東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

木造建築構造の図

書籍名

図説 日本木造建築事典 構法の歴史

著者名

坂本 功 (総編集)、大野 敏、大橋 好光、腰原 幹雄、後藤 治、清水 真一、 藤田 香織、 光井 渉 (編)

判型など

584ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2018年12月5日

ISBN コード

978-4-254-26645-0

出版社

朝倉書店

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図説 日本木造建築事典

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建築学は、建築の理論や歴史、耐震などの構造、温熱・音響などの環境、そしてそれらを束ねて実際に建物を作り上げるための設計や生産といった、建築に関わる凡そ全てが集まった学問領域です。日本では工学部や美術学部で研究や教育が行われますが、前提となる基礎知識の幅が広く、力学を扱う分野もあれば、社会学、美術史の知識が求められる分野もあり、海外では専門分野に応じて文学部や工学部に分散していることも少なくありません。日本の建築学は総体として文理融合を実現していますが、これは異なる専門性と価値観を持つ人々が共に学び、協働するわけで、容易ならざることです。そして、そこにこそ価値があるといえます。本書は、文化的側面と工学的側面の双方から建築を捉えることを意図し、歴史の専門家と構造の専門家が協同して編著にあたりました。日本の建築学の優れた特徴が現れているといえます。
 
本書の前日譚は、阪神淡路大震災にあります。1995年に起きた兵庫県南部地震は、神戸を中心に甚大な被害を及ぼし、その被害は阪神淡路大震災と名付けられました。本書が対象としている木造建築も大変多く被災し、この復興の過程で、文化財などを扱う建築史の専門家と耐震を専門とする構造の専門家が、緊密に連携する必要が生じました。本書の編著者の多くは、在職中あるいは専門教育の過程で阪神淡路大震災を経験し、その被害調査や復旧に携わっています。建築史と構造の専門家の共同作業が実現し、その後も文化財建造物の耐震診断や構造補強が行われるようになるなど、日本の木造建築の大きな転換点になりました。
 
副題にある「構法」という言葉は、建築の構成方法や作られ方を意味します。「構法の歴史」といっても、本書は通史ではなく木造建築とその部位、生産組織や道具、自然災害から構造補強に至るまで様々な事柄を独立に扱っています。対象とする内容は、日本の木造建築のほぼ全てであり、時間的には1,300年以上の幅を持っていますので、一つずつの事柄については簡潔に図や写真を用いて解説することを意識しています。現在は、個別の事柄や建物について調べる手段は沢山ありますが、そもそも何があるのか、ということを知る必要はあります。20世紀末の巨大地震を経験した専門家が、21世紀初頭に日本の木造建築を考える上で必要と考え選出した事柄を通じて、木造建築の世界を覗いてみてください。思わぬ発見があるかと思います。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 藤田 香織 / 2023)

本の目次

序 章 構造から見た日本の木造建築【編集:坂本 功】
0.1 軸組構法の変遷[坂本 功]
 0.1.1 軸組構法の構造形式
 0.1.2 掘立柱
 0.1.3 礎石建
 0.1.4 耐力壁としての土壁
 0.1.5 長押による半剛節ラーメン
 0.1.6 貫による半剛節ラーメン
 0.1.7 筋かい入り
 0.1.8 面材張り
0.2 屋根と軒の支え方[坂本 功]
 0.2.1 屋根の支え方
 0.2.2 軒の支え方
 0.3 伝統構法の地震・台風被害[坂本 功]
 0.3.1 歴史的被害
 0.3.2 阪神・淡路大震災とそれ以降の被害
0.4 構造・耐震補強[坂本 功]
 0.4.1 補強の略史
 0.4.2 最近の補強例
 0.4.3 伝統構法の補強と新築の問題点
     
第1章 社寺建築の発達1-仏堂[編集:清水真一]
1.1 軸 組
 1.1.1 掘立柱から礎石建へ[島田敏男]
 1.1.2 身舎・庇による構成
 1.1.3 頭貫の構法
 1.1.4 長押による軸組
 1.1.5 床 組
 1.1.6 貫の導入[上野勝久]
 1.1.7 筋かいの採用
 1.1.8 懸 造
 1.1.9 見せる架構
 1.1.10 建登せ柱の架構
1.2 小屋組と軒
 1.2.1 化粧屋根裏の基本構造[熊本達哉]
 1.2.2 天井裏の架構
 1.2.3 双堂の屋根
 1.2.4 野屋根の成立[清水真一]
 1.2.5 桔木の導入
 1.2.6 束立ての小屋組
 1.2.7 二重小屋構造
 1.2.8 小屋筋かいの使用
 1.2.9 小屋貫の導入
 1.2.10 桁行小屋梁の出現 (小屋組の変化)
 1.2.11 和小屋の発展
 1.2.12 組 物[熊本達哉]
 1.2.13 垂 木
 
