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白い表紙に石像の写真

書籍名

政治哲学者は何を考えているのか? メソドロジーをめぐる対話

判型など

260ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2024年2月

ISBN コード

978-4-326-35192-3

出版社

勁草書房

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政治哲学者は何を考えているのか?

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社会で他者と協働することの意義とはなんだろうか。政治の意味はなんだろうか。こうした疑問に答えるための道筋を示すのが政治哲学の重要な役割です。政治哲学は、さまざまな思考実験や概念分析を通じて、社会における対立や問題をどのように解決すべきかを探る分野と言えます。その現代の政治哲学において、最も影響力のある理論の一つが、ジョン・ロールズの『正義論』です。彼のリベラリズムは、厳しい批判を受けつつも多くの新しいアイデアを生み出してきました。しかし、政治哲学はロールズのものだけにとどまりません。彼以前にも、多くの政治哲学や倫理学の分析が存在しており、またロールズの影響を受けないアプローチもあります。社会の複雑化に伴い、政治哲学における議論もますます多様化しています。
 
では、今の政治哲学者たちは何を考えているのでしょうか。本書は、この素朴な疑問に答えることを目的としています。この疑問への答えを知ることで、現代社会や政治に対する新たな視点を得られるかもしれません。そうした期待を込めて、本書のプロジェクトが始まりました。
 
本書は、政治哲学に関連する重要なトピックを扱った6回のワークショップの記録です。各回では、2名の報告者が異なる角度から一つのトピックについて議論を行い、その後、編者を交えたディスカッションが行われました。これらの議論を大幅に編集・再構成することで、読みやすい書籍の形にまとめています。各トピックは相互に関連しつつも独立しており、どの章から読んでも理解できるようになっています。
 
最初の章では、ロールズの正義論を取り上げます。この章では、ロールズの思想がどのように変遷したのか、そして彼が政治思想の歴史をどのように捉えていたのかを探ります。次に続くのは、リバタリアニズムの議論です。この章では、リバタリアニズムが「哲学的に」何を意味するのか、そして現代社会にどのような影響を及ぼすのかをわかりやすく論じています。第3章では、利己主義の問題を取り上げます。利己主義は道徳的でないとされがちですが、一方で社会科学における重要な概念でもあります。その意味と限界を検討することなくして、政治哲学を語ることはできません。
 
第4章では、リベラリズムの源流についての近年のラディカルな見解や日本におけるリベラリズムの意味を考察しています。第5章では、思想史分野において広く関心を集める「受容史」の本質と意義について議論します。例えば、日本においてロールズがどのように受容されたかという問題は、歴史的に重要な問題であり、思想の一部を形成しています。第6章では、民主主義、とりわけ熟議民主主義について論じます。熟議の重要性は多くの人々が認識しているものの、実際にどのように熟議を行うべきか、そしてなぜ熟議が重要なのかといった問題をより深く掘り下げて考える章です。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 加藤 晋 / 2024)

本の目次

はじめに[宇野重規

第1回 ロールズ思想とは何だったのか─政治思想史と政治哲学の現在
 ロールズの思想的「変遷」と哲学の方法[井上 彰
 思想史家としてのジョン・ロールズ─政治哲学者による政治思想史をどう受けとめるか?[犬塚 元]
 パネルディスカッション

第2回 リバタリアニズムの可能性
 リバタリアニズムは特定の道徳理論からよりも、ある種の価値観から出ている[森村 進]
 リバタリアニズムの可能性[広瀬 巌]
 パネルディスカッション

第3回 道徳理論としての利己主義
 利己主義の道徳理論は存在するのか[重田園江]
 道徳理論としての利己主義と合致の問題[押谷 健]
 パネルディスカッション

第4回 リベラリズムの歴史を考える
 リベラリズムはどのように理解可能か─三つの方法の紹介[馬路智仁]
 「自由」の語られ方─一九~二〇世紀の日本を中心に[趙 星銀]
 パネルディスカッション

第5回 政治思想における過去の受容と継承
 はじめに─政治思想における過去の受容と継承[古田拓也]
 一七世紀から一九世紀の日本政治思想における過去の受容と継承[柳 愛林]
 政治思想における過去の受容と継承─近代フランスにおけるタキトゥス受容の意義[関口佐紀]
 「書き手」とは何か─報告へのコメント[上村 剛]
 パネルディスカッション

第6回 熟議民主主義を再び考える
 「的確な位置づけ」と「熟議民主主義的な視座」─熟議民主主義研究の二つの物語[田村哲樹]
 規範的民主主義擁護論から熟議民主主義論を再考する[田畑真一]
 パネルディスカッション

あとがき[加藤 晋
 

関連情報

あとがきたちよみ:
『政治哲学者は何を考えているのか?――メソドロジーをめぐる対話』 (けいそうビブリオフィル 2024年2月20日)
https://keisobiblio.com/2024/02/20/atogakitachiyomi_seijigakushahananiwokanngaete/
 
書評:
福間聡 (高崎経済大学教授) 評「上半期の収穫から」 (『週刊読書人』 2024年7月26日)
https://dokushojin.net/news/666/

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