東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白と若草色の表紙

書籍名

近世日本の災害と宗教 呪術・終末・慰霊・象徴

著者名

朴 炳道

判型など

344ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年2月26日

ISBN コード

9784642043366

出版社

吉川弘文館

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近世日本の災害と宗教

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本書は、「災害」という人間の生存の危機への文化的認識や対処の過程を「災害文化」と捉え、近世日本における地震・大火・飢饉・噴火・疫病など、種々の災害を研究対象に宗教学的視点からの体系的アプローチを試みた研究である。近年の災害研究は当面する災害が中心対象になっており、近世日本の災害を対象とした従来の研究も、ひとつの災害事象に限定されていた傾向が見出される。これに対して、本書は、海外における人文社会学的な災害研究の動向を比較・参照することによって、災害概念論や災害間の特徴の異同を視野に入れた災害への体系的な人文学的叙述を目指している。また、それによって近世日本の災害を相対化し、近現代日本の災害や他文化圏の災害と比較検討する事例を提供する。宗教研究の分野に関しては、特定の教団や宗教者を中心とした「災害と宗教」研究から距離を置き、宗教現象として「呪術」・「終末」・「慰霊」・「象徴」に照準を合わせいる点にその特徴がある。したがって本書は、これらのキーワードをめぐる概念の叙述や理論化という点で、宗教研究における「災害」の重要性を認識する機会を提供するという意義を持つ。
 
具体的に本書では近世日本に起きた地震 (1662年の近江若狭地震・1855年の安政江戸地震)・大火 (1657年の明暦大火)・飢饉 (1732~33年の享保大飢饉)・火山噴火 (1783年の浅間山大噴火)・疫病 (1858年の安政コレラ流行・1862年の文久麻疹大流行) などの災害を研究対象としている。
 
とくに、当時の人々が残した「災害見聞記」や「災害供養塔」、「鯰絵」・「はしか絵」・「コレラ絵」のような「災害錦絵」などを中心資料とし、災害をめぐる近世日本の人々の災害認識と対処の姿を、呪術的実践、災害体験による世界観の転換、大量死者の発生と対処、災害象徴などの分析を通して示した。分析においては、「トラウマとしての災害」に直面して、それを「泥の海」や「火の玉」などのイメージをもって「終末」として認識し、「世なおし」などの「呪術」によって乗り越えようとした人々の生き生きとした姿が浮かび上がってきた。そして、大量の身元不明の死者を諸宗的・集団的・平等的に認識して克服しようとした姿を、集団埋葬や施餓鬼などの「慰霊」の実践を通して確認した。また、災害認識と対処の全過程に介入する「象徴」の様々な形や意味を、とりわけイメージ化された幕末の錦絵の分析から示した。こうした災害の場面に見られる「呪術」・「終末」・「慰霊」・「象徴」の側面は、「災害」がもつ宗教性を浮き彫りにするものである。

 

(紹介文執筆者: 朴 炳道 / 2022年2月18日)

本の目次

序 章 「災害と宗教」研究序説
第一章 「災害見聞記」からみる呪術と終末――寛文二年の近江・若狭地震と『かなめいし』
第二章 近世火災における死・埋葬・慰霊――明暦三年の大火と回向院の開創
第三章 近世飢饉における死・埋葬・慰霊――享保十七~十八年の大飢饉と飢饉死者
第四章 近世災害死者をめぐる認識と実践――「無縁」の近世的意味
第五章 近世疫病における災害の象徴化――文久二年の麻疹大流行と「はしか絵」の登場
第六章 幕末災害の象徴化と「災害錦絵」――「疱瘡絵」「鯰絵」「はしか絵」「コレラ絵」の相互比較を通して
終 章 まとめと展望――「災害と宗教」研究の可能性

関連情報

受賞:
第1回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2020年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html

書評:
清水邦彦 評 (『宗教研究』p679-684 2021年12月)
https://ci.nii.ac.jp/naid/40022762468

書籍紹介:
「トラウマからユートピアへ展開」 (『仏教タイムス』 2021年5月20日)
http://www.bukkyo-times.co.jp/

アンジャリWeb版:齋藤公太 (神戸大学人文学研究科講師)「亀裂のなかで生きること」 (親鸞仏教センター 2021年5月)
http://www.shinran-bc.higashihonganji.or.jp/publish/publish08_number02-01.html
 
(中外日報 2021年4月10日)
https://www.chugainippoh.co.jp/article/kanren/
 
関連記事:
特集: 宗教と感染症「災害」としての近世日本の「疫病」と宗教的対処―疱瘡・麻疹・コレラからコロナまで― (『現代宗教』 2021年)
http://www.iisr.jp/journal/journal2021/P103-P125.pdf
 
近世日本の災害見聞記から読む災害除けの呪いと終末観(第九部会,研究報告,<特集>第74回学術大会紀要) (『宗教研究』89巻Suppl号 2016年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rsjars/89/Suppl/89_KJ00010163769/_article/-char/ja/