第2章 社寺建築の発達2-神社本殿・塔・門ほか[編集:大野 敏]
2.1 神社本殿
 2.1.1 神社本殿建築の特異性[豊城浩行]
 2.1.2 身舎庇構造と固有形式
 2.1.3 複合化の進展と屋根形態の複雑化[豊城浩行/渡邉 (山本) 薫子]
2.2 塔
 2.2.1 日本における木造仏塔の基本形式とその起源[大野 敏]
 2.2.2 層塔の構造とその変化
 2.2.3 木造檐塔の構造:唯一の遺構―談山神社十三重塔
 2.2.4 宝塔・多宝塔の構造[大野 敏/岡 信治]
2.3 門
 2.3.1 二重門[箱崎和久]
 2.3.2 楼 門
 2.3.3 単層門[春日井道彦]
2.4 その他
 2.4.1 門以外の楼造[金子隆之]
 2.4.2 鐘 楼
 2.4.3 校 倉[金子隆之/清水陽芳]
 2.4.4 板 倉[金子隆之]
 2.4.5 回廊・築地
 
第3章 住宅系建築の構造[編集:光井 渉]
3.1 縄文・弥生・古墳時代の建築構法[清水重敦]
 3.1.1 縄文・弥生・古墳時代建築の類型と共通性
 3.1.2 構法上の特徴
 3.1.3 歴史時代へ
3.2 農家建築の構法
 3.2.1 棟持柱構造と垂木構造[光井 渉]
 3.2.2 扠首構造
 3.2.3 上屋と下屋
 3.2.4 構法の進展:柱の移動
 3.2.5 構法の進展:構造のブロック化
 3.2.6 構法の進展:軸組と小屋組
 3.2.7 曲家 (接合の構法)[平山育男]
 3.2.8 多層化の構法
3.3 町家建築の構法[光井 渉]
 3.3.1 農家・武士住宅・城郭と類似する構法
 3.3.2 側壁と通柱を用いた構法
 3.3.3 高層化の手法
3.4 各種住宅建築の構法
 3.4.1 貴族と僧侶の住宅[山口俊浩]
 3.4.2 書院造[大和 智/光井 渉]
 3.4.3 武家住宅[御船達雄]
 
第4章 城郭建築の構造[編集:後藤 治]
4.1 天守・櫓[後藤 治]
4.2 城郭の門と塀[箱崎和久/西山和宏]
 4.2.1 城 門
 4.2.2 塀
4.3 各部構法
 4.3.1 石 垣[後藤 治/二村 悟/澤田浩和]
 4.3.2 壁[澤田浩和]
 4.3.3 石 落
 
第5章 各部構法の変遷[編集:後藤 治]
5.1 屋 根[黒坂貴裕]
 5.1.1 瓦
 5.1.2 植物系:樹皮葺
 5.1.3 植物系:茅葺
 5.1.4 植物系:板葺
 5.1.5 その他の葺材
 5.1.6 下地構法,軒裏の納まり
5.2 壁[平井俊行]
 5.2.1 土 壁
 5.2.2 板 壁
 5.2.3 その他の壁
5.3 開口部
 5.3.1 建 具[後藤 治]  
 5.3.2 茶室の開口部[後藤 治/澤野堅太郎/菅澤 茂]
5.4 基 礎
 5.4.1 掘立柱と礎石[箱崎和久]
 5.4.2 基壇とその構法
 5.4.3 土 台[後藤 治]
5.5 接合部・金具
 5.5.1 継手,仕口[源 愛日児]
 5.5.2 接合部金具:釘・鎹[鳴海祥博/鈴木徳子]
 5.5.3 装飾用金具[窪寺 茂]
 5.5.4 扉金具
 
第6章 建 築 生 産[編集:後藤 治]
6.1 生産組織[山之内 誠]
 6.1.1 営繕組織
 6.1.2 工匠 (木工)
 6.1.3 その他の工匠
6.2 設計・施工方法
 6.2.1 模 型[山之内 誠]
 6.2.2 図 面
 6.2.3 枝割,六枝掛け
 6.2.4 木 割
 6.2.5 柱割と畳割
 6.2.6 論治垂木,規矩
 6.2.7 番 付[清水真一]
6.3 木の建築をつくる主要道具[渡邉 晶]
 6.3.1 技術と道具
 6.3.2 スミツボ (墨斗) とサシガネ (曲尺)
 6.3.3 オノ (斧)
 6.3.4 ノミ (鑿)
 6.3.5 ノコギリ (鋸)
 6.3.6 カンナ (鐁・鉋)
     
