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「国連海洋科学の10年」の意義/道田豊 海を知ることなしに人類の未来はない

掲載日:2021年10月5日

海と東大。
すべての生命の故郷にかかわる研究・教育活動集

あらゆる生命の故郷であり、地球の生物の生存を支えている海に関する科学を世界で進めるための「国連海洋科学の10年」。2021年はこの大きなキャンペーンがスタートした年です。そして東大は今年、海とともに歩んできた科学者を新総長に迎えました。 工学、物理学、生物学、農学、法学、経済学……。様々な分野の事例が映し出す東大の海研究と海洋教育の活動について紹介します。
海を知ることなしに人類の未来はない!

「国連海洋科学の10年」の意義

2021年、「国連海洋科学の10年」が始まりました。2030年まで世界が集中して海洋科学を推進し、諸問題の解決につなげるための計画です。計画を主導するユネスコの委員会で副議長を務めた道田先生が、人類の未来を左右する取り組みの意義を紹介します。

道田 豊/文
大気海洋研究所教授
MICHIDA Yutaka
「海洋科学の10年」が定める7つの目標

2020年12月31日、第75回国連総会は海洋に関する包括決議の中で、「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」※1(以下、「海洋科学の10年」)の実施計画を認知しました。2021年からの10年間を「海洋科学の10年」として、持続可能な開発目標(SDGs)、とりわけSDG14(海の豊かさを守ろう)をはじめとして海洋に関係する目標の達成に向け、国際的に特に力を入れる10年とするものです。

我々人類にとってかけがえのない地球、それは、生命が豊かに繁栄してこその地球、また海あってこその地球でもあります。その意味で、海はグローバルコモンズそのものと言えます。海は、人類を含む地球上の生物すべてにとって存続の基盤ですが、温暖化等の気候変動、昨今国際的重要課題となっている海洋プラスチックを含む汚染、水産資源の持続可能性に関する懸念など、人間の活動にも起因する多くの危機に直面しています。

しかし、海はその実態や変動について未解明の部分が多く残されています。電磁波を通しにくい海水の物理特性等もあり、海の状態を正確に把握することも難しく、将来予測はさらに困難です。そのため、従来の延長線上の取り組みでは、海に関するSDGs目標の達成は到底おぼつかないということが、国際的な共通認識となりました。

国連の中で海洋科学に関する専門機関と位置付けられている、ユネスコ政府間海洋学委員会※2では、こうした問題意識のもとで採るべき対応が議論されました。その結果は、ユネスコを通じて2017年の第72回国連総会への「海洋科学の10年」の提案となり、同総会において同10年が宣言されるに至りました。

国連海洋科学の10年地域計画ワークショップの様子。右端は米国スクリップス海洋研究所長のマーガレット・ライネン博士。

「海洋科学の10年」は、SDGsに直結する7つの社会的目標を定め、海洋科学を強力に推進することにより、私たちが直面する課題の解決を目指すという姿勢を前面に打ち出しています。これら社会的目標は、いずれも重く大きな課題で、分野横断的な取り組みが必須です。幅広い分野の学術研究が必要であると同時に、行政や民間企業、市民等との連携も不可欠です。2018年の第3期海洋基本計画にも「海洋科学の10年」への積極関与が盛り込まれ、日本も準備段階から大きく貢献しています。

さらに、2020年12月の「持続可能な海洋経済に向けたハイレベルパネル」でも、「海洋科学の10年」が重要課題の一つとなったほか、2021年2月には、多岐にわたる国内の関連活動の俯瞰などを目的として「国連海洋科学の10年日本国内委員会」※3が発足するなど、体制が整ってきました。本学においても、大気海洋研究所から「海洋科学の10年」に関する事業を提案し、これから本格的な取り組みを始めます。

道田先生が長を務めるFSI海洋ごみ対策プロジェクトでは、[1]海洋マイクロプラスチックに関わる実態把握、[2]マイクロプラスチック生体影響評価、[3]プラスチックごみ削減方策に関する総合的研究の3つを進めています。

日本は、「海洋立国」を標榜し、現に非常に幅広い分野で多くの高度な海洋関連活動が行われています。これらはどれも何らかの形で「海洋科学の10年」への貢献になり得るものですが、むしろ、同10年は、わが国が真の意味で「総合的な海洋政策」の展開に向かう絶好の機会でもあります。それは、わが国の利益にとどまらず、海洋科学に基づく社会課題解決に国際的に一致して取り組むことで、海全体の保全と持続的な利用につながるものと期待されます。

※1 The United Nations Decade of Ocean Science for Sustainable Development (2021-2030)
※2 ユネスコ政府間海洋学委員会:Intergovernmental Oceano-graphic Commission (IOC)
※3 https://oceanpolicy.jp/decade/

2019年7月31日~8月2日、日本がホストとなって東京で開催された「国連海洋科学の10年地域計画ワークショップ」より。IOC西太平洋小委員会(WESTPAC)議長、及び同事務局長、IOC事務局UN Decade担当部長ほか多くの関係者が揃いました。
 

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