東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ベージュの表紙にピンクと水色の線画イラスト

書籍名

食から描くインド 近現代の社会変容とアイデンティティ

著者名

井坂 理穂、 山根 聡 (編)

判型など

400ページ、四六判、上製

言語

日本語

発行年月日

2019年2月

ISBN コード

9784861106330

出版社

春風社

出版社URL

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食から描くインド

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本書は人々が自分たちの食べるものをどのように選択してきたのか、という問いを切り口としながら、近現代インドの社会変容を描きだすことを目的としている。何をどのように食べるのかという選択には、その人を取り巻く様々な政治的・経済的・社会的状況が関係している。また、その人がもつ食に関する知識や情報、その人の生まれ育った環境や社会的地位、宗教的アイデンティティなども影響を及ぼす。本書ではこうした点を意識しながら、インドにおける様々な個人・集団による食の選択やそれにまつわる模索・対立の事例を、料理書、回顧録、文学作品の分析、現地での聞き取り調査などの異なるアプローチから考察する。これらの事例を通じて、そこにみえる人々の自己・他者認識や、その背景にある社会の変容を明らかにする。また、こうした検証の過程で、我々が食を語る際に前提としがちな「国」「地域」「宗教」などの区分や境界についても、改めて問い直されることになるだろう。
 
序章では、近現代インドの食をめぐる研究動向の概観や、インドの食のあり方やその多様性に関する基本的な情報(食の地域性、宗教と食、浄・不浄の概念)が示される。さらに、植民地期以降の食をめぐる変容、なかでも「西洋近代」の影響下での食の選択をめぐる議論や、独立後における「インド料理」概念の形成過程などが論じられる。章の末尾では補説のかたちで、「カレー」の概念がどのように現れたのかが語られる。
 
序章に続く第1~9章は、テーマ別に3編に分けられており、さらに各編の末尾には情報や視点を補足するためのコラムが設けられている。第I編「食からみる植民地支配とナショナリズム」は、イギリス植民地支配の時代やその直後のインドを舞台に、異なる立場の人々(ムスリム文人、イギリス人女性、ヒンドゥー中間層、印パ分離期の移民、ゾロアスター教徒など)に焦点を当てながら、彼らの間での食をめぐる模索や議論を描きだす。第II編「食をめぐる語り」は、現代に書かれた回顧録や小説をもとに、食を介して表される人々の帰属意識や人間関係、社会変容などを考察する。とりわけ移民や女性の物語に焦点が当てられている。第III編「変動する社会と食」は、食をめぐる近年のできごとや現象を分析しながら、その背景にある経済成長やグローバル化、ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭との関連を探る。具体的には、食、地域アイデンティティ、カーストの三者が相互に絡みあう様子や、飲酒の形態と社会階層の関係が論じられる。さらにグローバル化時代における宗教に基づく食事規定のあり方も検討されている。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 井坂 理穂 / 2019)

本の目次

  序  章 食から描くインド―近現代の社会変容とアイデンティティ (井坂理穂)
第I編 食からみる植民地支配とナショナリズム
  第一章 一九世紀後半の北インドにおけるムスリム文人と食―郷愁と動揺 (山根 聡)
  第二章 インドのイギリス人女性と料理人―植民地支配者たちの食生活 (井坂理穂)
  第三章 ナショナリズムと台所―二〇世紀前半のヒンディー語料理書 (サウミヤ・グプタ、上田真啓 訳)
  第四章 現代「インド料理」の肖像―はじまりはチキンティッカー・マサーラーから (山田桂子)
  コラム1 中世のサンスクリット料理書 (加納和雄)
  コラム2 「宗教的マイノリティ」意識と食―近現代インドのパールシー (井坂理穂)
 
第II編  食をめぐる語り
  第五章 一口ごとに、故郷 (ホーム) ()に帰るーイギリスの南アジア系移民マイノリティの紡ぐ食の記憶と帰属の物語 (浜井祐三子)
  第六章 買う・つくる・味わう―現代作家が描く食と女性 (小松久恵)
  コラム3 スパイス香るインドの食卓 (小磯千尋)
  コラム4 マハーラーシュトラの家庭料理―プネーのG家の場合 (小磯千尋)
 
第III編 変動する社会と食
  第七章 もの言う食べ物―テランガーナにおける地域アイデンティティと食政治 (山田桂子)
  第八章 飲むべきか飲まぬべきか―ベンガルール市でのフィールドワークから (池亀 彩)
  第九章 ハラール食品とは何か―イスラーム法とグローバル化 (小杉 泰)
  コラム5 日本における「カレー料理」と「インド料理」 (山根 聡)
  コラム6 ジャイナ教の食のスタイルとその背景 (上田真啓)
 

関連情報

書評:
「何を食べるか」が映す社会 (日本経済新聞朝刊 2019年5月11日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO44626580Q9A510C1MY6000/

文献紹介:
森枝卓士 井坂理穂・山根聡編 『食から描くインド―近現代の社会変容とアイデンティティ』 (『vesta』116号 2019年10月12日)
https://www.syokubunka.or.jp/productions/vesta/post_5.html

関連研究:
加納和雄 准教授 (駒澤大学仏教学部) 研究こぼれ話『中世インドの料理本』 (駒大PLUS 2019年7月25日)
https://www.komazawa-u.ac.jp/plus/topics/report/8127.html
 

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