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海水に含まれるDNAで微生物からクジラの分布まで分かる?/吉澤 晋 世界を支える不可視の生物を追え

掲載日:2021年11月16日

海と東大。
すべての生命の故郷にかかわる研究・教育活動集

あらゆる生命の故郷であり、地球の生物の生存を支えている海に関する科学を世界で進めるための「国連海洋科学の10年」。2021年はこの大きなキャンペーンがスタートした年です。そして東大は今年、海とともに歩んできた科学者を新総長に迎えました。工学、物理学、生物学、農学、法学、経済学……。様々な分野の事例が映し出す東大の海研究と海洋教育の活動について紹介します。
世界を支える不可視の生物を追え

海水に含まれるDNAを調べれば微生物からクジラの分布まで分かる?

吉澤 晋/文
新領域創成科学研究科/大気海洋研究所准教授
YOSHIZAWA Susumu

我々の周囲に確かに存在している数多の微生物、なかでも海の微生物に着目しているのが吉澤先生です。用いるのは海水に含まれるDNAから目に見えない相手を解析する手法。微生物から大型魚類まで、捕獲せず効率的に生物の種類や量を推定する試みを進めています。

三陸沖で10月初旬に行った海水サンプリングの様子(新青丸航海)。このような採水器を用いて、沿岸から外洋、表層から深海までの海水を採取することで、微生物から大型生物の存在を調査します。

2020年3月以降、マスクを手放せない日々が続いています。なぜマスクをする必要があるのか? ご存じのように新型コロナウイルス感染症対策のためですが、ウイルスと呼ばれる生物学的存在が日常生活に大きな影響を与えたことで、我々は目に見えない生物の存在をこれまで以上に意識するようになったのではないでしょうか。

最も小さい生物である微生物も、パンデミック前から変わらず我々の周りに数多く存在します。例えば、スプーン1杯の海水には微生物(原核生物)が100万、ウイルスはその約10倍の1000万程度存在しています。海の体積を考えると微生物の数は膨大であり、微生物の機能やバイオマスを考慮せず海洋生態系の動態は理解できないと考えられています。微生物は肉眼では観察できないため、その存在を感じる機会は限られますが、目に見える微生物の現象もいくつかあります。

例えば、光を放つ微生物(発光細菌)なら肉眼でも観察できます。発光細菌は魚の腸内や体表に広く分布するほか、ヒカリキンメダイやチョウチンアンコウなどの発光器にも共生細菌として飼育されています。機会があれば、スーパーで購入した海産生物などを暗室で観察してみください、その多くが発光細菌の増殖により光を放つことでしょう。微生物は目に見えないだけで、我々のまわりに当たり前に存在する生物なのです。

アートの分野でも活動してきた吉澤先生。名刺用のイラストからは微生物(Prokaryote)が世界を支えるとの信念が見えてきます。

それでは、目に見えない海洋微生物はどのように研究するのでしょうか? 寒天培地を用いた培養研究が従来のスタンダードでしたが、海洋微生物の99%が培養できないことから、海水をフィルターで濾過し、そこに含まれるDNAを調べる方法が1990年代以降主流になりました。微生物の種は16S rRNAと呼ばれるリボソームの一部の配列を調べることで推定します。この手法を使えば、海のどこに、どの微生物が存在するのかが分かります。その後、遺伝子解析技術の発展を背景に、網羅的にDNAを解析するメタゲノムが盛んに行われるようになり、種だけでなく、その微生物がどのような機能を持つのかも徐々に分かってきました。メタゲノムから、海洋における硝化反応が古細菌によっても担われていることや、光合成とは異なる光受容体(微生物型ロドプシン)が海洋表層に大量に存在することなど、従来の手法では分からなかった多くのことを見出しました。

近年、濾過フィルターから抽出したDNAに、原核生物以外のプランクトンや魚類などのDNAも含まれることが分かってきました。つまり海水を調べるだけで、生物を捕獲することなく、生息する微生物からプランクトンや大型魚類に至るまで、効率的に生物の種類や量を推定することが可能なのです。現在、大気海洋研究所では海洋の様々な場所、深さの海水を調べることで海洋生物の分布を明らかにする「オーシャンDNAプロジェクト」※が行われています。海洋生物の多様性の維持や資源の適切な管理には、まず「どんな生物が」「どこに存在するのか」を知ることが必須だからです。目に見えないDNAを調べることで、微生物の動態だけでなく、海洋生物の分布や回遊ルート、時空間変動パターンを把握できる生物海図の作成を目指しています。

https://www.u-tokyo.ac.jp/adm/fsi/ja/projects/sdgs/projects_00103.html

スーパーで購入したイカをしばらく放置して暗室で観察すると、しばしば細菌の放つ光が観察できます(明条件と暗条件の写真を合成)!
分離した発光細菌を用いて書いた文字。微妙な発光色の違いが分かるでしょうか?
 

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