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白い表紙に何かで包まれた球体のイラスト

書籍名

安全基準はどのようにできてきたか

著者名

橋本 毅彦

判型など

368ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2017年5月25日

ISBN コード

978-4-13-063366-6

出版社

東京大学出版会

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安全基準はどのようにできてきたか

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現代社会は技術の体系によってその営みが支えられている。電気、水道、交通、通信・・・。それらの技術体系は毎日休みなく働いているが、滞りなく作動していくためにさまざまな技術的、社会的な取り決めが定められている。その中には事故を起こさないために技術的な計算や配慮を伴って定められた安全基準も存在する。本書は、そのような技術の体系が安全に滞りなく作動し運行するために定められている基準や規約などを、いくつかの事例に関してそれらが定められた歴史的背景を探ったものである。その代表例として、航空機とその運航システムに関する事例について紹介しよう。
 
20世紀の初頭に航空機が登場した時に、試験的な飛行から実用的な飛行へと移行するにあたって、その安全性が速やかに問題視されるようになった。いち早く実用化されていたのは飛行船だったが、それらが多くの人が住む町の上を飛行する。時に外国の土地の上空も飛行する。それらが不時着したり、不測の事態により墜落したりしたら、どのような被害がもたらされるのか。その責任の所在はどこにあるのか。そのような事故が起こらないために、飛行船や飛行機が安全であることをどのように保証すればいいのか。航空機それ自体の耐空性は重要である。だがそれだけでなく、飛行士の健康状態や、飛行がなされる気象条件などについても細かな医学的、科学的、技術的な検討がなされ、適切な基準や手続きが定められるようになっていく。しかもそれらは専門家が集まる国際的な会議によって定められていく。
 
本書では、この航空機の事例の他に、船舶、消防、治水、電力、医療機器などさまざまの事例に関して、その分野における安全基準が策定される歴史的経緯の一端が解説されている。それぞれの事例の分析視角は、各章でそれぞれ異なっている。船舶の章においては、保険業の歴史の専門家に、今日に至るまでの海上保険における基準設定のあり方に関して解説してもらった。消防の章では歴史家と技術者の双方に執筆してもらい、技術者の方に、戦後日本における都市の消防力の研究から延焼を防ぐために消防署の配置が一定の基準から計算され決定されてきた経緯を明らかにしてもらった。また長年国際的な標準策定の作業に関わってきた専門家には、欧州における標準の決定プロセスに関する近年の動向について説明してもらった。
 
現代社会はあらゆる場面で人工物によって支えられているが、これらの人工物が安定に作動していくために巨大な技術体系が構築され、さらにそれを支える補助技術の膨大な体系が存在する。それらの技術体系の至る所で安全を期すための基準や規程が定められている。最終章では、このような技術の体系性とそれに関連する基準や標準が設定される事情を解説した。
 
本書は、2012年から4年間遂行した科研費の共同研究の成果の一部として出版したものである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 橋本 毅彦 / 2018)

本の目次

はじめに
序章  身の回りの安全基準 (橋本毅彦)
交通
第1章  航空機と運航システム――安全基準の多角性と統一性 (橋本毅彦)
第2章  船舶と航海の安全性――保険業界・船級協会による評価 (神谷久覚)
 
II  災害
第3章  戦前の消防体制と戦後の消防力――都市構造と組織拡充 (鈴木 淳、関澤 愛)
第4章  日本とオランダの治水計画――確率論と基本高水 (中村晋一郎、中澤 聡)
第5章  原子力分野における確率論的安全評価の導入――日本の事例 (岡本拓司)
 
III  健康
第6章  食品の安全性と水銀中毒――生活習慣と行政基準  (廣野喜幸)
第7章  災害予防と心理学的類型――労働と適性検査 (鈴木晃仁)
 
IV  国際規格
第8章  医療機器の国際規格づくり――臨床試験と適正実施基準 (上野紘機)
第9章  欧州の試み: CEマーク制度――安全確保への新機軸 (田中正躬)
 
終  章  技術システムを支える安全基準 (橋本毅彦)
 
おわりに
 

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