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頭でっかちが多いと思われがち 東大の現状.8|玄田有史

掲載日:2025年5月27日

悩める東大 悩める東大

頭でっかちが多いと思われがち

東大生は、頭がいいけどひ弱だとか、頭でっかちで理屈っぽいといった印象を持たれがちです。
学生の側にも、得た知識が実体験に基づいていないというコンプレックスがあるかもしれません。
そうした空白を埋めるような多様な経験ができるのが、体験型の教育プログラムです。
実際に自分の五感で感じることの大切さ、そして違う環境にいる人たちと交わることで得られる気づきなどについて、体験型活動ワーキンググループ(WG)の座長を務める玄田有史先生に聞きました。

地方や海外に行き、人と出会い、気づきを得る

2012年から続く体験型教育

玄田有史
玄田有史
GENDA Yuji
社会科学研究所教授
体験活動WG座長

全学の教育プログラムとして、体験型活動を提供しています。もともとはグローバルリーダーになるために不可欠な、幅広い視野や多様な経験をしてほしいと2012年に「体験活動プログラム」ができたのが始まりです。数週間から数か月間、ボランティアや国際交流、地域体験をするプログラムです。翌年には1年間休学して学生自らが考えた社会体験活動を行う「FLY Program」別ウィンドウで開くを開始。2017年には、1年かけて地方自治体が抱える課題解決の糸口を探る「フィールドスタディ型政策協働プログラム(FS)」も加わりました。

東大生は頭でっかちで体験が足りないという通念があると思います。実際には様々な学生がいるので一概には言えませんが、聡明で、いろいろなことを考えるのが得意だけど、いかんせんそれが体験に基づいていないという弱さがあるのではないでしょうか。これらの体験型プログラムを立ち上げた背景には、そういった学生の体験の足りなさと、機会を提供したいという教員たちの積極的な気持ちがあると感じています。実際に足を運んで景色を見て、空気を吸い、匂いを嗅ぎ、食べ物を味わう。そういった五感で感じることが様々な研究にとって大事だと実感している研究者が東大には多いのです。

学生からの潜在的なニーズも強いです。東大生のおよそ6割は東京近郊出身。地方に行ったことがないとか、東京圏を出たことがないという人もいて、だからこそ世の中のことを知りたいと強く思っている。人口減少や過疎、地域の疲弊といったことは言葉では知っているけど、知らないまま喋っていることへの不安感のようなものがあり、その空白を埋めたいと考えているのではないでしょうか。

岩手県大槌町で震災の影響や復興について学ぶ体験活動プログラム
岩手県大槌町で震災の影響や復興について学ぶ体験活動プログラムより。住民の人たちと交流し、座禅や薪割りなども体験しました。

ノイズが多いネット情報

今はネットで検索すればすぐに情報を入手できる時代です。しかし、そういう情報にはノイズ(雑音)が多い。ノイズが一番少ない情報は「ウィークタイズ」という緩やかな絆だということを1970年代にアメリカの社会学者マーク・グラノヴェッターが提唱しています。親友や家族などの強い絆よりも、違う成功体験や失敗経験を持つ、たまにしか会わないような緩いつながりの人からのほうが有益な情報が得られるという説です。信頼関係を築き、ゆるく付き合うなかで、頭のなかにパッとビックリマークが浮かぶ。研究者の場合、それが新しい研究テーマにつながったり、学生であれば、こういう仕事をしたいといった選択につながります。体験型活動はこのウィークタイズを築ける機会です。

例えば、FSプログラムでは、学生は数日間、複数回現地滞在し、その地域の課題を調査し、知見のある学内の研究者などの支援を仰ぎながら、解決に至る道筋の提案につなげていきます。地域の人たちと一緒に悩み、奔走させてもらい、ゆるく付き合っていくなかで、そういった気づきを得られるのではないでしょうか。すぐには分からないかもしれませんが、数年後に意味が分かったりするのです。

個人的な意見ですが、体験活動をとおして何かができたではなく悶々としてほしい。地団駄踏んで欲しい。できなかったことに対する悔しさを感じて欲しい。大きな壁があったけどうっすらと何かが見えた、ということが重要だと思います。体験することはスタートでしかないわけで、そこからいろいろなことを長い人生をかけて考えてもらうことが大事だと考えます。

宮崎県諸塚村で農林業ビジネス・インターンシップ活動に取り組む学生
宮崎県諸塚村で農林業ビジネス・インターンシップ活動に取り組む学生。
青森県深浦町での農業・農村体験
青森県深浦町での農業・農村体験。雑草取りから農作物の収穫などを体験します。
体験型活動支援基金別ウィンドウで開く
実社会で多様な考え方や文化などを学ぶ体験プログラムの運営には資金が必要です。次世代を担う人材を育成する試みをご支援ください。

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