東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白い表紙に赤茶色の模様

書籍名

中国の近代的刑事裁判 刑事司法改革からみる中国近代法史

著者名

久保 茉莉子

判型など

344ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年7月2日

ISBN コード

978-4-13-026165-4

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

中国の近代的刑事裁判

英語版ページ指定

英語ページを見る

なぜ中国の近代法を研究するのか。
 
それは中国における秩序のあり方を理解するためである。中国という巨大な国家において人々がいかなる秩序の下で生きているのか。いかなる秩序意識をもつ人々によって中国という巨大な国家が成り立っているのか。これらの疑問を究明していくことは、中国に生きる人々のみならず、中国との密接な関係を築いてきた日本を含む世界の国々にとっても大きな意味があるだろう。
 
19世紀以降、西洋諸国のアジア進出が活発化するなか、東アジア諸国における西洋法の継受が進められ、東西の法の類似性が増していく。中国の場合、諸外国との間で締結した条約について「不平等特権」の存在が問題視されるようになったことを背景に、20世紀初年、清朝政府が西洋近代法を範とする法制改革に本格的に着手した。この事業は中華民国成立後も各政権によって引き継がれ、1930年代半ばまでに刑法、民法、刑事訴訟法、民事訴訟法、商法といった重要な法典が公布・施行されるに至った。
 
このことは、中国がそれまで築きあげてきた独自の法秩序を見直し、当時の世界で普遍のものとなりつつあった西洋近代的な法律制度を導入しながら新たな法秩序を確立しようとしたことを意味する。
 
こうして清代までに形成された「伝統法」ないし「固有法」は外国の影響を強く受けるかたちで変化していくこととなった。しかしそれは決して中国法が独自の特徴を完全に失ったことを意味しない。「伝統的」な法秩序と「近代西洋的」な法秩序との間には類似点も存在したのであり、それをうまく利用するような形で中国の法制改革は進められた。この複雑な過程を解きほぐしていく作業は、19世紀以降にアジア諸国で見られた「西洋的」なものと「非西洋的」なものとの接合という現象を理解する上で必要不可欠であるといっても過言ではないだろう。
 
にもかかわらず、当該時期の法状況については、十分に解明されない状況が続いてきた。そこで、本書は20世紀前半、とりわけ1920・30年代の中国における刑法や刑事訴訟法の立法過程およびその運用実態の具体的様相を見ていくことで、当該時期に中国の近代的刑事司法制度の基盤が形成されたことを実証し、その歴史的意味を検討する。

 

(紹介文執筆者: 久保 茉莉子 / 2021年4月19日)

本の目次

   序章 中国の近代法をとらえなおす
 
第一部 新たな秩序形成の試み―近代的刑事司法制度の整備
 第一章 罪と罰を定める―刑法典の編纂
 第二章 裁判はどうあるべきか―刑事訴訟法典の編纂
 第三章 刑罰は犯罪を減らせるか―刑罰改革と保安処分
 第四章 「訴える国家機関」の登場―検察制度の成立過程
 第五章 誰が訴えるべきか―自訴制度の成立過程
 
第二部 新たな法の下で生きる人々―近代的刑事司法制度の運用実態
 第六章 検察官たちの模索と努力―検察制度の運用
 第七章 被害者の訴訟参加と裁きの難しさ―自訴制度の運用
 第八章 地方法院の刑事裁判―ある殺人事件を中心に
 第九章 真実の追求か、迅速な裁判か―上訴制度の運用
 
 終章 中国近代的裁判の成立過程