東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白い表紙にグレーの線画

書籍名

飲酒と社会の交差点 戦後日本のアルコール政策過程論

判型など

352ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2026年1月

ISBN コード

978-4-326-30355-7

出版社

勁草書房

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飲酒と社会の交差点

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お酒やたばこは20歳になってから、スマホの使用は1日2時間以内を目安にする等、私たちの日常の行為が各人に委ねられず、法令によって規制されることがあります。個人の私的領域に関わる法律はどのような過程を経て成立するのだろうか、これが本書の問題意識です。特に、戦後から約80年間を対象に、飲酒を規制する法律 (アルコール政策) を取り上げ、その政策過程を分析しました。

お酒は、飲めば酔い、かつ、依存性を持つ飲み物です。飲酒運転や酔った上での暴力事件など社会問題を引き起こします。不適切な飲酒は健康障害の原因ともなります。一方で、豊かな文化と伝統を育み、生活に潤いを与えてくれます。人々のコミュニケーションの潤滑油として、打ち解けた場を作るツールでもあります。お酒の功罪二面性がある中で、アルコールの問題を規制する法律が、制定されたり、されなかったりする過程を浮き彫りにします。
 
戦後日本で飲酒の規制を主目的とした法律として、「酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律 (1961年成立)」、「未成年者飲酒禁止法 (現、20歳未満の者の飲酒の禁止に関する法律) の改正 (2000年、2001年改正)」、「アルコール健康障害対策基本法 (2013年成立)」という3つに注目しました。そして、分析にはキングダンの「政策の窓」モデルを用いました。政策の窓モデルは、「問題の流れ」「政策の流れ」「政治の流れ」の3つの流れが1つに「合流」したとき、「政策の窓」が開き、政策課題が決定されるという枠組みです。政策過程を分析する様々な分野の研究に世界中で用いられており、同じ枠組みを用いることで、日本国内の年代ごとのアルコール政策を比較したり、また、各国のアルコール政策との違いや類似点を見極めたりすることが可能となります。さらに、政策の窓モデルは政策決定の「前決定過程」を説明するものであることから、飲酒という多くの人々が対象となる行為を規制する際に、政策決定の前段階で誰が関わり、どのような動きがあったのかが明確になります。
 
本書が取り上げた法律はいずれも議員が法案を作成し、国会に提出する議員立法です。議員立法の類型からみると、「市民立法型 + 超党派型」議員立法の場合、政策コミュニティの同質性が課題としてあります。価値観の近い人が集まることにより、多様な意見が反映され難い状況を生むことになります。また、「競争規制型」議員立法の場合は、支援団体や業界の利益を優先することになり、政策過程はブラックボックス化します。
 
アルコール関連問題の政策過程について、長期間を対象にしながら政策過程論のモデルを援用して書かれた研究はありませんでした。日本のお酒の文化や伝統を育むことと、人々の適正な飲酒が共に成り立つようにするにはどうしたらよいか。個々人の私的領域に踏み込む法律を制定する場合、どこまでが公的領域であるかを意識しながら、公平でオープンな対話を担保することが大切だということを提示しました。
 

(紹介文執筆者: 小野田 美都江 / 2026年8月14日)

本の目次

はじめに
 
第I部 酒類消費の動向、先行研究、方法論
 
第1章 なぜアルコール政策に注目するのか
 1 アルコール政策の定義
 2 公共政策としてのアルコール政策
 3 日本におけるアルコール関連法規
 
第2章 戦後日本の飲酒状況
 1 酒類生産量、消費量の推移
 2 飲酒率の推移
 3 アルコール依存症者数の推移
 4 アルコール消費の国際比較と各国のアルコール政策
 
第3章 アルコール政策の先行研究
 1 わが国のアルコール政策についての研究動向
 2 海外におけるアルコール政策過程の研究
 3 先行研究で残された課題
 
第4章 キングダンの政策の窓モデルと方法論の検討
 1 キングダンの政策の窓モデルとは
 2 議員立法と政策の窓モデル
 3 アルコール政策研究の観点と研究方法について
 
第II部 アルコール関連問題の政策過程
 
第5章 酒の入手困難期から酔っ払い天国の日々へ――戦後から1961年の酩酊防止法制定まで
 1 時代の背景と飲酒状況
 2 戦後復興期の3つのアルコール政策
 3 酩酊防止法の政策過程
 4 MSAを援用した政策過程の分析
 
第6章 アルコール問題総合基本法の請願とその失敗――酩酊防止法成立後から1970年代まで
 1 時代の背景と飲酒状況
 2 1960年代から1970年代におけるアルコール精神医療
 3 全断連の1960年代――創立と拡張
 4 全断連の1970年代――酒害者社会復帰促進法提案への道
 5 MSAを援用した政策過程分析
 
第7章 アルコール政策の助走期間――多様化する1980年代
 1 時代の背景と飲酒状況
 2 1980年代の政局とアルコール問題総合基本法審議の停滞
 3 WHO、厚生省、久里浜病院のつながり
 4 酒類小売業者の攻防――酒類自動販売機と酒類販売業免許
 5 市民グループのダイナミズム
 6 全断連、ア連協、そして、国会議員
 7 MSAを援用した政策過程分析
 
第8章 80年ぶりの未成年者飲酒禁止法改正――1990年代から2000年代初め
 1 時代の背景と飲酒状況
 2 WHO 1991年会議と厚生省
 3 酒類自動販売機撤廃運動と市民団体の連携
 4 規制緩和の動向と対面販売の奨励
 5 未成年者飲酒禁止法改正へ
 6 未成年者飲酒禁止法のさらなる改正へ
 7 MSAを援用した政策過程分析
 
第9章 アルコール健康障害対策基本法の政策過程――2000年から2013年まで
 1 時代の背景と飲酒状況
 2 制定前史
 3 2010年から2011年
 4 2012年 野田首相解散宣言まで
 5 2013年 政権交代からのアル法ネットの動向
 6 MSAを援用した政策過程の分析
 
第10章 アルコール基本法制定後の状況――2014年以降
 1 時代背景と飲酒状況
 2 アルコール基本法制定後の動向
 3 飲酒ガイドラインの策定
 4 基本法制定後12年の変化について
 
終章 総括と展望
 1 戦後から2013年までの政策形成過程
 2 戦後日本のアルコール政策過程の7つの特徴
 3 MSAで分析する有効性と留意点
 4 日本のアルコール政策の課題
 5 むすびにかえて
 
参考文献
あとがき
索引

関連情報

受賞:
第6回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2025年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
 
書籍紹介:
あとがきたちよみ (勁草書房編集部ウェブサイト『けいそうビブリオフィル』 2026年1月27日)
https://keisobiblio.com/2026/01/27/atogakitachiyomi_inshutoshakai/
 
著者インタビュー:
なぜ酒は“危険でも合法”であり続けたのか——被害と規制の“ねじれ”をたどる (Addition Report 2026年4月14日)
https://addiction.report/ReiToyama/20260411_alcohol_policy_01
 
「ほどほどに飲めばいい」はどこから来たのか——飲酒が“自己責任”とされた訳 (Addition Report 2026年4月15日)
https://addiction.report/ReiToyama/20260411_alcohol_policy_02
 
「声をあげる」は無駄なのか? 私たちの意見を制度に反映するために (Addition Report 2026年4月16日)
https://addiction.report/ReiToyama/20260411_alcohol_policy_03
 
イベント:
小野田美都江『飲酒と社会の交差点』出版記念ブックトーク会 (独立研究ネットワークTAGEN 2026年5月10日)
https://note.com/irn_tagen/n/naa5e428ae032