東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白い表紙

書籍名

行政刑法 罰則と処分法則

著者名

小谷 利恵

判型など

332ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2021年4月14日

ISBN コード

978-4-7923-5325-4

出版社

成文堂

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行政刑法 罰則と処分法則

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本書は、日本の学術上において「行政刑法」と称され議論されてきた行政法規上の罰則について、歴史的観点に立って調査し考察することにより、その成立と変遷の経緯について解明することを目指した研究である。調査の結果、特に明治初頭から旧刑法 (明治十三年布告第三十六号) 導入までの時期に焦点を当てたものとなっている。
 
現下、罰則には、処分手段として、刑法 (明治四十年法律第四十五号) に定める刑である「懲役」や「罰金」、「科料」などが多く用いられている。また、刑ではない「過料」が用いられることもある。
 
前者は、刑法第八条に「この編の規定は、他の法令の罪についても、適用する。ただし、その法令に特別の規定があるときは、この限りではない。」との定めがあることに基づき、行政法学、刑事法学の両者において、原則として、刑法総則及び刑事訴訟法が適用されるものと解されてきている。
 
一方、判例の中には、明文の特別の規定が無いにも拘わらず、刑法総則を適用しなかったものが散見される。
 
また、「行政刑法」研究の嚆矢である美濃部達吉博士は、著書 (『行政刑法概論』昭和十四年、岩波書店) において、「行政刑法」を本来の刑法と区別し、刑法の総則を適用せず、特別な総則規定を設ける必要があると主張されている。加えて、法令による明示的な例外規定がある場合のみならず、解釈上当然の条理として、刑法第八条の適用を除外すべき場合があるとも述べられている。
 
本研究は、これらの学術上及び実務上の見解を踏まえ、文献や行政法規、刑事法規と向き合う中で生じた五つの課題認識に立ち、明治初期の様々な公文書を用いて、先行研究の助力も得つつ説明を加えることにより、これまで明らかにされてこなかった諸点を、実証的に整理し提示することに注力している。
 
明らかになったことは、行政法規上の罰則に規定されている「罰金」や「科料」は、刑法典に定める刑が用いられているものとして捉えられてきたが、これらは、そもそも刑ではなく、罰則に固有の処分手段として「過料」と共に各官省により立案され地方官等により執行されていたという事実である。これらの金銭による処分手段は、司法省の主張により裁判所に執行が移り、刑の如く扱われるようになった。また、旧刑法制定時に、刑として「罰金」や「科料」が規定されたことにより、実質的にこれらと混濁し同化した。このとき、罰則には、「懲役」も含み、旧刑法の総則を適用すべきでないものもあることなどが認識されていたが、整理作業が追い付かず、旧刑法に整合させるための法整備が一時便宜の方法として採られた。そして、旧刑法第五条や刑法第八条により、罰則の独自性は理解されにくいものとなり、現代に至っている。
 
これらの経緯の詳細は、他の法制度との関係も相まって、驚きを感じさせるものであり、罰則にまつわる法制度を改めて検討していく必要性を示している。どのように法制度が制定され執行されてきたのかを正確に知ること、また、真剣な協議文や伺文の中に、国の在り様や国民、住民の暮らしを思い腐心する官吏の姿を見出すことが、現在、そしてこれからの、学術と三権を支える力となっていくことを願っている。

 

(紹介文執筆者: 小谷 利恵 / 2022年2月22日)

本の目次

はじめに
 一 行政刑法とは何か
 二 行政法規上の罰則は違警罪制度の廃止により通例となったものか
 三 行政刑法は比較的新しいものか 
 四 刑法第八条と旧刑法第五条の規定ぶりが逆転しているのはなぜか
 五 行政法規上の刑は刑法典上の刑を用いたものか
 
序章 明治初期の行政刑法にまつわる法制度と立案・執行体制の素描
 第一節 行政刑法にまつわる四類型の法制度
 第二節 法制度の立案及び執行体制
 
第一章 「違令」条
 第一節 仮刑律の制定
 第二節 新律綱領と改定律例の制定
 第三節 「違令」条と「故」
 
第二章 「違式」条
 第一節 「違式」条の制定
 第二節 「違式」条の運用の特徴
 第三節 「違式」の制度変化
 第四節 府県の規則違反の処分制度と旧刑法違警罪の接合
 
第三章 違式かい違条例 (注)「かい」は言偏に圭。
 第一節 違式かい違条例の制定
 第二節 違式かい違条例の特徴
 第三節 他の類型の法制度との関係
 
第四章 罰則
 第一節 様々な過料
 第二節 明治初頭の行政法規の罰条
 第三節 罰と刑
 第四節 罰則の処分法則
 第五節 『諸罰則一覧表 全』の存在
 第六節 罰則と国律と警察処分
 第七節 罰則と旧刑法の併存
 
終章 現代への視点 ―行政法規上の罰則と罪―
 
おわりに
 一 行政刑法とは何か
 二 行政法規上の罰則は違警罪制度の廃止により通例となったものか
 三 行政刑法は比較的新しいものか
 四 刑法第八条と旧刑法第五条の規定ぶりが逆転しているのはなぜか
 五 行政法規上の刑は刑法典上の刑を用いたものか
 六 補論 法人処罰規定について
 

事項索引

 

関連情報

受賞:
第1回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2020年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html