東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

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書籍名

増税の合意形成 連立政権時代の政党間競争と協調

著者名

田中 雅子

判型など

328ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年3月

ISBN コード

978-4-535-52589-4

出版社

日本評論社

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増税の合意形成

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増税はどの国でも、いつの時代でも、人々の反発を招きやすい不人気な政策といわれる。民主主義体制下で有権者に負担増をもたらすような政策はいかにして成立するのか。これが本書の根幹をなす問いである。
 
1990年代以降の日本の財政を直視すると、この問いの切実さは増す。先進諸国はいずれも福祉国家とその財政基盤の構築に苦慮した政策運営を行ってきたものの、日本の突出する債務残高は、社会に負担増への合意を取り付ける努力を怠ってきたことを意味するからである。
 
本書が取り上げるのは、消費税である。消費税は有権者に直接的な負担を課す、負担増政策の典型といえる。増税は有権者に不人気な政策であり、選挙での敗北を恐れる政治家や政党は先送りするというのが通説である。
 
しかし政策過程を分析していくと、導入時に比べ消費税に対する理解は有権者の間でも高まっており、税率引き上げに賛成する政治家や政党、団体も増加したことがわかる。ここで明らかにしたい問いは、消費税増税の必要性が広く認識されながら、なぜ日本では実現が困難なのか、どのような条件であれば成立するのか、である。本書は解明する手掛かりとして、政権構造に着目した。
 
本書の主張は、単独政権と連立政権では負担増政策を成立させるために有効な戦略が異なり、政権構造の変化に適した合意形成をできなかったことが、消費税増税を遅滞させた要因である、というものである。第一の独自性は、合意形成手段として規律と補償に着目し、単独政権では規律、連立政権では補償が有効であると実証した点である。第二に、選挙制度、政党システム、政権構造という公式・非公式の制度間の不整合がある場合に、政策への反発が生じやすいことを指摘した点である。
 
本書の意義は以下の三点である。
 
第一に、民主主義体制下で有権者の反発を招きやすい負担増政策をいかにして成立させるのか、という今日的課題への応答である。
 
第二に、政権構造が政策帰結に与える影響を、政治アクターの戦略に注目して明らかにしたことである。
 
第三に、連立政権研究に対する貢献である。日本では1993年以降、ほとんどの期間が連立政権であったにもかかわらず、そのことが政策過程や政策帰結にいかなる影響を与えたのかについては部分的な言及に留まっていた。本書では税制を題材にして、連立政権下の政策過程を包括的に分析し、連立発足初期に比べ安定期では取引コストが低減され、官僚や利益団体の行動に変化をもたらしたこと、さらに政党内の権力構造にも影響を与えたことを明らかにした。
 
日本が課題先進国といわれるようになって、一定の年月が経過した。現在を生きる者として、課題先送りによって将来の政策の選択肢が狭まることに強く責任を感じている。課題解決に知恵を振り絞る人々に本書が僅かでも貢献できるならば、これ以上の喜びはない。
 

(紹介文執筆者: 田中 雅子 / 2023年2月10日)

本の目次

第一部 理論編
      
第1章.研究の問い     
1.1 はじめに
1.2 問題の所在      
1.3 主張    
第2章.先行研究
2.1 財政赤字研究     
2.2  福祉国家と租税   
2.3  党派性
2.4 政権の断片化
2.5 非難回避戦略     
第3章. 分析枠組み    
3.1 制度不整合      
3.2 分析枠組み      
3.3 仮説    
 
第二部 事例研究
 
第4章. 自民党単独政権期の税制過程    
4.1 自民党税制調査会の機構   
4.2 自民党税制調査会の審議過程
4.3 自民党単独政権下の消費税導入過程 
4.4 自民党単独政権期の小括   
第5章. 連立政権期の税制過程  
5.1 日本の連立政権   
5.2 細川・村山政権   
第6章.第一次自公連立政権I (1999-2006)
6.1 自公連立の経緯と特徴     
6.2 小渕・森政権     
6.3 小泉政権
第7章.第一次自公連立政権II (2006-2009)
7.1 消費税に対する政治家と有権者の政策態度    
7.2 安倍・福田・麻生政権     
7.3 第一次自公連立政権の小括 
第8章.民主党政権と第二次自公連立政権  
8.1 民主党政権      
8.2 第二次自公連立政権
8.3 連立政権期の小括
第9章. 諸外国比較と結論
9.1 諸外国の付加価値税
9.2 付加価値税第二世代との比較
9.3 結論    
 
参考文献
あとがき
索引

関連情報

受賞:
第2回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2021年) 
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
 
書評会:
「具裕珍氏『保守市民社会と日本政治』と田中雅子氏『増税の合意形成』を読む」 (オンライン [主催: 相関社会科学研究会] 2022年5月13日)
http://www.kiss.c.u-tokyo.ac.jp/wpdata/wp-content/uploads/2022/04/220513%E6%9B%B8%E8%A9%95%E4%BC%9A%E3%83%9D%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC.pdf