東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

表紙にイギリスの王様や女王のイラスト

書籍名

岩波ジュニア新書 王様でたどるイギリス史

著者名

池上 俊一

判型など

272ページ、新書判、並製

言語

日本語

発行年月日

2017年2月21日

ISBN コード

978-4-00-500847-6

出版社

岩波書店

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王様でたどるイギリス史

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日本の皇室との関係の深さや、エリザベス女王、ダイアナ元妃、キャサリン妃などの世界的人気もあって、イギリスの王様は日本でもきわめて関心が高い。本書執筆で心掛けたのは、イギリス (イングランド+スコットランド) の主要な王、王妃の事績を中心に据えつつ、古代末期から現代までのイギリスの政治・国制の仕組み、社会のあり方、そして庶民の生活文化などを明らかにしていくことであった。国王と一般庶民は一見かけ離れているように見えるが、じつは国王の歴史をたどることは、とりもなおさずイギリス国民の歴史をたどることにほかならない。イギリスは、伝統的に貴族・階級社会であって、王家や貴族らの社会と、一般庶民の社会とははっきりと切り離されており、たとえば前者がひどい党争や私闘を繰り返しても、後者にはあまり害が及ばなかった。だが他方では、王室は庶民の人気や支持がないと貴族同士の闘争に勝てないなど、両者は不即不離の関係にあり、イギリス王室の動向には、庶民の歴史を集約・象徴している側面も同時にあったのである。
 
日本でもイギリス史の通史や個別テーマの研究は多く書かれているし、国王や王室の紹介もすでにかなりある。したがって本書では、王を中心とした政治史・制度史の流れを追っていくだけではなく、イギリスの歴史に一貫して流れる文化や心性の特徴を炙り出すように努めた。イギリスの世界史的寄与としては、コモン・ロー、ジェントリーによる地方自治、中央集権的な統治機構、立憲王政、議会制民主主義、植民地帝国 (大英帝国) などの法制史的・政治史的事象があろう。これらは中世から近代にかけて、王と貴族らとの間の権勢のせめぎ合い、またイギリスとヨーロッパ諸国との角逐の中で形が整えられていったのであり、その過程をたどるのが、本書においてもいわば「表テーマ」の叙述の目的であった。しかし「裏テーマ」も用意してある。すなわち、大陸ヨーロッパにはない利己主義 (自助) の強さと妥協の知恵、それぞれ裏腹の関係にありながらイギリス人の特徴をなす「残忍 / 慈愛」「品格 / 野蛮」や「好奇心 / 無関心」、あるいはあらゆるレベルでの経験主義・プラグマティズムの浸透、さらにそれらすべてを不気味に覆う虚無の影といったものであり、それらの時代ごとの現象形態を見届けたいと考えた。
 
本書は7章立てで、各章の前半では主要な王の事績–––一応すべての王について触れた–––、議会、法律、制度の誕生・発達を王との関係で叙述し、後半では各身分についての文化史・社会史的な叙述を心掛けた。この文化史・社会史的叙述部分においては、文学作品や版画作品なども取り上げて親しみやすいように工夫した。とりわけイギリスは生活文化大国なので、「紅茶を飲む習慣」「美味しい料理への無関心」「庭造りへの執心」「家具や食器など身近なものの重視」といった人々の性向と、そこに関わる王室の貢献に光を当てた。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 池上 俊一 / 2017)

本の目次

はじめに
第1章 乱立する王国
第2章  フランス語を話す「帝国」の王たち
第3章  法律・議会・立憲君主
第4章  絶対主義の確立とルネサンス
第5章  革命のもたらしたもの
第6章  大英帝国の建設
第7章  メディアと伴走する大衆王
あとがき
イギリス王室の家系図
イギリス史年表
 

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