東京大学ビジョン2020
「東京大学ビジョン2020」の公表にあたって(2015年10月)
東京大学総長 五神 真
東京大学は、本年が創立138年目となります。終戦をほぼ中間点として約140年が経過しました。この間、科学技術の進歩を背景として、人類はその力を飛躍的に拡大し、活動は国境を越え、社会の様相は大きく変わりました。その中で日本は、高度な科学技術や学術を牽引力として、アジアにあって世界をリードする地位を築きました。
しかし、一方で、資本主義や民主主義といった現代社会を支える基本的な仕組みの限界も露わになってきています。地球環境の劣化、資源枯渇、地域間格差といった地球規模の課題が顕在化し、世界情勢はますます不安定になっているように感じます。より大きな力を得た人類がどのようにして、安定的で平穏な社会を構築するのか、その道筋は明らかにはなっていません。私は、多様な人々が尊重しあいながら協力して経済を大きく駆動する新たな仕組みを生みだすことが必要だと考えています。この新しい仕組みを駆動するものは人々の知恵に他なりません。すなわち、知恵が経済を動かす社会です。そうした社会に移行できるのかどうか、人類は今、分岐点に立たされていると捉えています。日本には、アジアの先進国として、それを先導する歴史的責務があり、大学はその中心的役割を担うべきと考えます。
東京大学には、140年にわたる継続的な国民からの支援の蓄積があります。これを最大限に活用し、次の70年間の人類社会をどう導き、その中で日本をどう輝かせるのか、そのシナリオを描き行動することが、今求められています。
そのために、大学の経営や運営について、従来の発想から脱し、そのあり方を転換することが不可欠と考えます。基盤的な活動を支える、国立大学法人運営費交付金の重要性は論をまちませんが、財政赤字を抱え少子化高齢化が進む我が国の状況において、支援を求めるだけでは責任を果たすことはできません。私達の本分である、教育・研究活動の質をいっそう高めるとともに、その価値を掘り起こし可視化していく必要があります。そして、それを駆動力として能動的に活動する組織体へと変化し、自立歩行する仕組みを備えていかねばなりません。
東京大学の歴史を70年単位で捉えると、私の任期中に新たな70年の時代に入り、任期中に東京大学に入学した学生は、まさにこの新たな時代を形作る世代となります。未来の社会を形作るこの若者達への責任を果たすため、今こそ東京大学は自らの機能を思い切って転換していかなければなりません。
この東京大学の機能転換の理念と具体的方針を、このたび「東京大学ビジョン2020」としてお示しすることとしました。私が目指す東京大学の新たな姿を全学で共有し、全学の総力を結集して改革を力強く進めていく所存です。また、アクションについては、状況変化や各界からのご意見を踏まえ、適宜更新していく予定です。本ビジョンに基づく東京大学の取組に、各界の皆様のご理解とご支援をいただきますようお願い申し上げます。
東京大学ビジョン2020とは
東京大学ビジョン2020は、2020年度に至る
五神総長の任期中における行動指針です。
東京大学が「知の協創の世界拠点」としての
使命を担うための基本理念として
「卓越性と多様性の相互連環」を掲げ、
研究・教育・社会連携・運営の4つの「ビジョン」、
及びそれを実現するための「アクション」で
構成されます。
日本の学術には、人類全体の知の多様性を担う
重要な責務があります。
そして、より良い人類社会を創るためには、
産学官民を同時に改革するための協働が不可欠です。
その変革を駆動する中心となるために、
東京大学が今何をなすべきか。
これらの五神総長の考えを背景として、
東京大学ビジョン2020は策定されました。
「東京大学ビジョン2020」の骨子
基本理念:卓越性と多様性の相互連環ー「知の協創の世界拠点」として
- VISION
ビジョン 1 - 研究 新たな価値創造に挑む学術の戦略的展開
- アクション 1
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- 国際的に卓越した研究拠点の拡充・創設
- 人文社会科学分野のさらなる活性化
- 学術の多様性を支える基盤の強化
- 研究時間の確保と教育研究活動の質向上
- 研究者雇用制度の改革
- VISION
ビジョン 2 - 教育 基礎力の涵養と「知のプロフェッショナル」の育成
- アクション 2
