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サイエンスへの招待/「ネット右翼」は弱者ではなかった 広報誌「淡青」42号より

掲載日:2021年5月18日

「ネット右翼」は弱者ではなかった

インターネットにおける世論形成を検証
永吉希久子/文
社会科学研究所 准教授

 

永吉先生の共著書
『ネット右翼とは何か』(青弓社/2019年5月刊/1600円+税)

異なる民族や外国人に対する偏見は昔から社会に存在しています。しかし、インターネットの普及により、その存在感は以前より増しているように見えます。 「ネット右翼」と呼ばれるようになった人々の姿を、約8万人の世論調査を通じて浮かび上がらせたのが、永吉先生。実際の姿は、世間の想定とは違うものでした。

図 ネット右翼と雇用形態・世帯収入の関連
ネット右翼は非ネット右翼よりも、わずかに正規雇用や経営・自営の割合が高く、所得分布には大きな違いがない。
出典:『市民の政治参加に関するアンケート』をもとに筆者作成

インターネットは今日の私たちの生活に欠かせないものとなっています。私はインターネットが世論形成に与える影響について、研究を行ってきました。インターネットは人々が触れることのできる情報の量や、コミュニケーションできる相手の範囲を大幅に広げました。このため、私たちはインターネットを通じて多様な意見に触れられます。他方で、インターネットは自分から情報を探しに行く能動的なメディアであるために、そして、インターネットのアルゴリズムに組み込まれたフィルタリングの機能により、自分と似た人、自分の意見と合った情報に触れやすくなる可能性もあります。この場合、自分の考えを支持する意見・情報にばかり触れることで、もとの意見がさらに強まる「エコーチェンバー」という現象が生じると考えられています。

エコーチェンバーが実際に生じているのか、東北大学の瀧川裕貴先生と共同で、Twitter上で政治に関心が高く、オピニオンリーダーといえる人(500人以上のフォロワーがいる、1000回以上ツイートしている人)に着目し、検証しました。その結果、これらのオピニオンリーダーの間ではネットワークの上でも、ツイートの話題の面でも分極化が生じていることがわかりました。左派政党を中心にフォローするクラスターと右派政党を中心にフォローするクラスターのネットワークは交わっておらず、前者は政府の汚職や共謀罪の問題について、後者は近隣諸国との関係についてというように、議論のテーマも異なっていました。これは、異なる政治的考えを持つ人の交流が、少なくともTwitterという場では生じていないことを示唆しています。

フランス革命期の国民議会を描いた絵「Ouverture des Etats Généraux à Versailles le 5 mai 1789」(Isidore Stanislaus Helman and Charles Monnet /フランス国立図書館)。「右翼」という言葉は、王の絶対的拒否権をめぐる議決で、その支持派が議長席の右側にいたことに由来する。
(参考)van Beek, W. E. A. and F. Bienfait. 2014. "Political left and right." Journal of Social and Political Psychology 2 (1): 335-346.

政治的分極化の問題は、しばしばネット右翼と結びつけて語られます。ネット右翼には明確な定義はありませんが、一般的にインターネット上に排外主義的・歴史修正主義的意見を書き込んだり、拡散したりする人を指します。ネット右翼には、社会経済的に豊かでない、孤立した弱者などのイメージがもたれてきました。私は調査会社のモニター77084人に対するウェブ調査データを用い、こうしたネット右翼像が妥当なのかを検証しました。ネット右翼を排外主義的・保守的な考えを持ち、インターネット上で政治的・社会的テーマについて意見の書き込みや拡散を行ったことのある人、と定義し、非ネット右翼との比較を行ったところ、教育水準、世帯収入、婚姻状態や相談相手の有無に違いはみられませんでした。つまり、社会的に孤立した弱者という「ネット右翼」のイメージは妥当ではなく、ある意味では社会によるレッテル貼りが生んだものともいえるのではないでしょうか。今後はインターネット上でクラスターを超えた意見の広がりが生じるメカニズムを検証し、インターネットと世論形成の関連を検証していきたいと思います。

 

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