東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

赤、青、黄色の表紙に昭和初期の白黒写真と絵

書籍名

アートとしての裁縫教育 大正期から昭和初期、生活と芸術のための改革

著者名

清重 めい

判型など

264ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2026年2月2日

ISBN コード

978-4-13-056247-8

出版社

東京大学出版会

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アートとしての裁縫教育

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裁縫教育は、今なお学校教育にて家庭科の中で縫製実習という形で残っている。しかし、その時間数は教科自体の時間数の削減とともに減少傾向にある。戦前は女子教育の要として重視され、時間数も多く確保されていた裁縫教育。現代はファストファッションが主流となり、家庭で衣服を作ることはめっきりと減った。戦前に衣生活を整えるために必須だった裁縫教育は、不要になってしまったのか。実は、戦前にも社会の変化の中で絶えず裁縫教育の意義が問われていた。本書は、その戦前の流れを通して、裁縫教育の価値とは何かという検討を試みたものである。
 
本書の独創性は、[1] 大正期から昭和初期における裁縫教育をめぐる改革の動向を描き出したこと、そして、[2] 裁縫教育を「アート」として捉え直したことにある。
 
従来の裁縫教育史では、制度や教科書内容の変遷を描き出したものが多かった。しかし、家事科と異なり裁縫科は1911年から1941年に至るまで制度上の大きな変化がなかったため、制度変遷だけで描き出すには自ずと資料上の限界があった。そこで本書では、裁縫教育の実践家や論者の論考・実践記録といった一次資料を基にして、当時の様相を描き出した。具体的には、裁縫教育を改革しようとする動きを、(1) 精神涵養の重視、(2) 洋裁教育への移行、(3) 衣生活の管理への切り替え、(4) 芸術への包摂、という4つに類型化した。(1)~(3) は従来の研究でも単発的に取り上げられていたが、(4) を新たに発見し、さらに (1)~(3) も再検討を加えた上で網羅的な再構築を試みた。
 
また本書では、4つの裁縫教育改革並びに自由学園という具体的な教育実践の検討を通して、裁縫教育を「アート」として捉え直した。自由学園は、1921年に羽仁もと子・吉一夫妻によって西池袋に創設された女子中等教育機関であり、敎育史上では大正新教育の一角として位置付けられ、今日も東久留米市にて存続している。自由学園の教育実践の検討の中では、裁縫教育が「美術工芸教育」に包摂されていることに注目した。上記 (2) (3) の改革の中にも、西洋の「ファッション」や「服装文化」への着目を通して、裁縫教育における美的な観点への着目が含まれていたことを指摘した。それらは、芸術という狭義の「アート」に裁縫が含まれていることの証左であった。さらに、広義の「アート」は技法・感性という意味を有し、それは上記 (1) にも重なる。従来のような技術を学ぶだけではない、より広い「アート」という教育上の意義を持った科目として裁縫教育を捉え直したことが本書の価値と言える。

裁縫教育を生活に直結したスキルを身につけるものとして位置付けようとすると、その存在価値の主張は非常に弱いものとなる。しかし、戦前におけるその価値をめぐる議論や実践は、単なる女子教育として一括りにして通り過ぎてしまうにはあまりにも惜しいほどに豊かである。本書を通して、裁縫教育とは何かをぜひ一緒に考えてもらえると幸いである。

(紹介文執筆者: 清重 めい / 2026年8月14日)

本の目次

序章 裁縫教育の「アート」化
一 問題の背景/二 裁縫教育の歴史像―先行研究の検討/三 アートとしての裁縫―課題と方法/四 本書の構成
 
第I部 裁縫教育の四つの改革
 
第1章 明治後期から大正期の裁縫教育における教育的価値づけの変化―ドイツ新教育の受容との関連
一 はじめに
二 明治期の裁縫教育論
三 今村順子の裁縫教育論
四 「ドクトル・ライ」の筋肉運動主義
五 おわりに
 
第2章 一九三〇年代における成田順の洋裁教育論の再検討
一 はじめに
二 一九二〇年代における成田順の裁縫教育論
三 一九二〇年代末から一九三〇年代における成田順の裁縫教育論
四 おわりに
 
第3章 一九二〇年代から一九三〇年代における山本キクの「衣服科」構想―「服装文化」への着目
一 はじめに
二 山本キクの「衣服科」構想
三 黒川喜太郎と酒井のぶ子の裁縫教育論
四 おわりに

第4章 一九三〇年代における本間良助の創造主義裁縫教育論―創作主義図画教育論からの発展
一 はじめに
二 本間良助の創作主義図画教育
三 本間良助の創造主義裁縫教育
四 おわりに
 
第II部 アートとしての裁縫教育の可能性―自由学園の裁縫教育実践
 
第5章 一九二〇年代から一九三〇年代における自由学園の美術工芸教育―同時代の芸術運動と関連したファブリック・アート
一 はじめに
二 美術工芸教育の思想的背景
三 学園の美術工芸教育の展開
四 運動としての学園の美術工芸教育
五 おわりに
 
第6章 一九二〇年代から一九三〇年代における自由学園の裁縫教育実践―和裁と洋裁における生活合理化の実現
一 はじめに
二 羽仁もと子の衣生活に関する思想
三 自由学園の和裁教育
四 自由学園の洋裁教育
五 おわりに
 
第7章 一九三〇年代後半から一九四〇年代前半における自由学園の裁縫教育実践―生活合理化運動と戦時体制の親和性
一 はじめに
二 合理化から工場化・労働化へ
三 戦時体制下における「美」の追求
四 新たな衣生活スタイルの提案という役割
五 おわりに
 
終章 アートとしての裁縫教育
一 四つの裁縫教育改革
二 アートとしての裁縫教育実践―自由学園の裁縫教育実践
三 本書の意義と示唆
四 今後の裁縫教育史研究における可能性
 

関連情報

受賞:
第6回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2025年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
 
2023年度 日本教育方法学会 研究奨励賞 (2023年10月)
清重 めい 1930年代における本間良助の創造主義裁縫教育論ー創作主義図画教育論との関連に着目してー(『教育方法学研究』第47巻 pp.35-45 2022年3月)
https://www.nasem.jp/研究奨励賞について/
 
書籍紹介:
今週の一冊『アートとしての裁縫教育』 (学校法人自由学園ホームページ 2026年2月16日)
https://www.jiyu.ac.jp/blog/li_news/90356