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ネイビーブルーの表紙

書籍名

Routledge New Horizons in South Asian Studies Human and International Security in India

著者名

Crispin Bates, Akio Tanabe, Minoru Mio (eds.)

判型など

194ページ、ハードカバー

言語

英語

発行年月日

2015年9月21日

ISBN コード

9781138908666

出版社

Routledge

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

Human and International Security in India

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1990年代より深まったグローバル化の動きは、今や世界中の人びとの生活・生命をより緊密に結びつけるに至っている。人、商品、金融、情報の流れは、国民国家の空間秩序を大きく揺さぶり、かつては想像できなかったような、多元的で多様なつながりをもたらしている。こうした国内外の変容は、「安全保障」の観念にもパラダイム・シフトを促すこととなった。安全保障は、軍事的・イデオロギー的な対立を背景とする国家中心的な考えから、グローバルな人々の生存・生活・尊厳を保障しようとする「人間の安全保障」へと変化しているのである。そこでは、軍事にとどまらず、貧困、人権侵害、ジェンダー差別、環境破壊、テロなどのさまざまな課題が安全保障上の課題としてとりあげられる。グローバル化に伴う安全保障概念の変化は、インドの国家中心的な国民形成と経済発展という脱植民地的レジームの終焉と、経済自由化と分権化への舵の切り直しと軌を一にしていた。つまりここでは、「ネーションを基礎とした支配と開発」から「グローバルな再編成のダイナミクス」へのシフトがみられるのである。
 
本書の目的は、独立後のインドが国際・人間の安全保障(international and human security)をどの程度いかなるかたちで達成したのかについて論じることにある。インドは独立後の40年間にわたって非同盟中立政策を戦略的に採用し、国内の社会経済開発に注力した。それは、経済発展また人間開発がゆっくりとしかし着実に進んだ時期でもあった。ところが1990年代にポストコロニアル的な支配構造とヒエラルヒーが徐々に揺るぎ、新たな結びつきができるにしたがい、人びとにとって新たな機会とリスクが同時に現れることとなった。制度的・技術的な変容のなかで、多種多様な集団や個人が主体化を遂げ、社会・政治・経済的な関係が従来の範囲を越えて広がるなかで、特定の場所における社会的・技術的・環境的なリスクはより広域の社会にとって脅威となる可能性が高まった。貧困、就業の不安定、感染症、テロ活動は、インド国内における社会福祉や国家安全保障における問題としてだけでなく、より広域のあらゆる社会にとっての問題として注目を集めるに至っている。さらに、従来の支配構造が揺らぐなかで、多様な集団や個人がライフ・チャンスの拡大を求めて、リスクをとりながら、既存の社会経済構造の外部に向かうようになっている。こうしたリスク・テーキングの動きは、現代インドにおける社会経済的な活況の基盤となっている一方で、社会的な不安と不満を醸成し、下からの挑戦と上からの抑圧という政治的な動態を伴うものともなっている。現代インドにおいては、低カースト、ダリト、トライブ、宗教マイノリティ、女性などによる政治的・社会的な主張が顕著になっており、周縁的な集団が声をあげる機会が増えているが、それに対する反動もヒンドゥー・ナショナリズムなどのようなかたちで現れており、社会的な摩擦が増大している。
 
このような現代インドのグローカルな変容は、世界秩序の変化とも論理的また現実的につながっている。グローバルな政治経済において、特に1990年代より、インドは存在感を増大している。これとともに、伝統的な非同盟主義にもとづく外交政策も変化を遂げ、主要国とのよりプラグマティックな関係を築くに至っている。インドが大国への道を歩もうとしていることは明らかである。こうしたインドの立ち位置の変化は、世界的な政治経済秩序の再編成と連動している。このなかで包摂的・持続的・平和的な発展をもたらし、すべての人びとが安全と安心のなかで自己実現を探求できるようなエージェンシー、エンタイトルメント、エンパワーメントを保障することが世界およびインドの課題となっている。
 
新たな安全保障を考えるうえで重要な問いは、誰の安全か、どのような安全か、そして、それらの安全はどのような戦略や制度のもとで達成できるのか、である。グローバルなリスク社会における新たな脅威に対応するには、権力と資本のガバナンスを改善するだけでなく、人間中心的な発展のために、多様な主体のケイパビリティ、エージェンシー、人間資本をより充実することが肝要である、と本書は指摘する。南アジア研究に関心がある方はもちろん、政治学、社会学、文化人類学、開発研究に興味がある方にもぜひ手にとって見ていただければと思う。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 田辺 明生 / 2019)

本の目次

Introduction: Looking back on human and international security in India since independence
    Crispin Bates

1  The paradoxes of Indian politics: a dialogue between political science and history
    Subho Basu and Crispin Bates

2  India's foreign relations: an overview
    Jayanta Kumar Ray

3  The transformation of India's external posture and its relationship with China
    Takenori Horimoto

4  India's macroeconomic performance in the long run
    Takahiro Sato

5  Public health and human security in India: poised for positive change
    Sunil Chacko

6  Being Muslim in India today
    Mushirul Hasan

7  Democracy and violence in India: the example of Bihar
    Kazuya Nakamizo

8  Microfinance and gender: the Magalir Thittam in Tamil Nadu
    Anthonysamy Sagayaraj

9  Rural lives and livelihoods: perceptions of security in a Rajasthan village
    Ann Grodzins Gold

10  As hierarchies wane: explaining intercaste accommodation in rural India
    James Manor

11  Epilogue: Human and international security in an age of new risks and opportunities
    Akio Tanabe and Minoru Mio
 

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