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研究者が薦める映画.9『ドラえもん のび太の宇宙開拓史』/稲見昌彦

掲載日:2022年7月7日

UTokyo映画祭2022
東大の様々な分野の研究者12人に、各々の専門分野の観点からお薦めする作品を紹介してもらいました。映画を鑑賞する際の手引きとして、また、各研究者が進める学術への興味を高めるきっかけとしてご覧ください。
身体情報学者 お薦めの一本

『ドラえもん のび太の宇宙開拓史』

稲見昌彦
先端科学技術研究センター 教授

INAMI Masahiko

 
©藤子プロ・小学館・テレビ朝日 1981

能力は己よりむしろ環境の変化で拡張する

子どもの頃、スポーツが苦手でした。野球で打席に立つと守備陣が一斉に前に移動する「稲見シフト」を敷かれたりして。「サイボーグ009」の跳躍力に憧れて木から飛び降りる練習に励み、転んで腕を骨折したこともあり、身体を鍛えるのは自分には向かないと思うようになりました。そんな頃に家族で亀有の映画館に行って観たのがドラえもん長編映画の第二作となる本作です。意地悪なジャイアンが映画では優しいというパターンが定着したのは本作からではないでしょうか。

あるとき、のび太の部屋がコーヤコーヤ星という文明のある惑星と超空間で繋がり、行き来ができるようになります。この星は重力が非常に小さいため、地球の重力に慣れた人が行けば自ずと高い身体能力が発揮できる。地球では弱くてパッとしないのび太も、そこではスーパーマンのような大活躍を見せます。腕を少し回しただけで当地の悪者たちが簡単に吹っ飛んでいく。その様子を見て、こうした環境を人工的につくればスポーツが苦手な自分でも活躍できるぞ、と子供心に思い、テンションが上がりました。武田鉄矢さん作詞の主題歌が入ったサントラも買ったし、テレビ放映時にももちろん観ました。

地球と違う環境で活躍するのび太に見た希望

ポイントは、能力も力の一種であり、相互作用であることです。能力は自分のなかにあると思いがちですが、そうではなく、自分と社会、自分と環境の相互作用のなかにこそあります。たとえば、サッカーが苦手な人が野球では活躍するとか、職場で燻っていた人が異動して活躍するとか、内気な人が英語で話すと活発になるとか……。そうしたことを考えるきっかけとなり、研究者として人間拡張工学を進める原点となった作品です。

1981年 監督:西牧秀夫 声の出演:大山のぶ代、小原乃梨子 DVD 2,200円(税込) 発売元:小学館 販売元:ポニーキャニオン

私がひみつ道具で最強と思うのは「もしもボックス」です。あれはまさにVR装置。昔からあんな道具を作りたかったというよりは、ドラえもん的な存在が現れることを願い、少なくとも未来の子孫が自分を助けに来ないはずはない、と10歳頃まで本気で信じていました。夏休みの宿題が終わらず、机の引き出しを覗いたこともあります。高学年になると、未来でもタイムマシンが発明されていないか、あったとしても過去に干渉しないルールなのだと考え、それなら自分でひみつ道具を作ればいいかと思うようになりました。

研究者になって、ドラえもんの透明マントのような光学迷彩の技術を開発しました。VR空間での活躍を現実世界に近づける一手として、時間の進み方が現実より遅いけん玉トレーニングのVRサービスを開発し、すでに1000人以上の利用者が通常より簡単に新技を習得しています。中学生の頃、ロス五輪の開会式で人がジェットパックで空を飛ぶのを見て、タケコプターそのものだと衝撃を受けました。近年はドローンバイクの開発も進みますが、操作が難しくて限られた人でないと飛べず、誰もが自由に飛ぶ状況には至りません。のび太に親近感を感じてきた研究者としてのアイデアを活かしたいと思っています。

その他のおすすめ
GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊
1995年、押井守監督。「研究室の助手の先生に参考文献として勧められ、博士論文のヒントに。数年後、立体映像の研究中に作品との繋がりに気づき、光学迷彩の技術に結実しました」

アバター
2009年、ジェームズ・キャメロン監督。「変身した世界での様子を巧妙に立体映像化。アバター視点での両目の距離表現に合点がいく。人間拡張系の理論に理解がある監督だと思う」

君の名は。
2016年、新海誠監督。「『転校生』(大林宣彦監督)の世界を美しく現代化。身体が変わると心も変わる。他者理解には変身が肝だと示し、VR研究の可能性も垣間見せてくれた一作」

 

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