東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

表紙の中央に何かのパターンを水彩画で描いた茶色い絵

書籍名

現代インド5 周縁からの声

著者名

粟屋 利江 (編)、 井坂 理穂 (編)、 井上 貴子 (編)

判型など

344ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年3月24日

ISBN コード

978-4-13-034305-3

出版社

東京大学出版会

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現代インド5 周縁からの声

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本書は、『現代インド』(全6巻) シリーズの第5巻として刊行された。このシリーズは、国内の複数の研究機関が共同で進めてきた「現代インド地域研究」プロジェクト (2010~2015年度) の成果をまとめたものである。『周縁からの声』と題された本書は、インドの政治・経済・社会の諸領域で「周縁」におかれてきた人々に焦点を当て、事例研究に基づきながら、彼らによる異議申し立てのあり方やインドにおける多様な「公共圏」の構築過程を明らかにしている。ここに含まれる計18本の論文や補論は、歴史学、社会学、文化人類学、宗教学、言語学、文学などの異なる分野でインドを対象とした研究に携わってきた著者たちが、それぞれの方法論を生かしつつ、同時にプロジェクトを通じて行われた相互の対話を踏まえてまとめたものとなっている。
 
本書は3編から構成されている。第I編「新たな社会運動の主張とかたち」では、ダリト (かつて「不可触民」と呼ばれていた人々)、キリスト教徒、芸能集団などの事例が取り上げられ、彼らの社会・文化運動やそこでの彼らの思想や戦略が分析されている。第II編「ジェンダーからみる社会変容」では、女性による政治・社会運動の現状、女性の行動規範や自己認識をめぐる変化が論じられるほか、クィア政治をめぐる近年の動きが紹介されている。第III編「再構築される言語と文学」では、異なる在地諸語やそれらの言語で書かれた文学の現状や、ムスリムやダリト出身の作家たちによる文学活動に焦点が当てられる。ここでは、近年の国内外の政治・社会情勢の変化やグローバル化に対応しながら、「周縁」におかれた人々が、言語・文学・出版活動においてどのような新たな試みや戦略を模索しているのかが示されている。なお本書では、「周縁」という言葉は、政治的・経済的に抑圧された状況にある人々のみを指すのではなく、権力構造や文化資本において「周縁」におかれている人々や、他者との関係のなかで生まれる「周縁」性の意識なども含んだかたちで用いられている。
 
以上のような様々な事例研究を通じて、本書は現代インドの政治・経済・社会変化を「周縁」からの視点によってとらえ直すことを促すと同時に、他地域と比較した場合のインドの特徴をも浮かび上がらせている。さらに、これらの「周縁」におかれた人々の運動や戦略がグローバルな潮流と連関しているさまを示すことで、歴史的な流れのなかで「現代」をいかに位置づけるのかを考えさせるものとなっている。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 井坂 理穂 / 2016)

本の目次

序章 「公共圏」論再考 (粟屋利江)
第I編 新たな社会運動の主張とかたち
  第1章 現代ダリト運動の射程 --「エリート」の台頭と意義 (舟橋健太・鈴木真弥)
    [補論1] インドのNGO (大橋正明)
  第2章 異議申し立てとしての仏教 -- アンベードカルの仏教理解 (桂 紹隆)
    [補論2] テランガーナ分離運動 (山田桂子)
  第3章 歌う会衆 -- 教会・礼拝・聖歌 (井上貴子)
  第4章 「民俗芸能」が創造されるとき -- 文化運動と生存戦略 (小西公大)
    [補論3] ストリート・チルドレン (中根智子)
  第5章 資源開発・環境・住民 (杉本 浄)

第II編 ジェンダーからみる社会変容
  第6章 女たちが政治に参加するとき -- ケーララ州とウッタル・プラデーシュ州を中心に (喜多村百合・菅野美佐子)
  第7章 フェミニズムとカーストの不幸な関係? -- ダリト・フェミニズムからの提起 (粟屋利江)
    [補論4] クィア政治 (江原等子)
  第8章 北インドの女神信仰にみる社会変容 -- 身体と儀礼のかかわりから (八木祐子)
    [補論5] 伝統的女性観 (高島 淳・水野善文)
  第9章 女が「私」を描くとき (小松久恵)

第III編 再構築される言語と文学
  第10章 マイノリティ文学からの発信 (萩田 博・石田英明)
    [補論6] ディアスポラ文学 (松木園久子)
  第11章 言語問題とアイデンティティ -- シンディー語の事例から (萬宮健策)
  第12章 多言語社会における出版文化と社会運動 (井坂理穂)
巻末資料 インド各地の主な社会運動解題 (小林磨理恵・小尾 淳)
 

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