東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白い表紙にカラフルなタイポグラフィ

書籍名

ホームスクールと義務教育 米国の制度設計と日本への示唆

著者名

宮口 誠矢

判型など

254ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2026年2月18日

ISBN コード

9784000617420

出版社

岩波書店

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ホームスクールと義務教育

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学校だけが義務教育を担う──日本では長らく、これが暗黙の前提とされてきました。しかし、不登校の子どもや、通えても学校での学びが自分に合わない子どもがいるように、より柔軟な教育機会へのニーズはたしかに存在します。そうした子どもたちにとって、親が家庭で義務教育を行う「ホームスクール」は一つの選択肢になりえるでしょう。
 
ただ、単にホームスクールを正規の義務教育として認めるだけでは、十分な資源のない家庭では実践が難しく、場合によっては、満足な教育を受けられないまま学齢期を終える子どもさえ生み出しかねません。それならば、ホームスクールは禁止されるべきでしょうか。そう結論づけるのは早計です。誰にどれだけの教育を保障できるかは、採用する制度の中身によって大きく変わりうるからです。
 
では、どのような制度がありえ、それぞれどんな意義と課題があるのでしょうか。これを明らかにする際に「好事例」となるのが米国です。州ごとに異なる多様な制度があり、親の権利を重視して無規制を支持するものから、子どもの権利を重視して原則禁止を唱えるものまで、望ましい制度をめぐる様々な議論の蓄積があるからです。しかし国内外の先行研究は、米国における多様な制度についても、制度の当否を論じる議論についても、横断的な分析を行ってきませんでした。本書は、その空白を埋めることで、様々な「ありうる制度」を掘り起こし、そうした制度の当否を論じるために使える「有用な概念」を提示するものです。
 
本書の作業からは、従来の理解とは異なる事実もみえてきます。日本では「米国ではホームスクールが実効的に規制されている」との理解が多くみられますが、実際には大多数の州が実効的な規制を課さず、ほぼ無条件に認めていることが明らかになりました。教育ネグレクトがあっても、家庭外の誰にも気づかれない仕組が取られているわけです。
 
翻って、欠席期間中に何を学んでいても、あるいは何も学んでいなくてもそれを確認する仕組がなく、一定の年齢になれば一律に義務教育が終わる制度──すなわち日本の現行制度も、「事実上のホームスクール」を無規制で認めているに等しいのです。本書で指摘したように、ホームスクールを認めることで生じる問題は、すでに現在の日本の制度下で起こりうるのですが、このことは十分に認識されてきませんでした。
 
本書の学術的貢献は、多岐にわたります。たとえば、米国の制度と議論に見出された「充分性」(adequacy) と「進捗」(progress) の概念を組み合わせることで、従来の研究でトレードオフの関係にあるとみなされてきた「親の広範な自由」と「国家による教育保障」が両立しうることを示した点はオリジナルな貢献です。また、義務教育の終了基準について、従来対立的に理解されてきた「年齢主義」と「修得主義」を「修得条件付き年齢主義」として接合しうることを論じ、教育学の基本的な理解を問い直しています。
 
このような本書の内容は、「望ましい教育制度改革のあり方」が論じられる際に、より多くの選択肢を議論の俎上に載せ、よりよい改革案の構想を可能にするものでもあります。
 
ホームスクール制度について考えることは、常識や自分の経験を相対化することであり、様々な異なる状況にある子どもや親について想像することでもあります。義務教育の「当たり前」を問い直したい方にも、今のところ学校が包摂しきれていない子どもにどんな制度を用意すべきかを考えたい方にも、本書は思索の手掛かりをいくつも示してくれるはずです。ぜひ本書とともに、未来の制度について考えてみてください。
 

(紹介文執筆者: 宮口 誠矢 / 2026年10月13日)

本の目次

 はしがき

 序 章
  用語の定義
  ホームスクールをめぐる日本の制度

第I部 米国ホームスクール制度の展開と現在

 第一章 全州における合法化と規制緩和
  一 米国は就学義務制か教育義務制か
  二 義務教育制度導入時における在宅教育の容認
  三 ホームスクール合法化の運動と展開
  四 学界内外における規制強化への動き
  五 ホームスクールの現状と学問的知見――人数、属性、動機、成果
  六 感染拡大下で急増したホームスクール

 第二章 現行の規制制度と支援制度
  一 連邦政府の関与
  二 全州のホームスクール規制制度
  三 主要なホームスクール支援制度

 第三章 アイオワ州の多元的制度と支援プログラム
  一 アイオワ州におけるホームスクール規制制度――被支援要件としての規制
  二 アイオワ州におけるホームスクール支援制度――教育資源、教育機会の提供
  三 アイオワ州におけるホームスクール制度の意義と課題

第II部 ホームスクールへの国家関与をめぐる制度構想

 第四章 子どもの利益確保を目的とするホームスクール制度構想の誕生
  一 子ども、親、国家の「三つ巴の利益枠組」と利益衡量
  二 リーシュの制度構想――基礎学力保障と「多文化的カリキュラム」
  三 グランザーによる批判とリーシュの応答――国家関与の根拠

 第五章 国家の保障能力と広範な合意を重視するホームスクール制度構想
  一 ホームスクールの複雑な特性――規制無効化、生活と義務教育の判然ならざる境界
  二 国家の保障能力の限界と幅広い社会的合意
  三 カンズマンの制度構想――テスト評価による読み書き計算能力の保障

 第六章 親の責任を重視するホームスクール制度構想
  一 国家の役割と個人の権利――ホームスクール制度が前提とすべき規範
  二 子どものニーズと基礎的利益――ホームスクール制度が前提とすべき事実
  三 ドワイヤーの制度構想――開始前審査、定期評価、支援的介入による教育保障
  四 虐待の隠れ蓑としてのホームスクール――法制上の不備
  五 最低限必要な教育と福祉――国家が負う憲法上の義務
  六 バーソレの制度構想――「原則禁止」および厳格な審査による教育と福祉の保障

 第七章 ホームスクール制度論の論点と基本概念

 終 章
  一 本書の知見と考察
  二 ホームスクール研究への貢献
  三 学校外義務教育研究への貢献
  四 義務教育研究への貢献
  五 今後取り組まれるべき研究課題

 あとがき

 参考文献
 初出一覧
 根拠法令および判例
 索 引 
 

関連情報

受賞:
第6回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2025年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
 
関連記事:
日本におけるホームスクール制度研究の動向と課題 (『教育制度学研究』2023巻30号p.196-203 2023年)
https://doi.org/10.32139/jjseso.2023.30_196
 
ひろゆき氏・ゆたぼん父「ホームスクール論争」から考える“日本の義務教育”米国の制度から見えてきた「課題」 (『現代ビジネス』 2021年4月24日)
https://gendai.media/articles/-/82453