コロナ禍でさらに借金漬けである。他方、知識集約化時代を迎えるとともに人類社会がESG/SDGsに真剣に対峙する必要性に迫られる中、何より先端的な知が生み出すイノベーション力が問われている。そこで大学と言う「法人」組織は、特定の個人や機関による所有から自由たりうる特徴を活かして、知の公共財機能を果たして行かねばならない。

その先頭に立つべき東京大学が自立的かつ自律的経営体となることは自明の理である。この6年間、資産の有効活用、企業からの本格的な資金受け入れ、世界のトップ大学からの処遇改革も含めた大胆な人材招聘、そして本格的な大学債の発行など、五神総長を中心に「経営体」への進化は著しく進んだと評価している。

その一方で、かかる進化の外側で「『金集め』『人集め』は大学人の責務ではない。人も金も集められないのは国や制度の制約のせいだ」と言った他責論も聞こえてくる。ファカルティを含めて金集め、人集めとロビイングの名人が揃い、そのおかげでノーベル賞を取りまくっているスタンフォード大学にも長く関わってきた私としては不思議な声だが、これは国立大学法人化前の時代、教職員が国の一機関の公務員だった時代の残滓なのだろう。

五神執行部は、そんな地合いのなかで改革を丁寧に急がれたと思う。しかし新時代のパブリックコモンズの担い手としての期待が高まる中、今後、全東大人が自律的な経営体の構成員という自覚を持ってさらに改革を猛加速すべきである。

津田塾大学 理事

岩田喜美枝さん

経営協議会の委員として大学運営を冷静に点検

「30%クラブ」の趣旨を経営協議会で実践

総長が掲げた構成員多様化による組織活性化の現在地

五神氏は総長就任時に掲げたビジョン2020において、男女共同参画等を通じた構成員の多様化による組織の活性化を掲げた。

具体的には、[1]女子学生比率を高めるための施策、[2]教員・研究員・管理職職員の女性比率を高めるための施策、の2つに取り組んだ。施策のメニューは実に多数だ。

結果は、2014年と2020年を比較すると、[1]については、学部生の女子比率は18.7%から19.5%へと微増。世界のトップクラスの大学では50%前後であり、東大は良質な女子学生を集めきれていない。[2]については、教員(教授及び准教授)の女性比率は7.7%から10.7%と小さな増加。一方、管理職職員の女性比率は9.9%から19.4%へ大きく上昇。

特筆すべきは、経営協議会である。外部委員を中心に女性が増え9人(女性比率36%)となった。これには、五神総長が30%クラブ(取締役会等の意思決定機関に占める女性割合30%を追求する運動)に賛同し、自ら実践していただいたという背景がある。

効果が不十分であった女子学生比率と女性教員比率については、既に導入している「女子学生向けの住まい支援」や「女性教員を採用する場合の人件費の本部補助」をアピール・拡充することを含め、ポジティブアクション(男女間格差を是正するための積極的措置)を強化することが必要である。

日本政府は、30%を通過目標とし、2030年代には指導的な立場にある人々の性別に隔たりがないような社会を目指している。このことを念頭に置き、東大も藤井次期総長の下で改革を継続していただきたい。

ジャーナリスト The Economist元編集長

ビル・エモットさん

年から学外諮問委員として東大に助言

社会とより広く関わるための方法を探索

社会との関わりがより深いものに

私は、長く活動してきたジャーナリストとして、とりわけインターネットで接続された世界においては、世間の注目を集めるのが簡単ではないと知っています。オックスフォード大学やダブリン大学トリニティカレッジの運営に関わり、2006年からは東大の諮問委員を務めてきたので、大学の3つの役割の間に張り詰めた関係があることも知っています。学生の教育、学術の追求、社会問題解決への貢献。いずれも不可欠ですが、この3つをスムーズに連携させることは困難です。

しかし、東大は過去5年間で実に大きな進歩を遂げたと感じています。最も印象的だったイノベーションは、東京カレッジの設立、東京フォーラムの立ち上げ、そして最近ではグローバル・コモンズ・センターの設立です。もちろん学術研究や大学経営の面でも多くの進歩がありました。

これらに共通するのは、世界水準の学際的研究における投資を国際的に結び付け、国内外の市民と関わりを持つための新しい方法を探索することです。東大はこれまでも国内外で高く評価され、様々な専門分野で国際的に深いつながりがありましたが、この点はこの数年でより大きな結びつきへと変わりつつあります。社会的にも学術的にも、外の世界は以前より高くより広いレベルで東大へと取り込まれ、そしてまた東大も外の世界へ多くをもたらしています。ジェンダー平等やさらなる国際化などの問題については、さらに多くのことを行う必要があるでしょう。しかし、東大は今、そうした問題を解決するための素晴らしいプラットフォームを手にしています。

(原文)

As a long-time journalist I know it is not easy to get public attention, especially in a world that is now hyper-connected through the internet. Moreover, being involved with Oxford University and Trinity College Dublin as well as having had the great honour of having been a member of UTokyo’s successive global advisory boards since 2006, I also know that in every university there is a natural tension between three core functions: educating and inspire students; pursuing sophisticated, path-breaking academic research; and contributing to national and international public knowledge so as to solve common societal problems. All these needs are vital, but it is hard to make them work smoothly together.

