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一生かけて海と川をぐるり回遊 謎深きウナギを科学する/黒木真理 多地域のネットワークで保全を!

掲載日:2021年11月2日

海と東大。
すべての生命の故郷にかかわる研究・教育活動集

あらゆる生命の故郷であり、地球の生物の生存を支えている海に関する科学を世界で進めるための「国連海洋科学の10年」。2021年はこの大きなキャンペーンがスタートした年です。そして東大は今年、海とともに歩んできた科学者を新総長に迎えました。工学、物理学、生物学、農学、法学、経済学……。様々な分野の事例が映し出す東大の海研究と海洋教育の活動について紹介します。
多地域のネットワークで保全を!

一生かけて海と川をぐるり回遊 謎深きウナギを科学する

黒木真理/文
農学生命科学研究科助教

KUROKI Mari

黒木先生が著した絵本
『うなぎのうーちゃん だいぼうけん』(福音館書店/2014年/1,300円+税)

1970年代から世界をリードした東大のウナギ研究。その学術を継承する黒木先生によると、ニホンウナギの産卵場は一つですが、育つ場は東アジアの国・地域に広がっています。保全には多くの人の協働と教育が大切だと考えた黒木先生は、様々なコンテンツ制作も進めています。

ニホンウナギ(Anguilla japonica)のレプトセファルス幼生

レプトセファルスと呼ばれるウナギの幼生をご存じでしょうか? その透きとおった木の葉のような形は、私たちが普段目にするにょろにょろとしたウナギの姿からは想像もつきません。私は、この美しいレプトセファルスに魅了され、海と川を旅するウナギの研究をはじめました。

東京大学では、1970年代から世界をリードする海洋研究として、ニホンウナギの産卵場調査が行われてきました。2009年5月、海洋研究所(当時)の塚本勝巳教授が率いる研究チームにより、日本から約3000km離れた北太平洋の西マリアナ海嶺で、初めてニホンウナギの卵が発見され、産卵場が特定されたことは大きな話題となりました。

世界にはニホンウナギ以外にも多くの種類のウナギが生息していますが、そのほとんどが何処で生まれるのかわかっていません。そこで、太平洋、インド洋、大西洋のさまざまな海域で、ウナギの産卵回遊生態を調べています。2016年には、計9カ国・地域の研究者と学生による国際共同研究として、南太平洋で約3ヶ月の大規模な調査航海を実施しました。この航海では、孵化したばかりのレプトセファルスが採集され、オセアニアに分布するウナギの産卵海域と南太平洋海流に沿った回遊ルートを推定することができました。今後は、地球規模の気候変動に対するウナギの環境応答や保全に関する研究へと発展させていきたいと考えています。

ニホンウナギのイラスト 『鮭と鰻のWeb図鑑』(https://salmoneel.com)より
絵:長嶋祐成

海から川へと異なる水圏環境を長距離回遊しながら一生を過ごすウナギのような生き物にとって、どこかひとつでも環境に不具合が生じれば、直ちに資源量に響いてきます。大袈裟にいえば、ウナギの資源は地球環境全般に影響されます。ウナギは古くから高栄養の食資源としても、ヒトに利用されています。日本で蒲焼きとしてよく食されるニホンウナギの繁殖集団はただひとつで、外洋の産卵場はピンポイントですが、彼らが育つ川や湖は、日本、韓国、中国、台湾、ベトナムなどの東アジアに広がっています。即ち、このひとつの種を保全するためには、分布するすべての国・地域の協力が不可欠なのです。多様な分野の研究者が共通した学術に対する熱意をもち、深い信頼関係のもとに学際的なネットワークを構築できれば、共有の生物資源を守ることに結実するのではないかと思います。

また、長期的な視点で生物を保全するためには、教育が大切です。そこで、次世代の子どもたちに海洋生物の魅力を伝え、地球環境に関心を抱くきっかけを創出するため、絵本やWeb図鑑の制作にも取り組んでいます。親しみやすいイラストや水中写真を取り入れた書籍やWebの教材は、家庭や図書館等における読み聞かせや小・中学校の教育機関でも広く活用できます。特に、2020年から続くCOVID-19流行下において、こうしたコンテンツは教育現場からの反響も大きく、大いに役立つことを実感しています。

学術研究船「白鳳丸」の甲板にて、アイザックス・キッド中層トロール(IKMT)の揚収作業。網の目合いは0.5mmと細かく、小さな魚卵や仔稚魚を採集できる。船での海洋観測は24時間交代で続くことも多い。 写真:Eric Feunteun
 

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