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研究者が薦める映画.1 『ムクウェゲ』/紛争鉱物研究者・華井和代

掲載日:2022年5月24日

UTokyo映画祭2022
東大の様々な分野の研究者12人に、各々の専門分野の観点からお薦めする作品を紹介してもらいました。映画を鑑賞する際の手引きとして、また、各研究者が進める学術への興味を高めるきっかけとしてご覧ください。
紛争鉱物研究者 お薦めの一本

『ムクウェゲ「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』

華井和代
未来ビジョン研究センター 講師

HANAI Kazuyo

 
©TBSテレビ
2021年 監督:立山芽以子 語り:常盤貴子 劇場:新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか http://mukwege-movie.arc-films.co.jp/

ノーベル平和賞受賞者の性暴力との闘いと日本のつながり

3月4日から全国で順次劇場公開されている本作は、2018年にノーベル平和賞を受賞したデニ・ムクウェゲ医師の活動やその背景を追った素晴らしいドキュメンタリー映画です。2021年に第21回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞しました。

コンゴ紛争が勃発してから20年以上経った今でも武装勢力と国軍による住民への暴力が継続するコンゴ東部では、多くの女性たちが文字通り肉体的に壊され、家族やコミュニティからは見放されるという悲劇が起きています。そのコンゴ東部に設立したパンジ病院で、ムクウェゲ医師はこれまで5万人以上の性暴力被害者を無償で治療し、彼女たちの社会復帰に尽力してきました。

この悲劇の背景にあるのが、私が研究している紛争鉱物です。世界有数の鉱物産出地域であるコンゴ東部では、武装勢力や国軍部隊が鉱山周辺地域を実効支配し、タンタルや金などの鉱物を活動の資金源にしています。地域住民を支配する手段として彼らが組織的に行っているのが性暴力。そしてその鉱物を使っているのが、私たちのような先進国の人間です。スマホやパソコンなどの電子機器に使われている鉱物は紛争の資金源になり、性暴力につながっているのです。映画はそういった日本へのつながりも描き、日本の高校生がこの問題を学ぶ姿も映しています。

立山芽以子監督は、コンゴ東部を訪れ、性暴力の被害者だけではなく、加害兵士にもインタヴューしています。この兵士は、10代の時に自分の村が襲撃され、殺されるか武装勢力に入るかの二択だったと打ち明け、性暴力は上司の命令に従って仲間であると証明する行為だったとも話しています。彼は有罪判決を受けて刑務所に入りましたが、親族が集めたお金で出所しました。現在は家庭を持つ彼が、もし戻れるのであれば学校に行きたい、と話していることがこの問題の難しさの一面を浮き彫りにしています。

日本からとても遠い地域で起きている悲惨な問題はともすると思考停止したくなるかもしれませんが、本作は私たちにも「できることがある」ということを描いています。例えば、募金をする、学ぶなど、諦めずにそれぞれの立場で自分にできることを探すきっかけになればと願っています。

 
その他のおすすめ
『女を修理する男』
2015年、ティエリー・ミシェル監督。ムクウェゲ医師の活動を描く。「紛争下の性暴力の実態と女性たちの生きる力に衝撃を受けました」

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