東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に雲状の赤い模様

書籍名

岩波新書 森と木と建築の日本史

著者名

海野 聡

判型など

264ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2022年4月20日

ISBN コード

9784004319269

出版社

岩波書店

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

森と木と建築の日本史

英語版ページ指定

英語ページを見る

われわれの身の回りには木製品は数多く存在する。いっぽうで、その木がどこから来たか、考えたことはあるであろうか。こと巨大な歴史的建造物には巨木が用いられており、それを構成する材料と木の関係は深い。とりわけ日本では丸太から材木を切り出す木取りやヒノキ・ケヤキなどの樹種のこだわりは、構造的な合理性を超えて、固有の文化を形成している。同時に巨木信仰やそれに基づく儀礼的な運搬もみられ、諏訪大社の御柱祭などは著名であろう。これらが象徴的に取り上げられることはあっても、材料自体の流通、ましてや山における森林の育成に目が向けられることは皆無である。そこで本書では日本の歴史的建造物と関係の深い木を中心に扱い、その伐出・流通・加工、そして森林の育成という資源サイクルの視座をもって論じた。
 
木材のなかでも大径材・長大材、あるいは両者を兼ねた大径長大材には大木が必要であり、法隆寺をはじめとする古代建築にはこの大径長大材が多く用いられている。これは豊かな森林環境に支えられた結果であり、森林環境を映す鏡でもある。対して中世には巨木の確保に苦労しており、森林の荒廃も透けて見える。また日本の固有種であるヒノキは建材に適しており、多くの歴史的建造物に用いられているが、中世以降、別の樹種の使用も見える。またヒノキの植生限界を超えた東北地方ではクリやスギが用いられており、樹種と地域性の関係が見える。またヒノキの有用性は中国にも知れ渡っており、輸出されている。逆に中国からの輸入材が床の間廻りの部材として珍重された様子も見え、木から東アジアの交流の歴史が見えることもある。
 
戦乱を経た近世には、各地で森林保護も打ち出されており、持続可能な開発目標も定められた。海に囲まれた琉球では船に使う巨材も必要であり、地域の事情に応じた林政もなされており、森林と人間活動の共生も見える。そのいっぽうで現代は外国産材の輸入が増加したことで、国産材の使用が低迷に陥り、林業は低迷している。その結果として、森林の管理がおろそかになってきている。木は時間を経ることで再生するため、国産の木の使用促進によって、伐採・利用・植林という資源循環を目指すことも可能である。
 
これらの森と木と建築の歴史は森林と人間との共生の歴史でもあり、Sustainableな概念との親和性も高く、まさに日本が世界に誇る文化遺産の理念である。時間を経ることで再生可能な木とそれをはぐくむ森について、本書を通して目を向けてもらいたい。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 准教授 海野 聡 / 2022)

本の目次

序章 日本の森林と木の文化
 
第一章 木と人のいとなみ
 一 森林と人のかかわり
 二 生活のなかの木材と森林の変化
 三 木の特性を知る
 四 木を加工する
 
第二章 豊かな森のめぐみ――古代
 一 豊富な資源が可能にした大量造営の時代
 二 産地から現場まで――どのように運ばれたか
 三 適材適所の利用――各地の事例から
 四 木の特性を熟知していた古代人
 
第三章 奪われる森と技術のあゆみ――中世
 一 巨材の減少――大仏殿造営からわかる資源枯渇
 二 進む利権化
 三 樹種を使い分ける
 四 革新的な道具の登場
 五 海をわたる木材
 
第四章 荒廃と保全のせめぎあい――近世
 一 消極的保全から積極的保全へ――資源保護の模索
 二 大火がもたらした流通の変化
 三 広がる樹種の選択
 四 信仰を受け継ぐために――御杣山と神宮備林
 五 巨材の探求と技術革新
 
終章 未来へのたすき――近代から現代
 一 今もつづく運搬の苦労
 二 木材不足から紡ぐ森林へ
 三 おわりにかえて
 
あとがき
主要参考文献
図版出典一覧

関連情報

書評:
金子拓 評「木を育て再利用する意義」 (読売新聞 2022年7月24日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20220725-OYT8T50064/
 
網野禎昭 評「歴史的建造物に資源活用を学び、森と社会の行く末を案じる」 (建築討論 2022年7月1日)
https://medium.com/kenchikutouron/%E6%B5%B7%E9%87%8E%E8%81%A1%E8%91%97-%E6%A3%AE%E3%81%A8%E6%9C%A8%E3%81%A8%E5%BB%BA%E7%AF%89%E3%81%AE%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%8F%B2-bd05800b4970
 
夕刊フジ 2022年6月21日
 
橋本麻里 評 本ナビ+1「日本建築史をアップデート」 (産経新聞 2022年6月18日) 
https://www.sankei.com/article/20220618-L7QUJM4A2FLFFBZ6NSNMRHUU2Q/
 
話題の本 (週刊エコノミストオンライン 2022年6月17日) 
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220614/se1/00m/020/076000d
 
聖教新聞 2022年6月9日
 
田中大喜 評「田中大喜の新書速報」 (朝日新聞 2022年6月4日)
https://book.asahi.com/article/14638340
 
永江朗 評 書評コーナー (NHKラジオ深夜便 2022年5月15日)
https://www4.nhk.or.jp/shinyabin/x/2022-05-15/05/67776/3740280/
 
書籍紹介:
書く人「循環考えるヒント 『森と木と建築の日本史』 東京大大学院准教授・海野聡さん (39)」 (東京新聞 2022年7月30日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/192700
 
文化の森「日本の建築と森林、関係の変遷 海野聡准教授が新書」 (毎日新聞 2022年5月29日) 
https://mainichi.jp/articles/20220529/ddm/014/040/024000c
 
講座:
NEW 「森と木と建築の日本史 全3回 (海野聡)」 (朝日カルチャーセンター名古屋教室/オンライン可 2023年1月17日、2月21日、3月28日)
https://www.asahiculture.jp/course/nagoya/af090d00-2906-587e-c8fa-63423f1d4ba9

このページを読んだ人は、こんなページも見ています