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研究者が薦める映画.11『竜とそばかすの姫』/分子遺伝学者・村上善則

掲載日:2022年7月14日

UTokyo映画祭2022
東大の様々な分野の研究者12人に、各々の専門分野の観点からお薦めする作品を紹介してもらいました。映画を鑑賞する際の手引きとして、また、各研究者が進める学術への興味を高めるきっかけとしてご覧ください。
分子遺伝学者 お薦めの一本

『竜とそばかすの姫』

村上善則
医科学研究所 教授

MURAKAMI Yoshinori

 
©スタジオ地図 2021
2021年 監督:細田守 声の出演:中村佳穂、成田凌、染谷将太、玉城ティナ、幾田りら DVDスタンダード・エディション 4,180円(税込) 発売元・販売元:バップ

疾患科学が目指すデジタルツインの姿を示唆

私はがんの研究を進めてきましたが、近年、DNA等の生体情報に経時的臨床情報を加えた多数の症例を横断的に研究する意義に目覚めました。将来の個別疾患予防に役立てる次世代コホートの構築に加わり、科学技術振興機構のデジタルツイン(DT)プロジェクトに採択されて情報企業と共同で取り組んでます。DTはリアル空間の情報をITで集めてサイバー空間に再現します。たとえば学生に慕われる教師がいたら、その情報を抽出してDT教師を再現し、教育に携わってもらおうというわけです。個人情報から疾患予測プログラムを開発する計画もありますが、思い描くDTとはまだまだ開きがあります。

そんな折、家族の薦めで観に行ったのが本作でした。主人公は高知の高校生、すず。イヤホンとスマホを経由して抽出されたすずの生体情報をもとに仮想空間「U」に現れたベルは、音楽の才能を遺憾なく発揮して人気者になります。突如現れた竜が大暴れしてUを攪乱し、皆から疎んじられるなか、ベルだけは竜に歩み寄ろうとして……。

初めてUにベルが現れるシーンが非常に印象的でした。目指すDTの姿はこれかもと思い、自分の想像を超えた少し先の未来を見たように感じました。ストーリーの決め手は、仮想空間での匿名性を捨てることでした。匿名のままで人間同士の信頼感や愛情を深めるのはやはり難しいと思います。匿名性はコホート研究でも非常に重要ですが、それを研究以外の価値に繋げるには、最終的に個人へのフィードバックが必要となります。Uと現実世界との連動ぶりも示唆的でした。すずの顔にあるそばかすはベルにもあり、すずが元気を失うとベルも歌わなくなります。本人が老いればDTのほうも老いてくれないと、健康寿命の予測なんてとてもできないでしょう。

イヤホン経由で生体情報を抽出するなど無理だという声も聞きます。たとえば血液の酸素飽和度を知るには、昔は採血して酸素分圧を測る必要がありましたが、いまはパルスオキシメーターを指にはめればOK。日本企業が発明した現代の必需品です。こうしたいくつかのブレイクスルーがこの描写をも現実にするかもしれません。本作を観た若い人たちが疾患科学の夢+悩み=魅力にも思いを馳せてくれることを願います。

 

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