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東大映画研究Now/鄭 仁善 ハリウッド映画が日本を経由して韓国に輸入された知られざる理由

掲載日:2022年4月12日

UTokyo映画祭2022
カンヌやベルリンでやっているものとは違う、大学ならではの映画祭です。用意したのは、映画監督と研究者の対談、映画研究者4人による研究紹介、映画人として活躍する卒業生紹介、研究者12人が薦める映画作品集……。映画と大学の掛け算の成果をご覧ください。3、2、1、アクション!

ハリウッド映画が日本を経由して韓国に輸入された知られざる理由

鄭 仁善/文
人文社会系研究科 助教

CHUNG Insun

鄭先生の著書
『日韓インディペンデント映画の形成と発展』(せりか書房)2017年

MPAA会長による韓国訪問
1976年、韓国文化部長官に面会し、極東支社設立を打診するMPAAのジャック・ヴァレンティ会長。
出典:韓国国家記録院

『イカゲーム』や『パラサイト』など、韓国発の「Kコンテンツ」が脚光を浴びていますが、実は1990年代中頃まで韓国の映画産業は極めて零細でした。映画市場の開放は1980年代後半。それ以前、映画産業は政府に掌握され、輸入できる本数や業者などが管理されていました。市場の零細さと不透明性のためか、ハリウッド映画の直輸入はほぼ不可能でした。「アメリカが相手にしてくれないから日本へ行った」、「ハリウッド極東支社が日本にあったので日本に行った」という、1960-70年代に輸入に携わった映画人の証言が数多く見られます。1980年代中頃まで、ほとんどのアメリカ映画は日本経由で韓国に輸入されていたようです。

ここから様々な疑問が生まれます。なぜ、アメリカ映画を日本から持ってきたのか。業者は誰と取引をしたのか。取引は正式なものだったのか。ハリウッドスタジオは極東支社にどんな権限を与えたのか。解答を探る旅程は容易ではありません。韓国映像資料院にある元老映画人の口述資料を探しても、日本(極東)支社との関わりを示す証言は見つかりません。ただ、そこに度々登場するのは、アメリカ映画の販売を中継する在日朝鮮人ブローカーの存在でした。1974年の新聞記事には、アメリカ映画『サムソンとデリラ』を東京支社と東京の洋画中継商と各々契約した二人の業者が法的紛争を起こしたとあります。この記事は、ブローカーを通じた取引には正式でないものも存在した可能性を示唆します。ただ、彼らの存在はアメリカ映画協会(MPAA)も知っていました。1976年にMPAAの会長は韓国を訪問し、ブローカーの暴利を防ぐため、ハリウッドメジャーの共同支社を設立したいと表明しましたが、計画経済体制だった当時の韓国では不可能でした。

アメリカ映画の輸入過程が露呈したように、韓国社会における日本の影響は独立後も続きました。アメリカは地理的にも言語的にも人脈面でも遠地でしたが、日本はあらゆる面で近い国でした。当時、輸入業者の相当数が、植民地時代に日本で生まれたか教育を受けた人でした。彼らの足が日本に向かうのは植民地の経験と無関係とは言えません。洋画の輸入基準は日本でヒットしたかどうかであり、ポスターやチラシも日本のものを文字だけ韓国語に差し替え、そのまま使いました。

昨年末、1960年代から長年20世紀フォックスの日本支社で勤めた古澤利夫氏にインタビューしました。自ら担当した日本版『スター・ウォーズ』のポスターが韓国でそのまま使われていたのを知らなかったようです。しかし、知っていたとしても、結果的に本社の売上にプラスになるなら意に介さなかっただろうとのことでした。

この研究は、1950年代以降の東アジアをめぐる国際情勢や植民地主義、さらにディアスポラ問題とも絡み合いながら、その時代、ローカルに生きていた人々がどのようにグローバル化に行き当たったかを探求するものでもあります。散らばっているパズルのピースを組み合わせる過程を楽しんでいます。

500本以上の映画の宣伝・配給に携わり、『映画の力』(ビジネス社)の著書もある古澤利夫さんのインタビューの様子
韓国映画市場の開放前後の米映画の直輸入本数変化
年度 国産製作本数(本) 輸入本数(本) ハリウッド映画の直配本数(本) 国内製作の割合(%)
1984 81 25 0 76.4
1985 80 27 0 74.8
1986 73 50 0 59.3
1987 89 84 0 51.4
1988 87 175 1 33.2
1989 110 264 15 29.4
1990 111 276 47 28.7
1991 121 256 45 32.1
1992 96 319 57 23.1
1993 63 347 64 15.4

出典:映画振興委員会(2000)、『韓国映画年鑑』

韓国の映画市場が開放されたのは1988年。国内映画人の猛反発を受けながらハリウッドメジャースタジオは韓国に共同支社(UIP)を設立し、韓国の映画館に映画を直接配給し始めました。

※所属や職名は2022年3月時点のものです。

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