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ネイビーの表紙

書籍名

New Horizons in South Asian Studies Democratic Transformation and the Vernacular Public Arena in India

著者名

Taberez Ahmed Neyazi、 田辺 明生、 石坂 晋哉 (編)

判型など

222 ページ、ハードカバー

言語

英語

発行年月日

2014年

ISBN コード

9780415738675

出版社

Routledge

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本書は、Routledge (London) の New Horizons in South Asian Studiesシリーズの第一巻として発刊された。本シリーズは、これまでインドと欧米を中心に展開されてきた南アジア研究に対して、日本からの新しい視点を提供しようと、人間文化研究機構地域研究推進事業「現代インド地域研究」(2009~14年度) をきっかけとして始められたものである。
 
本書の目的は、現代インドにおけるデモクラシーの深化について、「ヴァナキュラー公共圏」という枠組から理解することにある。独立後しばらく、インドの公共圏は英語を話すエリートに牛耳られており、開発や外交そして文化についてやや高踏的な議論がなされる場であった。しかし1990年代より、経済自由化と分権化そして何よりも多元的な民衆の公共参加により、インドの公共圏は大きな構造変化を遂げている。都市部・ヒンドゥー・高カースト・男性が中心的であった政治状況は様変わりし、現在では、ダリト、アーディヴァーシー (先住民)、「その他の後進諸階級」(Other Backward Classes)、宗教的マイノリティ、女性、貧民、村落居住者などのさまざまな宗教、カースト、階級、ジェンダーに属する人びとが、公共圏で声をあげるようになっている。
 
「ヴァナキュラー」という言葉には、1. 日常的に使う口語、という意味と、2. 民衆の生活形式に即した、という意味がある。ここで「ヴァナキュラー公共圏」という言葉を用いるのは、民衆参加の進展により、多様な人びとが自分たちの日常のことばで政治や社会を語り、自らの生活形式に則した政治や社会のあり方を求める公共圏の新たな動きに着目したいからだ。インドのヴァナキュラー公共圏には、「大衆化」といった決まり文句だけでは理解できない、新たな可能性と困難が現れている。通常、「大衆化」は、大量生産・大量消費により生活様式が平均化し画一化した大衆を想定するが、現代インドの民衆は、宗教、カースト、階級、ジェンダーなどによって政治・社会・経済的な立場が異なっており、公共圏における多様なる声もこうしたさまざまな差異によって彩られている。執拗に続く差別や格差に対しての批判もきびしい。そして同時に、論点に応じて、これまで考えられなかったような、差異を越えた協力や連帯が立ちあがるようになっている。
 
平等な民衆参加が進みながらも多様性を維持できるような、新たなかたちの公共圏の形成は可能なのだろうか。本論集は、こうした問題意識のもと、現代インドの公共圏の変化について、社会運動、メディア、選挙政治、ガバナンスなど、さまざまな角度からアプローチしている。南アジア研究に関心がある方はもちろん、政治学、社会学、文化人類学、メディア研究に興味がある方にもぜひ手にとって見ていただければと思う。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 田辺 明生 / 2017)

本の目次

1. Introduction: The Vernacular Public Arena and Democratic Transformation in India, Taberez Ahmed Neyazi & Akio Tanabe
2. Politics of Relations and the Emergence of Vernacular Public Arena: Global Networks of Development and Livelihood in Odisha, Akio Tanabe & Yumiko Tokita-Tanabe
3. Social Politics: Youth Vernacular Action in the Indian Himalayas, Craig Jeffrey & Jane Dyson
4. Empowering the Vernacular Publics: Civil Society and Democratic Participation in Rajasthan, Sarbeswar Sahoo
5. News Media and Political Participation: Re-evaluating Democratic Deepening in India, Taberez Ahmed Neyazi
6. Jan Andolans and Alternate Politics in India: Symbiotic Interactions, Vernacular Publics and News Media in Jan Lokpal Andolan, Anup Kumar
7. Ways of Democracy: Making Politics Work for the Urban Poor, Bishnu N. Mohapatra
8. Re-evaluating the Chipko (Forest Protection) Movement: The Emergence of Vernacular Publics in the Uttarakhand, Shinya Ishizaka
9. Grassroots and Vernacular Articulations: Politics and Popular Democracy in Uttar Pradesh Villages, Badri Narayan
10. Caste and Vernacular Politics in Tamil Nadu, South India, Andrew Wyatt
11. Against the Public Sphere: The Morals of Disclosure and the "Vernacular Public Sphere" in Rural Rajasthan, Anastasia Piliavsky
12. Communal Riots and States: A Comparative Study of Gujarat and Uttar Pradesh, Norio Kondo
 

関連情報

New Horizons in South Asian Studiesシリーズについて
https://www.routledge.com/Routledge-New-Horizons-in-South-Asian-Studies/book-series/RNHSAS
 
現代インド地域研究 (INDAS)
http://www.indas.asafas.kyoto-u.ac.jp/static_indas/index.html


南アジア地域研究 (INDAS-South Asia)
http://www.indas.asafas.kyoto-u.ac.jp/
 

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