Nevertheless, I genuinely feel that the University of Tokyo has made a considerable breakthrough during the past half decade, in other words during the six-year presidency of Gonokami Makoto and his executive team. The innovations of which I am most conscious are of course the founding of Tokyo College, the launching of the Tokyo Forum and most recently the establishment of the Center for Global Commons. But I know that there have been many others, both in academic fields and in the management of UTokyo’s financial assets.

What these innovations have in common is that they combine an investment in world-class inter-disciplinary scholarship with exploring new ways to connect that scholarship internationally and to engage with a Japanese and international public.

The University of Tokyo has always been highly respected both nationally and internationally and has enjoyed deep international connections in specialised fields. But what has changed is that this respect is being turned into greater engagement. The outside world, both public and academic, has been brought into UTokyo on a much higher and broader level than before, and UTokyo in turn has been brought out into the world. Much more needs to be done, especially on issues such as gender equality as well as on further internationalisation. But UTokyo now has a great platform on which to build.

京都先端科学大学 副学長

小関敏彦さん

理事として若手支援等に尽力

運営費交付金が減るなかでも活力を増進

日本の大学が抱える共通課題に先駆的に取り組んだ6年間

五神総長のご退任にあたり、その下で理事・副学長を務めた1人として、振り返って一言述べさせていただきます。

国からの運営費交付金が年々減少する中で、研究大学としての活動や若手研究者の活力をいかに増進させるか、総長がもっとも腐心されたところで、その意を受け、研究・施設担当と共に、人事制度、卓越大学院、産学協創、URA制度などに取り組みました。法人化後、交付金の減少に伴って部局から毎年一定割合の採用可能数を拠出してもらい、その一部を凍結し続けた結果、若手の承継ポストの減少などの弊害が顕在化し、この改善のために、全学の教員ポストを可視化し、凍結を停止し、更に、拠出を上回るポストを再配分するシステムに変えました。同時に教員以上に大きかった職員のポスト凍結も止めました。また、優れた若手を研究・雇用の両面で支援する卓越研究員制度、博士課程学生の経済支援を充実する卓越大学院制度を、それぞれ東大独自に立ち上げ、その後にスタートした国の制度とも連動させて、若手研究者や博士学生の支援を強化しました。

これらはいずれも、日本の大学が共通して抱える課題の解決に東大が先駆的に取り組んだものといえます。更に、産業界と組織対組織で連携し次の価値や技術を創出する産学協創や、URAを独自に育成して認定する制度も開始しました。総長のリーダーシップの下、多くの方々のご尽力とご理解、協力を得て、研究大学としての基盤の強化と活動の広がりが進んだと思います。

本学名誉教授

大澤眞理さん

男女共同参画の理念を学内外で追求

文部科学大臣通知に対して示された見識

ジェンダー平等が変革のカナメに

五神真総長の任期である2015-2020年度は、日本の国立大学において、大学ガバナンスの改革が進められると同時に、人文社会科学系の教育研究の位置づけが問われた時期でもあった。筆者は2015-17年度に社会科学研究所長を務め、2018年度は大学執行役・副学長として五神執行部の席に連なった。

大学のガバナンス改革では教授会の役割の限定や学長のリーダーシップの確立がめざされた。五神総長の初年度の2015年6月には第3期中期目標・中期計画が作成され、10月に「東京大学ビジョン2020」が策定された。同ビジョンは「卓越性と多様性の相互連関」を掲げる。

じつはその間に2015年6月8日の文部科学大臣通知が、教員養成系や人文社会科学系の学部・大学院の組織の廃止や転換を、理由が不明確なままに求めていた。これにたいして東大ビジョンは、「人文社会科学分野のさらなる活性化」を掲げた。文科大臣通知にたいして五神リーダーシップの見識が示されたのである。

第3期目標・計画とビジョンは、大学構成員の女性比率を高めることを、「卓越性」と両輪をなす「多様性」のカナメとした。また2016年度末に提出された指定国立大学法人としての構想では、国連の持続可能な開発目標SDGsを最大限活用するとしている。初期重点分野に、経済格差とともにジェンダー平等があげられた。

SDGsのいずれも、人文社会科学系をふくむ諸分野の緊密な協働が不可欠な課題である。五神リーダーシップは、ジェンダー平等を学内外の「変革」のカナメとした。その達成状況を検証しつついっそう推進していくことが、東大に求められている。

miup 代表取締役

酒匂真理さん

総長就任の年に産学連携施設で医療ベンチャーを起業

起業するという選択肢が以前より身近に

スタートアップ同士が切磋琢磨する仕組みが数年で進展

五神総長、ご退任おめでとうございます。私は、途上国の医療アクセスの向上に取り組む医療スタートアップmiupの創業経営者で、奇しくも五神総長が任期を始められた2015年に会社を創業し、その後、2017年より東京大学が運営する産学連携施設を日本の拠点とし活動させて頂いております。私が学生だった10年前、起業は遠い存在で自分の進路としても全く浮かんでくるものではありませんでした。

