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オレンジ色の表紙

書籍名

ロールズを読む

判型など

364ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年10月31日

ISBN コード

9784779513305

出版社

ナカニシヤ出版

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ロールズを読む

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ジョン・ロールズ (1921-2002) の主著『正義論』が公刊されたのは、半世紀近く前の1971年である。以来、ロールズは、『正義論』以降の作品も含めて、人文社会系の様々な学問領域で影響力をもち続けている。実際、ロールズ正義論をめぐる論争は、学問領域の垣根を越えていまなお活発になされている。

本書『ロールズを読む』は、ロールズ正義論がなぜいまなお多くの学問領域で影響力をもち、それをめぐって論争が繰り広げられているのかについて明らかにする共著プロジェクトである。本書には、方法論や人権等の特定のイシュー、また法理学や経済学史、応用倫理学等でロールズ正義論が有する意義と限界に迫る論考が収録されている。どの論考も、各学問領域をリードする研究者の手によるものである。

本書のモチーフは、ロールズ正義論と経験科学との接点の重視である。ロールズは『正義論』の第3部で、経済学や (道徳) 心理学の知見をふまえて、第1部で導き出した正義の2原理が人間社会において安定化しうる構想であることを示そうとしたことで有名である。本書には、その特徴や変遷を明らかにする第3章「安定性から読み解くロールズの転回問題」(宮本雅也)、第5章「ロールズと人生計画」(若松良樹)、そして第6章「生還者の自尊」(小泉義之) が収録されている。

とくに第3章の宮本論文は、『正義論』第3部の安定性の論証に注目することで、『正義論』から『政治的リベラリズム』(1993) への転回が、コミュニタリアンによるリベラルな人格構想批判に端を発するとか、(哲学的正当化を放棄したという意味で) 脱哲学化した証であるといった、日本で影響力のある謬見ないし一面的理解を斥けるものとなっている。それゆえ第3章の宮本論文は、是非広く読まれて欲しい論考である。関連する論考としては、第8章の「政治思想史におけるロールズ」(齋藤純一) がある。併せて一読を勧めたい。

また本書には、ロールズ正義論の応用局面に注目する論考も多く収録されている。たとえば、第9章「ロールズと規範経済学」(加藤 晋) は、規範経済学におけるロールズ『正義論』の貢献について明らかにする論考である。加藤論文で明らかにされるロールズ正義論の公理論的特徴と、経済学の教科書で言及されるロールズの議論 (たとえば、マキシミン型) との違いは、経済学その他の分野・領域でもっと意識されるべきである。

ほかにも、ロールズの方法論的研究が生命倫理学に与えた影響を明らかにする第11章「ロールズと生命倫理学」(額賀淑郎) や、社会福祉学においてロールズ正義論はことさら批判的に言及されるものの、実際には社会福祉学に積極的に貢献しうる規範理論であることを明らかにした第12章「ロールズと社会福祉学」(角崎洋平)、そして企業の社会的責任の考え方を基礎づける根本理念としてロールズ正義論を評価する第13章「企業の社会的責任とロールズ正義論」(井上 彰) なども収録されている。

ロールズ正義論に賛意的な人も、批判的な人も、是非一度本書を手にとってもらいたい。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 井上 彰 / 2019)

本の目次

ロールズを読む・序 (井上 彰)

第I部 ロールズ正義論の方法と射程
  第1章 規範的社会理論はいかにして可能か――ロールズ『正義論』の挑戦と挫折 (盛山和夫)
  第2章 ロールズと倫理学方法論 (松元雅和)
  第3章 安定性から読み解くロールズの転回問題 (宮本雅也)
  第4章 ロールズと人権 (木山幸輔)
  第5章 ロールズと人生計画――法哲学の観点から (若松良樹)
  第6章 生還者の自尊――善の希薄理論のために (小泉義之)

第II部 ロールズ正義論への様々なアプローチ
  第7章 ロールズと法理学――ハート、ドゥオーキンとの関係を中心に (田中成明)
  第8章 政治思想史におけるロールズ――政治社会の安定性という観点から (齋藤純一)
  第9章 ロールズと規範経済学 (加藤 晋)
  第10章 ロールズと経済学史――『正義論』へのナイトの影響が意味するもの (佐藤方宣)
  第11章 ロールズと生命倫理学 (額賀淑郎)
  第12章 ロールズと社会福祉学――脆弱性を抱えるすべての人々を包摂する正義の理論に向けて (角崎洋平)
  第13章 企業の社会的責任とロールズ正義論 (井上 彰)

索引 (人名 / 事項)

関連情報

書評:
田中将人 評 (南山大学社会倫理研究所『社会と倫理』第34号、p167 2019年12月)
http://rci.nanzan-u.ac.jp/ISE/ja/publication/se34/34-19tanaka.pdf

福間 聡 (高崎経済大学准教授・社会哲学・倫理学) 評「待ち望まれていた研究論文集 - 進化するロールズ研究の中で、長く読み継がれる一緒に」 (『週刊読書人』ウェブ 第3273号 2019年1月18日)
https://dokushojin.com/article.html?i=4859

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