真宗大谷派は、親鸞を宗祖とする浄土真宗の一宗派である。同じく浄土真宗の一宗派である浄土真宗本願寺派と並び、日本の仏教教団のなかでも大規模な宗派の一つである。
日本の歴史に関心を持つ人であれば、親鸞、浄土真宗についてはどこかで触れたことがあるだろう。それでは、現在の浄土真宗に関してはどうだろうか。浄土真宗と縁のある人は別として、多くの人はほとんど知識を持ち合わせていないのではないだろうか。近代の浄土真宗史について触れる機会も学ぶ機会もほとんどないからである。
本書が取り上げる真宗大谷派では、近代になると、信仰運動と組織改革運動が展開される。その運動は多岐にわたる。信仰運動の面では、近代社会にふさわしい信仰を追求し、組織改革運動の面では、民主主義的な意思決定の仕組みの導入、経営の効率化、布教・教化体制の見直しが目指された。しかし、真宗大谷派の教団改革運動を担った改革派は大きな問題に直面する。信仰共同体としての教団と行政組織としての教団は一致するのか、という問題である。
たとえば、多くの信者を獲得しようとメディア戦略を展開している宗教教団があったとしよう。教えを伝えていくうえで教団の経営戦略は重要である。しかし、仮に経営面ばかりを重視し、教えを疎かにした場合、宗教組織は経営組織に堕落していると批判が寄せられるかもしれない。実際、歴史を振り返ると、そうした批判が投げかけられてきた宗教教団も少なくない。信仰と組織改革とのあいだで生じる矛盾・葛藤は、宗教組織に固有の問題である。
こうした信仰と組織改革とのあいだで生じる矛盾・葛藤を抱えながら展開したのが真宗大谷派の改革運動である。歴史を紐解いてみると、マルクス主義者による宗教批判への応答、総力戦体制への対応、新宗教の台頭、伝統的な宗学や教団体制を重んじる宗教者との対立など、改革派は多くの危機に直面してきたことが明らかになる。いくつもの危機を乗り越えてきたからこそ、真宗大谷派をはじめとした伝統宗教は今日もなお存続しているのである。
本書のアプローチは、歴史社会学である。戦後に教勢を拡大した新宗教、あるいはスピリチュアリティに関する宗教社会学的研究は多く存在する。それに対し、伝統仏教教団に関する研究は少ない。古典的な社会学理論では、近代以前から存在する伝統宗教は、やがて消滅する、あるいは社会的な影響力を弱めていくと考えられていた。しかし、真宗大谷派をはじめ、多くの伝統宗教は今日も存続している。伝統宗教が近代社会においてどのように変化してきたのか、この問いは、宗教に関する社会学の理論的前提を見直すことにつながる。真宗大谷派の改革運動を通じて見えてくるのは、社会のさまざまな論理と対峙しながら変容してきた宗教の歴史である。
(紹介文執筆者: 宮部 峻 / 2026年10月23日)
本の目次
2章 分析枠組みと事例の概要:教団組織論と改革派の系譜
3章 「宗教」と「反宗教」の近代:マルクス主義的宗教批判の生成
4章 戦争と改革派の動員:組織の合理化と教学の再編成
5章 封建遺制批判と教団改革運動:「真人社」の結成と課題
6章 大衆の時代と浄土真宗:同朋会運動の展開と課題
7章 教団改革の帰結:宗憲改正にみる法学の論理と教学の論理
8章 改革の帰結と浄土真宗の新たな課題
関連情報
第6回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2025年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
書評:
碧海寿広 (武蔵野大学文学部教授) 評 (『ちえうみPLUS』 2026年6月8日)
https://chieumiplus.com/article/c-bookreview20260608
書籍紹介:
寺社Nowの書棚 – Books - (『寺社NOWオンライン』 2026年8月23日)
https://jisya-now.com/news-press/20260823-95007/
仏書・良書に親しむ新緑読書特集2026 (『週刊佛教タイムス』 2026年5月21日号)
https://www.bukkyo-times.co.jp/cn6/pg6303790.html
イベント:
【第35回「仏教と近代」研究会】『信仰と組織改革―真宗大谷派・改革運動の歴史社会学』――著者を迎えての書評会 (「仏教と近代」研究会 2026年8月21日)
http://blog.livedoor.jp/kindaibukkyo/archives/38390634.html




eBook