
書籍名
大学職員人事異動制度の実証的研究 職務遂行高度化への効果検証
判型など
296ページ、A5判、上製
言語
日本語
発行年月日
2023年4月
ISBN コード
978-4-7989-1827-3
出版社
東信堂
出版社URL
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「ひとつの分野を極める」という言葉を聞くと、どのような印象を抱くでしょうか。何となくいい印象を抱いた方が多いのではないでしょうか。そして、「労働者は、自らの意思で選択した特定の分野における知識・経験を活用することで、仕事がよりできるようになり、仕事を通じて得られる満足感も高まる」という主張を聞くと、これも何となく納得する方が多いのではないでしょうか。
しかし、少しだけ立ち止まって考えてみると、先の考えには、以下のような疑問を容易に提示することができます。
「あなたが (若いころに) 選択した『ひとつ』の分野の知識・経験だけで、現実の仕事はうまくこなせるのでしょうか?」
「あなたが (若いころに) 選択した『ひとつ』の分野は、”仕事の場において”本当にあなたがもっとも得意だったり、もっともやりたかったりする分野なのでしょうか?」
本書が対象としている大学事務職員の仕事は、総務人事、経営企画、財務経理、教務学生支援、入試広報、研究支援、国際交流など、さまざまな分野で構成されています。また、この仕事上では、教員や学生だけでなく、文部科学省や民間企業など、さまざまなステークホルダーとかかわる必要があります。そのような仕事を遂行するうえで、「人事異動制度 (≒定期的な人事異動)」はどのような意義・効果を持っているのか、これが、本書で行った研究の目的です。
「人事異動」とは、組織内のあるポジションから別のポジションへと配置が変更される制度であり、日本企業においては、労働者の希望よりも、人事部門の意向が強く反映されると言われています。その目的には、個々人の適性の発見や、幅広い経験を通じた人材育成などがありますが、一方で、特定分野の専門性の醸成を阻害するという点で批判もある制度です。
本書で明らかにした、大学事務職員の人事異動制度の効果を簡潔にまとめると、以下のとおりです。大学事務職員は、職位が上昇 (つまり出世) すると、幅広いタイプの仕事を、幅広いステークホルダーとかかわりながら遂行する必要が生じます。しかし、職位が低い時期には、経験できる仕事のタイプやステークホルダーとのかかわりの範囲は限定されています。ただし、分野を超えた人事異動によって、その限定性が打破され、職位が低い時期から、さまざまな仕事やかかわりを経験することができます。また、制度として一定の強制力があることで、ほぼすべての職員にそのような機会が与えられるとともに、人的ネットワークの構築にも貢献している点も重要です。
最後に、本書では、大学事務職員というひとつの「対象」を、複数の観点から切っていくことで、対象についての理解を深めていく研究手法を採用しています。特定の「方法」を深化させるタイプの研究の面白さとは異なり、ひとつの観点からは見えなかったものが、複数の観点を重ね合わせることで見えてくるという、対象研究の面白さについても、本書を通じて伝わることを願っています。
(紹介文執筆者: 木村 弘志 / 2023年6月2日)
本の目次
第1部 本研究の枠組みと方法
第1章 先行研究レビューと本書の構成
第2章 本研究で使用するデータ
第2部 人事異動制度の効果検証
第3章 人事異動制度がもたらす職務の変質
第4章 人事異動制度がもたらす業務内経験
第5章 人事異動制度がもたらす能力の変容
第6章 人事異動制度がもたらす職務遂行の高度化
終 章 本研究の結論と残された課題
引用・参考文献/参考資料/あとがき/索引
関連情報
第3回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2022年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html