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どうして人工衛星は落ちてこないの?→小泉宏之|素朴な疑問vs東大

掲載日:2022年10月6日

素朴な疑問vs東大
「なぜ?」から始まる学術入門

言われてみれば気になる21の質問をリストアップし、その分野に詳しそうなUTokyo教授陣に学問の視点から答えてもらいました。知った気でいるけどいざ聞かれると答えにくい身近な疑問を足がかりに、研究の世界を覗いてみませんか。

Q.5 どうして人工衛星は落ちてこないの?

人工衛星は宇宙に打ち上げられた後、地球の周囲を回り続けています。なぜ地上に落ちてこないのでしょうか。
A.実は落ち続けています
回答者/小泉宏之
KOIZUMI Hiroyuki
新領域創成科学研究科 准教授
水エンジン「アクエリアス」を搭載した、超小型探索機「エクレウス」(Engineering Model)が月の裏側から観測を行うイメージ。NASAが開発したロケットに相乗りし、打ち上げられる予定です。©NASA

障害物がなければ飛び続ける

人工衛星は、落ち続けながら地球の周りを猛スピードで回っています。一番のポイントは障害物があるかないか。邪魔するものが何もなければ、動き続けることができるのです。例えば、日本からブラジルまで穴を掘って真空のトンネルをつくり、そこにボールを落とすと、障害物がないのでスピードを上げながら落ち続け、最後は地球の真ん中まで行きます。しかし、そこでは止まる要因がないため、勢いでブラジル側に進み続けます。重力によってブレーキが掛けられブラジルの地表まで着くと減速して止まります。そして再び中心に向かって落ちていき、行ったり来たりを繰り返します。人工衛星も同じように落ち続けているのです。

では、なぜ地上に落ちてこないのでしょうか。それは、人工衛星が地球の水平方向に速度を持っているから。もし速度を持たない人工衛星を宇宙にポンと置いたら、ズドンと地上に落ちてきます。しかし、人工衛星を障害物がない高さまで打ち上げ、横方向にスピードを持たせながら押し出すことで、下方向には落ちずに地球の周りを回っていきます。

つまり必須要件は、障害物に当たらない軌道を描けるように速さと高さを工夫するということ。国際宇宙ステーション(ISS)など、高度400kmあたりの地球に近い軌道を回る宇宙機の場合、秒速8km弱くらいの速さが必要です。これはフルマラソンを5秒くらいで完走するスピードです。高度400kmくらいではまだわずかに大気があり、その抵抗を受けて人工衛星は次第に地球に落ちてしまうため、時折エンジンを噴かせて軌道を調整しています。地球から遠ければ遠いほど大気が薄くなるため、例えば高度1,000 kmくらいだと放っておいても、1,000年くらいは落ちてきません。

推進剤に水を使ったエンジンに注目

この人工衛星に不可欠なのが、私が研究しているエンジンです。物を加速するためには、必ず何かを押しています。例えば歩くときは地面を、飛行機は空気を押して加速します。この押す装置がエンジン。宇宙には周りに押すものが何もないため、ロケットエンジンを使って加速します。エンジンにもさまざまな種類がありますが、私が注目しているのは推進剤に水を使ったエンジンです。一番シンプルなものは、液体の水を水蒸気にすると広がっていくので、それを押し出す力として使う方法。もう一つは、はやぶさにも使われたイオンエンジンで、水蒸気をイオン化させプラズマという状態にして、そこに電圧をかけ押し出すタイプです。

水を推進剤に使った超小型エンジン「アクエリアス」。今年8月末以降に打ち上げの予定です。アクエリアスの開発を主導した卒業生たちは、2020年にスタートアップ「Pale Blue」を設立し、水を推進剤に使ったエンジンの開発と実証を進めています。
小泉先生が開発した超小型イオンエンジンと1円玉。

水の利点は、取り扱いが容易で簡単に調達できるということ。近年はさまざまな企業が宇宙産業に進出していますが、それらの新しいプレイヤーたちにとっても毒性がない水を使うことの利点は大きいと考えています。水は月や火星などでも確認されているので、宇宙で調達することができるようになるかもしれません。気軽に個人で衛星を持つことができ、探索機も飛ばせるし、宇宙にも行ける……。SFのような世界ですが、そのような未来に思いを馳せています。

小泉先生の本
人類がもっと遠い宇宙へ行くためのロケット入門』(インプレス、2021年)
宇宙やロケットの基礎知識を学べる一冊。人工衛星やエンジンの仕組みについても、イラストや画像を使って分かりやすく解説しています。
 

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