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研究者が薦める映画.5『アポロ13』/流体工学者・大島まり

掲載日:2022年6月21日

UTokyo映画祭2022
東大の様々な分野の研究者12人に、各々の専門分野の観点からお薦めする作品を紹介してもらいました。映画を鑑賞する際の手引きとして、また、各研究者が進める学術への興味を高めるきっかけとしてご覧ください。
流体工学者 お薦めの一本

『アポロ13』

大島まり
生産技術研究所 教授

OSHIMA Marie

 
©1995 Universal Studios. All Rights Reserved.

研究をがんばりたいときに繰り返し観た一本

マサチューセッツ工科大学(MIT)への留学から帰国して、博士号を取得後、生産技術研究所の助手となり、学会のために渡米した際に観たのが、『アポロ13』でした。MIT時代の研究者仲間とスタンフォード大学の近くのシネコンに行ったんです。30代半ばで観たせいかもしれませんが、感動しただけでなく考えさせられる映画でした。

人類にとって3回目の月面着陸を目指して旅立ったアポロ13号が、月に迫ったところで爆発事故を起こします。酸素が流出し、大半の電力を失った13号は、月面を間近に捉えながらやむなく着陸を断念し、地球への帰還が唯一の目標となります。大気圏再突入に必要な電力と誘導プログラムを保持するため、司令船を閉鎖して小さな月着陸船に移り、暖房も切らざるを得ない状況に追い込まれた3人の宇宙飛行士。さらに船内の二酸化炭素濃度が上昇して死の恐怖が迫り……。

極限状態で与えられた課題を解かねばならない状況は、それまでの自分の研究人生にはありませんでした。必要なものがなければ調達すればよいという感覚があったのです。しかし、3人が使えるのは船内にあるものだけ。そこで工夫して課題を解決しなければ、待っているのは死。この設定は目から鱗でした。与えられた条件下で最大の仕事をするのが真のエンジニアだと気づかされ、材料も空間も時間も限られた状況で命を左右する課題に立ち向かう姿に心を打たれました。

奇跡の帰還を生んだ工学者魂とチームワーク

1995年 監督:ロン・ハワード  出演:トム・ハンクス、ケヴィン・ベーコン  DVD: 1,572 円 (税込) 発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント 動画配信:Amazon、U-NEXTなど 

アポロ13号は見事に帰還を果たし、「輝かしい失敗」と呼ばれます。これは平時からNASAが様々な状況を想定して訓練と経験を積み重ねてきたからこそ成し遂げられたことでした。研究者にも通じる教訓でしょう。宇宙にいる3人と地上の管制スタッフのチームワークも特筆すべき要素でした。象徴的なのは、エド・ハリス演じる管制官が発した“Failure is not an option”という言葉です。仲間を熱く鼓舞する一方で彼は冷静な検討も続けていました。典型的なアメリカのリーダーシップの表現ではありますが、やはりガツンときます。無事に帰還させることを目指して管制スタッフが一致団結し、飛行士は仲間を信じて行動する。このチームワークも平常時から培っていたからこその賜物でしょう。目的を共有して困難をクリアするなど非常時に急にやろうとしてもできないことです。

私は小学生の頃にアポロ11号の月面着陸を見て、宇宙飛行士になりたいと思いました。早々に諦めましたが、宇宙飛行士を送り出す側になりたくて工学の道を選んだんです。現実世界での活きたサイエンスやテクノロジーとは何か。それらを身につけ、必要なときに発揮するにはどうしたらよいのか。『アポロ13』はエンジニアの原点を教えてくれた映画です。研究生活を送るなかでがんばらないといけないと思った際に再生して観てきました。特に3人が二酸化炭素除去装置を組み立てる場面や管制塔とのやりとりはいつ観ても感激します。今後も何度か観ることになりそうです。

その他のおすすめ
ビューティフル・マインド
2001年、ロン・ハワード監督。ノーベル賞受賞の経済学者ジョン・ナッシュの半生を描く。「統合失調症に苦しむ天才を支援する大学の懐の深さに大学人として感じ入ります」

奇蹟がくれた数式
2016年、マシュー・ブラウン監督。インド人の天才数学者ラマヌジャンの半生を描く。「人種や宗教の違いと差別など、Diversity & Inclusionのあり方も考えさせられます」

ミクロの決死圏
1966年、リチャード・フライシャー監督。縮小された科学者らが人間の体内に入る冒険SF。「ミクロの世界や人体への興味を持った原点。血管内の血球の描写が印象的でした」

 

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