東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

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書籍名

災害と映像 防災ドラマは社会を救えるのか

著者名

安本 真也

判型など

324ページ、A5判、上製カバー

言語

日本語

発行年月日

2026年4月3日

ISBN コード

9784641175143

出版社

有斐閣

出版社URL

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災害と映像

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地震が起きるたびに、「災害に備えましょう」という言葉が画面や紙面に並ぶ。それでも、実際には思うように進まない。では、何が人を動かすのか。本書は、この問いを映像という切り口から検討する。
 
本書は、大きく二つの内容から構成される。前半では、日本で製作された「災害映画」の分析を通して、社会に共有されてきた災害イメージの変化をたどる。どの災害が題材になりやすいのか、物語が「災害前」「災害時」「災害後」のどこに重心を置くように変わったのか、その歴史的な移り変わりを追う。特に近年の作品では、「災害時」という破壊の場面そのものよりも、喪失を抱えながらも立ち直り、復旧・復興に向かおうとする姿が中心的に扱われるようになっていることを明らかにした。この変化は、災害を映画における「見せ場」として消費することが難しくなったこと、そして災害と共存しなければならないものとして社会が受け止めるようになってきたことを示しているのではないか。こうした映画の変化を追うことで、日本社会において災害の受け止め方がどう変わってきたのか、という社会心理を読み取ることができる。

こうした日本社会の現状をふまえつつ、後半で扱うのは、防災をテーマにNHKによって制作されたテレビドラマ『パラレル東京』の効果研究である。放送直前、直後、3か月後という3つの時点で同じ対象者を追跡し、視聴による影響を検討した。このドラマは、国による首都直下地震の被害想定をもとに制作された映像であり、視聴者に、まだ経験していない災害を具体的にイメージさせることができる。さらに、テレビ放送という形で社会の中に届けられたこと、1週間のキャンペーン放送の中心に置かれたこと、そしてドラマという物語形式であることが、分析対象として重要な意味を持つと考えた。
 
分析は、知識・認知・行動の3つの側面から進めた。その結果として明らかになったのは、「人びとは映像によって感情を動かされたときに防災への意識が高まる。そしてその感情は恐怖である」というシンプルな点である。番組で扱われていた多様な事象のうち、相対的に「恐ろしい」と感じられたリスクほど、自分も被害を受ける可能性があるものとして見積もられるように変化した。その一方で、こうした番組を通して防災啓発のメッセージを投げかけても、なかなか行動変容に至らないという実態も明らかになった。それでも、テレビは認知面で広く影響力を持つ。だからこそ、防災という観点からみたときに、その影響力を有効に使う必要がある。そのためには、こうした映像の効果を最大限に発揮するための地道な研究が欠かせない。防災啓発は簡単な問題ではないからこそ、研究として取り組む必要がある。本書は、その第一歩としてマスメディアや映像表現が持つ可能性を提示し、そこに期待を込めた書である。
 

(紹介文執筆者: 安本 真也 / 2026年10月16日)

本の目次

序 章 日本人は自然災害に備えられるか?
1 日本人の災害観
2 災害のポピュラー文化研究
3 本書の視座
4 本書の構成
 
第1章  日本映画から分析する災害に対する共通イメージの変化
1 災害と映画の関係性
2 「災害映画」の抽出方法
3 「災害映画」の分析手法
4 テーマとなる災害の変化
5 「災害映画」の分析
6 2つの『日本沈没』の比較分析
7 映画に表象される災害の変化
 
第2章  防災啓発のコミュニケーション
1 地震の防災啓発をめぐるコミュニケーション
2 被害想定のメッセージ分析に向けて
3 分析手法
 
第3章  首都直下地震の被害想定をめぐるコミュニケーション
1 被害想定の概要
2 首都圏の被害想定の歴史
3 被害想定に対するメディアの反応
4 被害想定をめぐる受け手の認知
5 防災啓発に向けて被害想定をいかに活用するか
 
第4章  被害想定をもとにした『パラレル東京』の効果実験
1 防災キャンペーンの概要
2 調査の概要
 
第5章  誰が『パラレル東京』を観たのか──分析手続きとデータの概要
1 分析手続き
2 回答者の属性
3 防災キャンペーンへの接触状況
4 番組への感想と評価
5 『パラレル東京』の視聴者像
 
第6章  知識は深まるのか──『パラレル東京』が知識面に及ぼした効果
1 知識ギャップ仮説を用いた検証の枠組――既往研究
2 首都直下地震をめぐる知識の測定――用いるデータと分析手法
3 『パラレル東京』によって知識量はどのように変化したのか――結果
4 なぜ知識量の差は広がらなかったのか
 
第7章  防災啓発に効果的な映像とは何か──『パラレル東京』が認知面に及ぼした効果
1 リスク認知検証の枠組――既往研究
2 首都直下地震をめぐる認知の測定――用いるデータと分析手法
3 『パラレル東京』によってリスク認知はどのように変化したのか――結果
4 なぜ特定の「リスク認知」指標だけに影響したのか
5 感情に訴える映像の効果
 
第8章  備える人と備えない人の厚い壁──『パラレル東京』が行動面に及ぼした効果
1 説得コミュニケーションを用いた検証の枠組――既往研究
2 防災行動の測定――用いるデータと分析方法
3 『パラレル東京』によって補強効果はみられたのか―結果
4 受け手は番組をどう評価したのか
5 行動変容の壁と補強効果
 
終 章 感情に働きかける防災啓発番組の可能性
1 現代日本における災害に対する共通イメージ
2 恐怖感情を喚起することの重要性
3 行動変容の困難さと可能性
4 本書の意義
5 残された課題
 
あとがき
参考文献
巻末付録
索 引
 

関連情報

受賞:
第6回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2025年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
 
関連ページ:
NHKスペシャル 体感 首都直下地震
https://www.nhk-ondemand.jp/program/P201900201100000/

自著解説:
【マイブック】『災害と映像ーー防災ドラマは社会を救えるのか』(安本真也 講師) (東京大学大学院情報学環・学際情報学府ホームページ 2026年9月28日)
https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/research/20260928mybook

書評:
今週の本棚 (『毎日新聞』 2026年7月18日)
https://mainichi.jp/articles/20260718/ddm/015/070/038000c
 
本よみうり堂: 浅古泰史 (早稲田大学准教授) 評 (『読売新聞』 2026年6月5日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/reviews/20260603-GYT8T00057/
 
書籍紹介:
【9月1日は防災の日 「もしも」の前に読んでおきたい防災本特集vol.3】もしものとき、映像は命を守れるのか『災害と映像 防災ドラマは社会を救えるのか』 (『ほんのひきだし』 2026年9月4日)
https://hon-hikidashi.jp/book-person/190454/

新刊紹介 (『都市問題』第117巻 第6号 2026年6月号)
https://www.timr.or.jp/cgi-bin/toshi_db.cgi?mode=kangou&ymd=2026.06