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朱雀門の写真

書籍名

歴史文化ライブラリー444 古建築を復元する 過去と現在の架け橋

著者名

海野 聡

判型など

272ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2017年2月20日

ISBN コード

9784642058445

出版社

吉川弘文館

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

古建築を復元する

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2019年10月31日の深夜、首里城が焼け落ちた。そのニュースは沖縄だけではなく、日本中の人の心を痛めたことは記憶に新しい。一方で、首里城正殿が「復元建物」であることを火災に関連する報道で知った人も少なくない。この首里城正殿は第二次世界大戦の中で失われたのち、1992年に再建されたものである。この首里城のように、遺跡で「復元建物」を目にする機会は多いだろうが、こうした「復元建物」がどのように造られるのか、その裏側を知る人は少なかろう。
 
この復元建物はあたかも、往時の建物そのものであるかのような錯覚に陥ってしまう危険性もはらんでいる。復元建物は現代建築であり、100%正しいことはないということを忘れてはならない。同じ遺跡でも復元設計者によって、全く異なる形になることさえある。こうした妄信を避けるためには、見る人のリテラシーが求められ、それには復元された過程を知るのが第一である。
 
首里城の場合は戦前の調査成果があったので、復元に必要な情報も多かったが、例えば縄文時代の竪穴建物や高床倉庫などではそうはいかない。同じく日本には古代の宮殿建築も残っていないが、平城宮では第一次大極殿や朱雀門などが復元されている。発掘調査で分かるのは柱を立てた穴や柱の下に置かれた礎石等、限られた情報だけである。これらが復元建物の出発点であるが、これと復元建物をすぐには結び付けられないであろう。考古学や建築史学の専門家であっても、両方を知らなければ理解は難しい。
 
本書はこうした発掘調査で得られた成果をもとに、どのようにかつての建物の姿を考えていくかという過程を紐解いたものである。そのためには発掘調査と木造建築の基礎知識が必要であるため、前半部で紹介している。そのうえで、竪穴建物・寺院建築・宮殿の復元の実例を通して、復元にいたる学術的プロセスを紐解いている。この復元のプロセスの理解こそ、復元建物の裏側を見る醍醐味であり、遺跡との真摯なかかわり方でもある。これは日本に限った話ではなく、イギリスでも実験考古学的に住居が復元されているし、中国や韓国でも宮殿や寺院の復元が進んでおり、遺跡における復元建物は共通の課題である。
 
この復元を発掘調査の成果などの与えられた「前提条件」から様々な復元の形が導かれるが、検討過程を学術的に位置づけることで、「復元学」という新しい学問領域を拡大している。「復元学」に興味を持った方は『文化遺産と〈復元学〉』(海野聡編、吉川弘文館、2019年) を手に取ってもらいたい。

 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 准教授 海野 聡 / 2020)

本の目次

復元の世界へのいざない―プロローグ
古建築を知る (古建築の基本構造/建築各部の構造/さまざまな建築形式と平面)
建物の痕跡を見る (建物のさまざまな基礎構造/建物に付随する発掘遺構/出土遺物)
発掘遺構と建物をつなぐ (復元のフロー/復元をサポートする資料/発掘遺構から復元建物へ)
復元の裏側をのぞく (宮殿を復元する―平城宮第一次大極殿・朱雀門/寺院を復元する―四天王寺/集落を復元する―登呂遺跡)
復元建物の楽しみ方とこれから―エピローグ

関連情報

受賞:
第5回 古代歴史文化賞 優秀作品賞 (古代歴史文化普及協議会 2017年11月)
http://kodaibunkasho.jp/5th_award/5-03.html
 
書評・紹介文:
書評 (『関宿まちなみ研究所』ホームページ 2021年2月23日)
https://sekijukulabo.com/2021/book20210222/
 
新刊紹介 光井 渉 (『建築史学』71号 2018年9月)
http://www.sahj.org/index.php?lang=jp&snd=3&trd=71
 
海野 聡「復元建物の見かたと「復元学」のすすめ」 (『本郷』129号 2017年5月)
http://www.yoshikawa-k.co.jp/news/n23089.html
 
古建築復元、入門に - 奈文研研究員が著書 (『奈良新聞』 2017年5月10日)
https://www.nara-np.co.jp/news/20170510090708.html

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