第7章 明治以降の木造建築[編集:大橋好光]
7.1 木造建築構法の近代化[源 愛日児]
 7.1.1 洋風技術の導入
 7.1.2 明治前半期の洋風木造建築
 7.1.3 学士建築家の洋風木造建築
 7.1.4 木造建築の耐震化
7.2 木骨石造・木骨煉瓦造[福濱嘉宏]
 7.2.1 木骨石造・木骨煉瓦造の概要
 7.2.2 木骨石造
 7.2.3 木骨煉瓦造
 7.2.4 木骨コンクリートブロック造
 7.2.5 木骨石造・木骨煉瓦造の土着的な流れ
7.3 伝統構法から軸組構法へ[大橋好光]
 7.3.1 モデュール
 7.3.2 基 礎
 7.3.3 架構・軸組
 7.3.4 接合部
 7.3.5 壁の構法
 7.3.6 屋 根
7.4 木質プレハブ構法・ツーバイフォー構法[大橋好光]
 7.4.1 木質プレハブの誕生
 7.4.2 木質プレハブの特徴
 7.4.3 木質プレハブとツーバイフォー構法
 7.4.4 ツーバイフォー前史
 7.4.5 ツーバイフォーの登場
 7.4.6 現代のツーバイフォー構法
 7.4.7 プレハブ住宅の危機と回復
7.5 木造軸組構法の新しい展開[大橋好光]
 7.5.1 べた基礎の普及と立ち上がり高さ・厚みの増大
 7.5.2 ねこ土台構法と樹脂製・金属製の束の普及
 7.5.3 機械プレカットの伸張
 7.5.4 高性能接合金物の普及と構造金物の登場
 7.5.5 パネル化
 7.5.6 エンジニアードウッドの普及
 7.5.7 特殊な架構
7.6 大規模木造建築[腰原幹雄]
 7.6.1 新興木構造 (1900-50)・集成材構造初期 (1950-60)
 7.6.2 第一期黄金期 (1950-60)
 7.6.3 復権期 (1980-90)
 7.6.4 木質ラーメン架構 (1990-)
 7.6.5 展開期 (1990-2000)
 
第8章 現代の伝統構法[編集:藤田香織/大野 敏]
8.1 災害と木造建築
 8.1.1 地 震[藤田香織]
 8.1.2 地震津波
 8.1.3 台 風
 8.1.4 木造建造物の劣化[青木繁夫]
8.2 修理技法
 8.2.1 仮設の技法[武藤正幸]
 8.2.2 解体の技法[野尻孝明]
 8.2.3 基礎の修理技法
 8.2.4 軸部・軒の修理技法[武藤正幸]
 8.2.5 小屋組の修理技法
 8.2.6 屋根の修理技法[野尻孝明]
 8.2.7 土壁の修理技法
 8.2.8 塗装の修理技法[武藤正幸]
 8.2.9 保存科学[青木繁夫]
8.3 構造実験と理論解析
 8.3.1 柱[藤田香織]
 8.3.2 接合部[竹村雅行]
 8.3.3 壁 体[藤田香織]
 8.3.4 組 物
 8.3.5 床,屋根,天井[腰原幹雄]
 8.3.6 全体系 (常時微動測定および水平加力試験)[前川秀幸]
8.4 構造補強の原理と実例
 8.4.1 長期鉛直力 (1):東大寺金堂[西澤英和]
 8.4.2 長期鉛直力 (2):清水寺三重塔
 8.4.3 短期水平力[河合直人/山﨑 泉]
 8.4.4 鉛直構面の補強事例
 8.4.5 水平構面の補強事例
 8.4.6 免振・制振の事例
8.5 伝統木造の再現と新造
 8.5.1 平城宮朱雀門の再現[木林長仁/春日井道彦]
 8.5.2 薬師寺大講堂の復原[西澤英和/山本克巳]
 8.5.3 大洲城の復元[前川 康]
 8.5.4 永明院五重塔の新造[花里利一]
 
事 項 索 引
建造物名索引
 

関連情報

著者インタビュー:
未来の建築構造に役立つ“物語”を探究。幾多の自然災害に耐えた歴史的木造建築の構造特性、耐震性を対象に工学的資料を蓄積 (Architect’s Magazine 2017年11月)
https://www.arc-agency.jp/magazine/3456
 
関連動画:
日経 予防インフラシンポジウム
東京大学大学院 藤田香織氏「日本の木造建築と防災の歴史」 (日経チャンネル 2023年9月1日)
https://channel.nikkei.co.jp/yobouinfra2023/yobouinfra2023_1315.html
 
<隈研吾 × 藤田香織> 国産材を語り合う動画「日本の木造の可能性~伝統の建築様式から今を知る~」【前編】 (MOCTION | YouTube 2022年11月10日)
https://www.youtube.com/watch?v=cfHvS0FHRuI
 
<隈研吾 × 藤田香織> 国産材を語り合う動画「日本の木造の可能性~伝統の建築様式から今を知る~」【後編】 (MOCTION | YouTube 2022年11月10日)
https://www.youtube.com/watch?v=gugzgy2_qUA
 
藤田香織「歴史と文化と工学:伝統的な木造建築と地震」(2017年度学術俯瞰講義「工学とは」第8回) (OCW UTokyo | YouTube 2020年4月20日)
https://www.youtube.com/watch?v=dokXOq1GLJw

ワークショップ:
NEW! Asian Dean’s Forum 2024: The Rising Stars – Women in Engineering Workshop  (National University of Singapore  2024年11月17-19日)
https://risingstarsasia.org/speaker_detail.php?id=71
 

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