ひつじ研究叢書 (言語編) 第155巻 接続表現の多義性に関する日韓対照研究
言語の多義性に関する研究は語彙的要素を対象にすることが一般的である。本書は文法的要素で見られる複数の用法を多義性として捉え直し、現代韓国語の接続表現「-는데 (以下neunde)」と日本語の「ケド (以下kedo)」を考察したものである。両形式は日韓で対応する表現としてよく取り上げられるが、これまでの研究ではその使い分けを具体的に分類、対照したものはなく、様々な使い分けにどのような関連性があるか説明されなかった。
筆者は修士論文でneundeの使い分けを記述して以来、複数の使い分けがある接続表現に興味を持つようになった。neundeの用例分析では、各グループに共通の統語・意味・語用論的特徴が観察され、四つ分類基準―前提の有無、前提との一致、対立、前件命題の希薄化―が有効であることが分かった。neundeは韓国語の接続表現の中でも接続範囲が非常に広いため、この分類基準を他の接続表現に活用できるのではないかと考えたのが研究の出発点である。本書はneundeと関連表現を記述することによって、分類基準の一般性と接続表現における多義性を検証したものである。
まずは日本語の対応形式とされているkedoの用例を分析したが、韓国語のneundeが接続する前後件の意味関係と一致しない部分が確認できた。kedoと類似性が非常に高い「ガ」においても「ノダ」との共起関係に相違が見られた。さらに、neundeとkedoが置き換えられない接続によく用いられる類似表現も分析した。その結果、本書で取り上げた形式が結ぶ意味関係には共通する部分と共通しない部分があり、それぞれの接続可能な範囲が明らかになった。また、本書で用いた分類基準は、neundeとkedoおよび類似表現を統一的に記述することが可能で、複文分析の枠組みとして可能性が見られた。
このような接続範囲の違いは単純な意味・用法の違いとして扱うだけでは、個別表現の特徴で記述が終わってしまう。そこで、本書は多義性が低いものから高いものまで、接続表現を段階的に捉えることで、体系的な説明を試みた。なお、多義性は接続表現の解釈に見られるものであると限定し、本質的な機能である接続指示とは区別した。それによって、一つの形式に存在する様々な使い分けの関連性、接続指示の抽象性と解釈の多義性の比例関係が理解できた。段階的な多義性をより具体的に示すために個別表現の記述を続け、接続指示から表面の解釈に至る思考過程を明らかにすることを今後の課題とする。
(紹介文執筆者: 池 玟京 (ジ・ミンギョン) / 2020年3月27日)
本の目次
1. 本書の目的
2. 本書の構成と概観
第1章 韓国語のneundeと日本語のkedo
1. 形態的特徴
1.1 neunde
1.2 kedo
2. 用法分類
2.1 neundeの先行研究
2.2 kedoの先行研究
3. 本書の立場
3.1 問題点
3.2 考察対象と方法
第2章 分類基準
1. 前提の有無
2. 前提との一致
3. 対立
4. 前件命題の希薄化
5. 本章のまとめ
第3章 neunde の解釈
1. ケース分け
2. ケースの特徴
2.1 ケース1
2.2 ケース2
2.3 ケース3
2.4 ケース4
2.5 ケース5
2.6 まとめ
3. ケースの分布
3.1 全体の分布
3.2 テキストの種類による分布
4. 本章のまとめ
第4章 kedo の解釈
1. ケース分け
2. ケースの特徴
2.1 ケース2
2.2 ケース3
2.3 ケース4
2.4 ケース5
2.5 まとめ
3. ノダとの共起
4. ケースの分布
4.1 全体の分布
4.2 テキストの種類による分布
5. 本章のまとめ
第5章 neundeとkedoの類似表現
1. jiman
1.1 jimanの先行研究
1.2 jimanのケース分けと分布
1.3 neundeとjimanの比較
2. ga
2.1 gaの先行研究
2.2 gaのケース分けと分布
2.3 kedoとgaの比較
3. noni
3.1 noniの先行研究
3.2 noniのケース分けと分布
3.3 kedoとnoniの比較
4. 本章のまとめ
第6章 接続表現の多義性
1. 接続範囲
2. 接続表現における多義性
3. 本章のまとめ
終章
1. 全体の要約
1.1 複文分類基準の確立
1.2 neundeとkedoの異同
1.3 類似表現の分析
1.4 各形式の接続範囲と機能
2. 課題と展望
索引