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研究者が薦める映画3『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』/阿古智子

掲載日:2022年6月7日

UTokyo映画祭2022
東大の様々な分野の研究者12人に、各々の専門分野の観点からお薦めする作品を紹介してもらいました。映画を鑑賞する際の手引きとして、また、各研究者が進める学術への興味を高めるきっかけとしてご覧ください。
現代中国研究者 お薦めの一本

『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』

阿古智子
総合文化研究科 教授

AKO Tomoko

 
Aquarian Works,LLC
2020年 監督:スー・ウィリアムズ 配給:太泰 自主上映会の問い合わせ: Tel 03-5367-6073 http://deniseho-movie2021.com

激動する香港とスター歌手の自由を求める闘い

香港ポップス界のスター、デニス・ホーの音楽活動と激動する香港の状況を映し出すドキュメンタリー映画です。子供の頃にカナダで教育を受け、香港に戻って憧れのアニタ・ムイに師事し、歌手として活躍してきた彼女は、中国返還後の香港で民主化を訴えるようになっていきます。2014年の普通選挙を求めた「雨傘運動」では若者と一緒に座り込み、2019年には犯罪容疑者を中国に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」改正案に反対する大規模デモにも参加しました。

アーティストは「色」がつくと、CMなどの仕事にも影響が出る可能性があるため、日本では積極的に政治的活動をしないと思いますが、彼女は街頭に出て声を上げ、国連人権理事会やアメリカの議会でも演説をし、香港の現状を訴えました。一市民として様々なことに関わり、意見を言う権利があることを間接的に歌の中でも表現しています。中国大陸でも人気があったデニス・ホーですが、社会活動をすることでその市場を失いました。巨大マーケットである中国と正常にビジネスが行えなくなる打撃は非常に大きいため、ハリウッド映画なども作風を変えたり、シーンを削ったりといったことを余儀なくされているなか、自分たちの表現をし続けている人たちがいます。彼女はその代表格です。

映画で流れる彼女の音楽は素晴らしく、発する言葉はとても力強く、そしてとにかくかっこいい。デニス・ホーの葛藤やさまざまな人との関わりを通して、香港の歴史、今の動いている香港を理解できます。しかし、2020年6月には、国家安全維持法が施行され、2021年12月にはネットメディアの役員として彼女も逮捕されました(保釈は認められた)。

昨年9月、香港で開催予定だったデニス・ホーのコンサートは直前に会場予約が取り消されました。しかし彼女は諦めなかった。厳戒態勢の中オンラインでライブ配信し、涙を流しながら歌う姿を見て私も深く心を動かされました。

政治は私たちの生活のとても細かいところにも関わっていて、全く関係しないわけにはいきません。彼女の姿を通して、緊迫する状況になったとき「人としてどうありたいか」ということも問いかけてくる力強い作品です。

 

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