しかしここ最近では、アントレプレナー道場やFOUND-Xなど起業家育成拠点が充実し、学生のうちあるいは卒業後も起業をするという選択肢が身近に感じられるようになり、さらには起業後も様々なバックアッププログラムを通じて、スタートアップ同士が切磋琢磨し育っていくエコシステムが成り立っているように感じます。

私自身も起業したての頃、常に悩みに直面する中、同じような起業家たちとの交流でどれだけ心が救われ、さらには産学連携推進部の方々のご支援で外部の方々をご紹介いただいたことで、その後のビジネスの成長につなげられたかも数知れません。

東大発ベンチャー経営者として、今後も数多くのスタートアップが輩出される仕組み作りが促進されることをご期待いたすと共に、このようなエコシステムの基盤をお作りになられた総長のご尽力に感謝と敬意の気持ちをもって御礼申し上げます。

三菱総合研究所 政策・経済センター長

武田洋子さん

日本を代表するシンクタンクで内外を分析

大学発ベンチャーの突破力が未来を創る

進化する「志ある卓越。」

コロナとの闘いが始まり一年が経過した。暗雲立ち込める中、日本が新常態へと進化する道筋を照らす一条の光明がみえる。進化の担い手は東大で生まれている。東大発のベンチャー企業は既に400社を超えており、そのモメンタムはコロナ禍でも揺るぎない。

東大ベンチャーの隆盛は、五神総長時代の5つの取り組みがもたらしたと聞いている。

まず、「共同」研究に終わることが多かった大企業との関係は、ベンチャーとの「協創」へと転換されてきた。組織トップのコミットメントのもと事業化を前提とし、ベンチャー企業連携も視野に入れた形で「産学協創」プロジェクトを推進した。

次に場づくり。東京大学アントレプレナープラザに加え、東京大学アントレプレナーラボを新設、インキュベーション施設のキャパシティーを倍にした。

3つ目は資金還流の仕組み。ベンチャー企業からのライセンス料として東大はストックオプションを受け取ることで、ベンチャー側の資金繰りと大学の経営基盤を同時に解決し、両者を次なるステージに導いてきた。五神総長時代にはインキュベーション施設の入居に際し、サポートの対価として大学がストックオプションを受け取る仕組みが加わった。

4つ目はエコシステム創り。昨年12月に披露された東京大学産学協創・社会連携協議会はエコシステム形成の更なるエンジンとなり得る。

最後に総長主導で進めたアントレプレナーシップ教育の強化・拡充。本業の教育が好循環の要を成してきた。

日本の産業構造転換の遅れは昔年の課題だが、東大発ベンチャーの突破力が産業構造を変革し、アフター・コロナの未来を創ることを確信している。

東京大学新聞 編集長

中野快紀さん

学生メディアの立場から大学の活動を報道

硬直した縦割りの打破が改革の原動力に

経営改革を断行した総長が蒔いた種に継続性の支柱を

五神真総長が断行された経営改革は法人化から10年以上が経過した東大にとって極めて大きな転換点となりました。予算における「ビジョン2020推進経費」の導入は、硬直した部局の縦割りを打破するための鍵になり得るものであり、長期的で大胆な改革を予感させるものでした。しかし今のところ、長年の懸案である縦割り行政やその弊害の改善は道半ばと言わざるを得ません。今後は五神総長が高めた軽やかさを生かしつつ、現状打破の歩みを止めないことが求められるでしょう。ただし、産学協創の推進や大学債発行など五神総長が進められた施策はいずれも長期的な視点に立って検討しなければならない問題です。施策自体が先行し、目的を失うことは避けるべきであり、五神総長が蒔いた種に継続性という支柱を立てていかなければなりません。

社会における東大の役割を重視され、そのための改革を断行された五神総長ですが、今後改革の目は学内にも向けねばなりません。昨年の総長選考時に顕在化した学内の分断に向き合うこと。そして学内における属性のいびつな偏りや属性に基づく既得権益の存在を認識し、不当な既得権益を打ち壊すための取り組みが求められます。多様なバックグラウンドを持つ構成員が置かれている状況にまずは寄り添い、状況を打開し得る具体的な施策を打ち出すこと。これが次期執行部に最初に求められる姿勢であると考えます。またこの6年間で学部教育へのテコ入れが停滞したことも見過ごしてはいけません。将来社会の担い手となる人材の育成は極めて重要な使命です。藤井輝夫次期総長は10月の会見で教育改革への意欲を示されており、今後のご尽力に大変期待しております。

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