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- 学部教育改革の推進
- 国際感覚を鍛える教育の充実
- 国際卓越大学院の創設
- 附置研究所等の教育機能の活用
- 学生の多様性拡大
- 教養教育のさらなる充実
- 東京大学独自の教育システムの世界発信
- 学生の主体的活動の支援
- VISION
ビジョン 3 - 社会連携 21世紀の地球社会における公共性の構築
- アクション 3
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- 学術成果の社会への還元
- 産学官民協働拠点の形成
- 学術成果を活用した起業の促進
- 国際広報の改善と強化
- 教育機能の社会への展開
- VISION
ビジョン 4 - 運営 複合的な「場」の充実と活性化
- アクション 4
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- 機動的な運営体制の確立
- 基盤的な教育・研究経費の確保
- 構成員の多様化による組織の活性化
- 卒業生・支援者ネットワークの充実
- 世界最高の教育研究を支える環境の整備
- 3極構造を基盤とした連携の強化
「東京大学ビジョン2020」の全文
東京大学ビジョン2020中間報告書(2018年3月)
五神総長の6年間の任期が折り返し地点に差し掛かることを踏まえて、東京大学ビジョン2020の中間フォローアップを実施し、2017年度までの成果と進捗を中間報告書としてとりまとめました。
東京大学ビジョン2020の加速化
指定国立大学法人の指定(2017年6月)
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国立大学法人法の一部を改正する法律(平成28年法第38号)により指定国立大学法人制度が創設され、東京大学は、2017年6月30日付で文部科学大臣の指定を受けました。
指定国立大学法人は、我が国の大学における教育研究水準の向上とイノベーション創出のため、より自由度の高い経営を進めることが求められます。申請にあたっては、学内で議論を重ねて「地球と人類社会の未来に貢献する『知の協創の世界拠点』の形成」と題する構想をまとめ、その実現のために、運営から経営へと発想を転換する意識を共有しました。
東京大学は、指定国立大学法人への申請・指定を契機として、東京大学ビジョン2020に基づく改革の動きをさらに加速させています。
未来社会協創推進本部の設置(2017年7月)
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東京大学は、総長を本部長とする全学体制として、未来社会協創推進本部を設置しました。
学内外の多様な人々の協働によって、より良い社会に向けた駆動力を生み出していくためには、共感性の高い社会・経済のビジョンが必要です。東京大学は、指定国立大学法人構想の中で、この共感性の高いビジョンとして、国際連合がまとめた「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(SDGs: Sustainable Development Goals)を活用することを表明しました。
未来社会協創推進本部は、SDGsを活用し、共通の未来社会ビジョンを学内外で広げるとともに、学際融合分野・新分野の創出、キャンパスのグローバル化、多様なセクターとの協働などを効果的に推進する新たな仕組みです。
関連情報
「東京大学ビジョン2020」の背景
東京大学は、2017年に創設140年を迎えます。終戦を中間点として、前半の70年は近代国家として西欧にキャッチアップすること、後半の70年は戦後の復興と工業を中心とした経済成長の面から、日本を支えてきました。五神総長は、次の70年間の人類社会をどう導き、その中で日本をどう輝かせるのか、そのシナリオを描き行動することが重要であり、従来の発想から脱して、大学経営や運営のあり方を転換することが不可欠と考えています。
総長と起草メンバーの座談会(2016年1月8日)
「東京大学ビジョン2020」の策定には、総長や理事だけではなく、複数の教職員が参画しています。東京大学広報誌「淡青」で特集された総長と起草メンバーによる座談会の模様をご紹介します。
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